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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第四章 ~海の旅人~
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『災害の大海蛇』①

大変お待たせいたしました。

改稿作業完了いたしましたので新部分の更新を再開します。

本筋は変わっておりません。今まで読んで下さっていた方はここから読んで頂いてもストーリーは繋がります。

細かい更新内容については文末に記載しております。

   第四章 ~海の旅人~


『災害の大海蛇』




 ナームペクタス号は風よりも速く、波を切って真っ青な海を突き進んだ。快速船の呼び名に恥じない快適な走りだ。だがルックたちの初めての船旅は、決して順調とは言えなかった。

 船が走り出してしばらくすると、リリアンが不調を訴えだしたのだ。


「吐き気がひどいわ。頭痛もする。これがクロックの言っていたひどい目っていうものかしらね。終始吐いてた人がいたというのも分かるわ」


 リリアンは淡々と、自分の症状をそう告げた。口ぶりは平気そうだったが、明らかに顔色は悪く、辛そうだった。

 ルックとルーンは食堂でリリアンの申し出を聞き、二人で彼女を部屋まで送った。部屋に入るとリリアンはベッドの前でうなだれて、ルーンを手招いて耳打ちをした。


「ルック、リリアンは私が診てるから、ルックはクロックたちと話してて」


 ルックは心配で付き添っていたかったが、ルーンにそう追い払われた。邪険にされたようで少し気を害したが、それよりもとにかく、いつも泰然としているリリアンの具合が悪いことが、気がかりで仕方なかった。


「ははっ。そう心配すんな。船酔いなんてのは珍しいもんじゃねえ。こんだけの人数で一人だけなら、少ない方なんじゃねえのか?」


 ブリッジでジェイヴァーに相談すると、そう言って笑われた。

 ロロも心配そうにしていたが、ジェイヴァーの言葉に不安を拭ったようだった。ルックも結局は心配するだけ無駄なのだと悟り、気にしないことにした。

 ナームは機関室に籠もりきりで、食事の間と就寝前にしか顔を見なかった。機関室では絶えず魔法を使っているようで、いつ見ても疲れ果てた表情だった。


 リリアンの不調は船旅に直接の影響はなかったが、問題は三日目の昼過ぎに起こった。


 昼食を終え、海を見にクロックとロロと三人でデッキに上がった。ドーン、ドーンと音を立てて進むナームペクタス号は、安定した走りをしていた。そのためデッキの上でもバランスを崩すことはなく、ルックたちは油断していた。

 船が何かにぶつかり、大きく揺れた。あまりに突然で、ルックは前のめりに倒れ込んだ。見るとクロックも尻餅をついていて、唯一手すりを掴んでいたロロだけがなんとか立っていた。


「地震?」


 言ってからルックは恥ずかしくて後悔した。ここは海の上なのだ。地震のわけはない。しかし幸い二人はルックの失言には注意を払わなかった。それよりも重大な危機が彼らの身に降りかかっていたのだ。

 デッキのへりにいたロロが、海を指差して怒鳴った。


「ルック、クロック! 海、何かいる!」


 その言葉に反応するように、ルックの肩からビーアが飛び上がった。そしてデッキからも飛び出て、海に向かって下降した。

 船の揺れが収まった。その途端、海がけたたましい水しぶきを上げ、一匹の海蛇が立ち上がった。


「嘘だろう?」


 クロックがぼやいた。

 ルックも同じ思いだった。海に立ち上がった海蛇は、ルックたちの遥か頭上に頭部があり、空でビーアに食いつこうとしていたのだ。

 ビーアは果敢にその海蛇に挑んでいた。しかし海蛇の巨体に比べると、ビーアは砂粒のような大きさに見える。


 海蛇はぬめりとした黒い体表を持ち、頭部には目がなかった。鼻も耳も見当たらない。ただおぞましい大きさの口だけが、ビーアを飲み込もうと広げられている。

 素早いビーアは海蛇を翻弄していたが、体の大きさに差がありすぎ、確実なダメージは与えられていない。


 船の揺れが収まったため、階段室を開けてジェイヴァーが出てきた。彼もブリッジの窓から大海蛇を見て、事態を把握していたようだ。


「お前らすぐに手すりに掴まれ! 船を猛加速させる!」


 それだけ言うとジェイヴァーは階段室に戻り、ブリッジに降りていく。ナームに指示をしにいったのだろう。

 ルックたちは言われた通り手すりに捕まった。

 するとすぐにジェイヴァーの言うとおり、船が加速した。猛加速と言うに相応しい加速だった。

 ルックたちがアレーでなかったら、手すりに掴まっていることもできなかったかもしれない。

 船はみるみると海蛇とビーアを引き離し、逃げ出した。


 離れてみると、海蛇の異常な巨大さが分かった。海上に出ている部分だけでも木のような高さだったが、それは海蛇の身体のほんの一部分に過ぎなかったのだ。


「ルック。ビーア、置いてきぼりだ。大丈夫か?」


 慌てた口調でロロに聞かれたが、ルックとクロックは大丈夫だと答えた。以前狩りに出たビーアを置いて離れたことがあったが、しっかりとルックたちのところに戻ってきたのだ。今回も大丈夫だろう。


「あれは奇形か? 黒の翼竜よりも大きいんじゃないか?」


 クロックが言った。ルックは黒の翼竜の姿を思い出し、確かに全長だけならあの蛇の方が大きいだろうと思った。


「そうだね。間違っても戦いたい相手じゃないね」


 ナームペクタス号はこの大陸で一番速い船だと、ジェイヴァーは豪語していたが、あれほどの巨体に追いかけられれば追い付かれるのではないかと思えた。

 ルックは切に、あの蛇が追いかけてこないことを願った。


 しばらくすると船は速度を落とし始め、ルックたちは船内に戻った。ブリッジにはルーンとジェイヴァーがいた。三人が降りてきたのを見ると、ジェイヴァーがすぐに問いかけてきた。


