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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第四章 ~海の旅人~
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 度肝を抜く。

 後ろを振り返れば、そこにはあの少年がいた。この一瞬でどうやって回り込んだのか、小首をかしげてルックを見ている。


「どうしてつけてきてるの?」


 もしも少年がボルトの仲間だとしたら、少年もヒッリ教の人間だろう。ヒッリ教の内情などはもちろん知らない。だけど例えば闇の大神官のディフィカは、あの見た目で三百前後の歳だという。この少年が見た目通りとは言い切れない。

 そしてルックの尾行に気付いていたことや、瞬時に後ろを取られたことから、この少年はルックを遥かにしのぐ力の持ち主だとも考えられる。


 ルックは瞬時にそう判断し、適当な嘘をつくことにした。


「いつの間に後ろにいたの? まあいいや。さっきの君の話なんだけど、探しているのって、もしかしてボルトって人じゃないかな?」

「知ってたの? さっき何も言ってくれなかったのに」


 少年は素直に驚いた素振りだ。


「ああ、うん。さっきは仲間が一緒だったからね。彼女は今から僕がしたいことを、好きじゃないんだ」

「したいことって?」

「情報っていうのは、時にはどんな宝石よりも価値があるんだ。君みたいな子供だと買えないくらいね」

「あぁ、そういうことか。だから僕が大人と合流するのを待ってたんだね」


 ルックは内心、とっさに思い付いたにしては上手い言い訳だったと思った。あのティスクルスの管理人に思わず感謝したほどだ。

 少年はルックの嘘を疑わず、大人の元へ案内してくれることになった。


 道中少年はハンタクと名乗った。これから会いに行く大人はガラークという名前らしい。偽名の可能性もあるが、ルックは慎重にその二つの名前を記憶した。


 連れて行かれたのは安宿だった。木製の看板にはミーダミーヤの宿と書かれている。

 少年ハンタクはここで待つようにルックに言うと、宿の中に入っていった。

 一クランもしないで、中からハンタクと、太った大柄な男が現れた。大柄といっても、もちろんロロほどの身長はない。年齢は三十中頃に見える。黄緑色の髪のアレーだ。


「この人がボルトのことを知ってるみたいなんだ」


 この男がガラークなのだろう。ハンタクが男にそう説明していた。


「こんにちは。僕はルック。あなたがガラークですか?」


 ルックの確認に、いぶかしげな目で男はうなずいた。


「ハンタクに情報を売りたいのだと聞きましたが、どのような情報か確認してもいいですか?」

「まさか。先に情報を言うなんて考えられないよ。まずはそっちがどの程度の情報を持ってるか、確認させてよ」


 ルックはガラークにそう答えた。これはほとんど演技ではない。アーティス人の血が騒ぎ、ルックは真剣に交渉を始めたのだ。


「ほお」


 ガラークがにやりと笑った。目がルックの様子をうかがう様に鋭く光る。


「これは失礼。私たちは元々ボルトと行動を共にしていたのですが、ある目的のため十三の月にボルトだけがここに向かいました。そして先月、十五の月の五日に、彼が目的を達成したというところまでは確認が取れています。しかしその後の足取りがつかめていないんです」


 ルックはガラークが交渉の席についてきたと、敏感に悟った。頭を巡らせ、楽しい賭事を始める前のように、気持ちを高ぶらせる。


「これだからアーティス人は」


 しかしそんな気持ちに水を差すように、ハンタクがつぶやいた。どうしてアーティス人だと見抜かれたのか、ルックは得体の知れなさに戦慄を覚えた。だがそれはルックの邪推だったようだ。


「申し訳ございません」


 ガラークがハンタクに謝った。どうやら先ほどのつぶやきは、ガラークに向けてのものだったようだ。確かに強い信念(ガラーク)という名前は、アーティスの東部に多い名前だ。


「まあいいよ。それで、お兄さんの情報は役に立ちそうなものなの?」


 ハンタクは尊大な様子でガラークを許し、続けてルックに言った。


「うん、それなら役に立つんじゃないかな」


 本当はここで役には立たないと言って、引き下がることもできた。ハンタクの持つ得体の知れなさは、ルックに早く立ち去るべきだと思わせる。しかしここで交渉を打ち切るのは怪しすぎた。


「僕が知ってる情報は、その次の日のものです」


 ガラークががっかりしたような声で言う。


「それでは大した違いはありませんね」

「そうですか? 僕の情報はボルトが戦闘をしていたって話なんですけど、もしかしたらボルトがいなくなったのと関係があるんじゃないですか?」


 ガラークが期待外れだと言ってきたのは、情報の値を下げるためだ。そうルックは判断した。確かにたった一日違いの情報では、その価値は薄い。だがここで諦めるのは、わざわざ子供を尾行までした人間のやることとしては不自然だ。ルックは交渉を続けた。


「六日に戦闘ですか。それは確かに少し気になりますね。ならその情報を、銅貨三枚でもらい受けましょう」

「銅貨三枚か。僕としては金貨一枚くらいの情報だと思うけど?」


 ある程度の流れを組み立てながら、ルックは値上げに移った。もう少し情報の魅力を上げたかったが、あまり深く追求していくと、ルックたちの素性を知られかねない。ここら辺が妥協点だろう。


 ガラークはまだしもだったが、ルックはとにかくハンタクが不気味だった。

 明らかに三十中頃に見えるガラークが、たったの八つほどに見えるハンタクに気をつかっているのだ。ハンタクの身分が高いという可能性もあるが、仮に身分が高いとしても、さすがに八歳程度の子供をはばかるというのはおかしい。


「金貨一枚? それはいくらなんでも」


 ガラークは値下げをしようと口を開くが、鋭い声でハンタクがとがめた。


「ガラーク。時間は有限だ」


 冷静なその指摘は、とても小さな子供が放つものではない。

 大柄なガラークはそれに少し小さくなり、素直に懐から金貨を取り出す。


「ではこれで」


 ルックは金貨を差し出された際、驚いた顔を作った。ここは驚いて見せるのが妥当だ。それからいぶかしげにガラークを睨む。


「もらう前に一つ聞かせてほしいんですけど、あなたたちは何を目的にしてるんですか?」


 自然な流れで彼らの情報を引き出そうと、一歩踏み込んでみたのだ。


「僕が言ったのでなんですが、情報に金貨一枚は多すぎますよね? 後ろ暗い人には関わりたくないのですが」

「いや、決してやましいことがある訳では。私たちはある活動をしてまして、ボルトは数少ない同士なんです。ですからいち早く無事を確かめたいんです」


 ガラークが慌てて言うのに、ルックは彼らもヒッリ教だと確信を持つ。


「あなたたちの活動っていうのは?」

「それは……」


 ガラークがちらりとハンタクの様子をうかがう。しびれを切らしたのか、ハンタクがガラークの話を引き継ぐ。


「大罪人を追っている。この街に忍び込んだとの情報を得て、ボルトに駆けつけさせた」


 少年の口調にルックは焦りを覚えた。最初に声をかけてきたときとは、もう確実に違う口調だ。情報を聞き出したら自分を始末しようと考えたのかもしれない。


「大分大人びた子だったんですね。まあ、考えてみれば、こんな小さな子を連れて後ろ暗いことをしているわけはありませんね」


 ルックはハンタクの変わりように、大した違和感は感じていないと装って、情報を提供することにした。


「ボルトという人は、紹介所でボルトの真剣勝負って依頼を出していたんです。特に人数制限がある依頼じゃなくて、仲間がその依頼を見て、僕がおいしい依頼かどうかを調べに行っていたんです」

「紹介所? 調べに行っていたとは?」


 ガラークが尋ねる。


「紹介所っていうのは、アーティスでいうフォルキスギルドや、ミストスリ商会みたいに、アレー向けの色々な仕事を仲介しているところです。まあ登録制じゃないんで、少しイメージは違うと思いますけど。

 僕はボルトが他の誰かと戦うところを見て、勝てそうな相手かどうか調べに行っていたんです」

「なるほど。しかしまさか、先ほどの戦闘というのはそのことで? それなら大した情報だとは思えませんが」

「いえ。そこまでずるいことを言ってはいません。たぶんその戦闘は、その依頼のだったんだと思いますけど、あれは試合じゃなかったんです。

 正直に言うと、ボルトも対戦者も、僕なんかじゃとても計れない実力者だったから、あれで相手に怪我をさせない自信があったのかもしれません。だけどボルトはともかく、対戦者は本気でボルトを殺そうとしているように見えました。一度後ろを取った対戦者が、ボルトの背中に剣を突き刺そうとしたんです。鉄の魔法師とはいえ、さすがに後ろから攻撃されたら、どこを守ればいいかなんて分かりません。運良くボルトはそれを鉄皮で防いだようですけど。

 僕はその時点でそこから離れたんで、その後どうなったかまでは知りません。ただ、あなた方のお話を聞くと、大体の想像はつきますが……」


 ルックはすらすらとありもしない状況を語り、それに矛盾なく、相手が誤解をするような内容を盛り込んだ。

 ボルトの鉄皮は常識からは考えられない範囲を覆う。仮に後ろから突き刺されても無傷だっただろう。ただそれを知らなければ、その勝負を殺し合いだと判断するのが当然だ。だからこの情報が有益だと主張しても違和感はない。

 そう相手に思わせる狙いがルックにはあったのだ。

 しかしルックの狙いはこれだけではなかった。


「そのボルトの真剣勝負が出されていたという紹介所はどちらに?」

「うーん、僕が依頼を受けて来たわけじゃないし、どこかまでは分かりません。けど、依頼を受けた仲間が五日後にこの街に戻ってくる予定で、もしかしたらどこの紹介所か覚えているかもしれません。良ければ五日後、僕たちの宿まで来てもらえればまたお話ししますよ」


 万が一にもここで彼らとやり合わないため、ルックは五日という猶予を設けたのだ。そして五日後には、ルックたちはもう海の上にいるはずだ。

 ハンタクとガラークは、目線を交わして頷き合った。ルックの話が真実だと判断したのだろう。

 ルックは宿の名前を告げて、二人と別れた。

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