「お前ら無事か? あの蛇はどうなった?」

「ビーアが食い止めてくれてね。無事にまけたんじゃないかと思うよ。なあ、まさか海ってのは、あんな化け物がそこら中にいるってことはないよな?」


 クロックはすでに安心しきっているのか、おどけた口調でそんなことを言った。ルックはまだ緊張が抜けきらず、クロックのその大胆さをうらやましく思った。

 しかしジェイヴァーは油断のない真剣な表情でクロックを見る。


「そうだったな。お前らは海に縁のない生活をしていたんだ。あれのことも知らなかったんだな」


 まさかクロックの推測を肯定するのかと思ったが、それは違った。


「あれは半年くらい前から西の海で猛威を振るってやがるんだ。奇形だろうとは言われているが、なんの動物の奇形かは分からねえ。形から蛇って言われてるが、蛇には普通目があるはずだからな。

 あいつのせいで、海路がかなり危険になっちまって、俺たち船乗りには悩みの種なんだ。特にフエタラなんかだと、猿の被害もあったからな」


 アーティスでは物流は陸路がほとんどだったが、カンは海沿いに長く伸びる国なので、あの海蛇の脅威は甚大だったらしい。ルックはリリアンがララニアの宿で聞いたという、猿と蛇の話を思い出した。


「おいルック。猿みてえにお前があれをなんとかしてくれねえか?」


 ジェイヴァーは最後にそんな冗談を言ったが、とんでもない話だった。一瞬真に受けそうになったルックは、呆れた溜め息をついた。猿討伐や黒の翼竜の話が吟遊詩人に歌われたのを、ルーンが言いふらしていたのだ。

 ジェイヴァーの目には、明らかなからかいの色があった。


「今度また黒の翼竜に会ったら、お願いしてみるよ」


 ビーアは暗くなる前には戻ってきた。体のどこにも傷や凹みはなく、ルーンと二人デッキで待っていたルックの肩に止まると「ヒュー」と甘えたように鳴いた。実際ビーアの体が凹んだりをするのかは知らないが、損傷がないのは間違いなさそうだった。海蛇もうまくまいてきたようで、ルックもようやく安堵した。

 大海蛇を見られなかったことを残念がりながら、ルーンはリリアンの看病に戻った。交代でロロがデッキに出てきて、念のためビーアと見張りをしてくれることになった。

 そうしてひと息つけたので、ルックは船内に戻り、クロックと二人で食事を食べた。


「食べ終わったらロロと見張りを交代するよ。クロックも少し寝て、途中から見張りを交代してね」

「ああ。分かった。蛇が現れたら、まずはナームを起こせばいいよな?」

「うん、そうだね。多分またビーアが時間を稼いでくれると思うけど、なるべく迅速に動いてね」


 ルックはそんな話をしながら、年下の自分がクロックに細かい指示をするのは失礼ではないかと考えた。しかしクロックのことだから、しっかり話しておかないと不安だった。

 彼はルックの指示に気にした素振りは見せず、素直にうなずいた。

 クロックは母のディフィカにほとんど全てを任せて生きてきたのだ。ルックはそのことに思い至り、クロックのこれからの人生を少し心配した。

☆主な更新内容


名称変更

・闇のマナ→影のマナ

 闇の宗教との紛らわしさを回避するため変更。

・ドゥール(生物名)→ドゥーリ

 登場人物のドゥールとの紛らわしさを回避するため変更。

・硬化(鉄の魔法)→鋼化

 呪詛の魔法の硬化と名前が被っていたため修正。

・オルタ山脈→オルタ山地

 山脈という言葉の認識を誤っていたため修正。


改稿

・序章を大幅に変更。元の序章の前半を幕間「前日譚」にし本編の途中へ挿入。後半は一から書き直しました。それに伴い今まで一文で語られていたフォルの試験やジェイヴァーの死によるルードゥーリ化などをエピソード化しました。またジェイヴァーの死を盗賊によるものから奇形の熊によるものに変更しました。

・シュールの参加する青年会の裏設定を明記し、それにルックが参加するシーンを書き足しました。

・青の書についてのビースの語りを『小さな笛の音』から『青の書』に移動しました。

・ティナ軍の進行が遅れているエピソードを戦争の序盤に移動しました。

・ロロ以外の旅の仲間にもそれぞれ通称を追加しました。

・片腕目線のストーリーをひとまとめにしました。幕間「巨悪片腕(上)」としております。

・章や話のタイトルを見直しました。

・誤字脱字の修正、表記の見直しを行いました。

・登場人物紹介を一旦削除しました。

・その他説明の過不足などを調整しております。


加筆

・幕間「シュールの手記」を追加しました。

 ルックの成長をシュールの目線で語るお話です。

・幕間「姉と弟」を追加しました。

 リリアンの生い立ちとルックを大事に思う理由が垣間見えるお話です。

・幕間「最強の生命体」を追加しました。

 ドゥールとドーモンの出会いを書いたお話です。

・幕間「軍議」を追加しました。

 ビースとジルリーの外交戦のお話と、アーティス第二次大戦の解説回です。

・幕間「魔法剣士の恋」を追加しました。

 ウィン目線でのティナ周遊をコメディで書いたお話です。

・ロロを除く旅の仲間たちがそれぞれどのような想いで旅に出たのかを追記しました。

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