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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第一章 ~伝説の始まり~
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「ひどい! それじゃあ私とライトは、また置いてきぼりにされたって事じゃない」


 シャルグからここに残ったわけを聞かされたルーンは、ひどく駄々をこねて口を尖らせた。


「お前はフォルの資格も持っていない」


 シャルグは一言、それが全てだと言うようににべもなく言った。


「それならライトだってフォルなんだから、連れて行くべきなんじゃないの? そんな決まりきった逃げ口上じゃ騙されてあげないよ」


 ルーンはふくれっ面でシャルグを睨む。その目に少し面白がるような光を見つけて、シャルグはふっと笑むだけで応じた。


 今回の任務は、おそらくビースが考えていた以上に危険なものだ。いや、ビースは非常に切れ者なので、ビースが考えていたうちで最も危険なものだったという所だろうか。

 ルーンの魔法は強力で、時間のかかる戦闘では重宝することもあったが、それほど時間のかかる戦闘というものは多くない。軍同士の戦闘で、先に敵の動きがある程度予想できるようなら話も変わる。しかし少人数での戦闘では明らかに足手まといだ。

 ルーンもそれが分からないほど子供ではないので、この愚痴はシャルグを困らせて遊ぼうという腹なのだろう。

 ライトはシャルグの話に、少し暗い顔をしていた。ルックたち三人の身を案じているようだ。

 シャルグはそんなライトの頭に手を置いた。鮮やかな金色の髪は柔らかく、暖かみがある。


「僕たちはまだしも、シャルグはついていった方がいいんじゃなかったの? 僕たちなら二人でももう大丈夫だよ?」

「あー、ライト一人でいい子ぶってずるい」

「そんなんじゃないよ。ルーンはみんなが心配じゃないの?」


 真面目で冗談の通じないライトは、少し咎める口調でルーンに言った。ルーンは芝居がかった仕草で目をくるりと上に向けて言う。


「どうせ私はわがままな悪い子なの。でもね覚えておいて。私みたいのがいなきゃライトはいい子でもなんでもなくなるんだからね」


 大げさな発言をするルーンに、ライトはよく意味が分かっていないらしく首をひねっている。


 三人は仲間たちが戻ってくるまで、鉱山の詰め所に寝泊まりすることにした。大人数のアレーが泊まる詰め所なので、三人が増えるくらいは訳がなかった。シャルグはシュール以上に名が売れているので、少し目立つ場所を散歩するという条件だけで、まかないも分けてもらえた。シャルグは今までこの仕事に就いていたことはないが、噂通りの楽な仕事だと思った。ルーンはライトをからかうのにも飽きたらしく、腕相撲の賭け事の場所に行き、金を賭けずに男たち相手に勝負を挑んでいる。ライトも心配するだけ無駄だと悟ったのか、楽しそうにルーンの応援をしている。

 シャルグは二人が遊んでいるうちに、与えられた仕事を果たすため、鉱山の指示された道筋をのんびりと歩いて回ることにした。


 シャルグは暗殺者として生きてきた。元々は極力目立たないようにこなす仕事をしていたため、目立つようにすることが意外に難しいことを知った。長身のシャルグに、鉱夫たちはほとんどすぐそばに来るまで気付かないでいる。


「よう、黒い旦那。暇な仕事に飽きたら俺たちと遊ぼうぜ」


 シュールのことを旦那と呼んでいたアレーとすれ違った。名はシャラと言ったか。十代後半くらいの歳だろう。明るく闊達そうな、赤い髪の青年だ。


「いや、遠慮しておこう」


 シャルグはやんわりとそれを断る。


「人数が足りないんだ。考えといてくれよ」


 青年はそれだけ言って詰め所に戻っていく。

 ライトが嫌悪感を示したせいだけではなく、シャルグには実際賭け事には興味がなかった。元よりシャルグは他のどんな遊びごとにも興味を持ったことがない。ある意味で彼はライト以上に真面目な性格をしていた。


 何かを楽しもうとする心が理解できない。


 そう考えてふと、シャルグはフォルキスギルドの子飼いとして、暗殺業をしていたときのことを思い出した。思えば、暗殺者として大成していたものは、そういう人間が多かったように思う。


 見回りが終わって小屋に戻ると、ルーンは大人たちに混じって札遊びに興じていた。配られた三枚の手札を、一枚は手札に残し、一枚は捨て、一枚は場に置く。そしてまた二枚の札を山から引いて、それを六回繰り返し、最終的に場により強い役を作ったものの勝ちというゲームだ。数人で卓を囲んで行うもので、一巡ごとに賭け金をつり上げていくか、降りるかを決める。僅差で勝つほど取り分が上がる、人気の高い遊びだ。

 相手をしている男たちがどうやら真剣な顔つきなので、実際に賭けをしていると分かる。ライトは誰かにうまく言いくるめられたのだろう。嫌悪感は見せず、ルーンの手札をはらはらしながら見ている。

 もう一人、ルーンの後ろには先ほどシャルグを誘ってきたシャラが付いている。百種四百枚の札を使い、役の数も無数にある遊びなので、ルーンにそれを指導しているようだ。

 どうやら彼はシャルグに脈がないと見て、ルーンに白羽の矢を立てたらしい。ルーンの元金も、おそらく彼が出したのだろう。

 シャルグは静かにその場に近づき、シャラの肩に手を置いた。


「うわっ」


 シャルグが余りに静かだったためだろう。シャラは素っ頓狂な声を上げる。


「悪いな。シャラと言ったか? あまり派手なことはするなよ」


 シャルグは軽くシャラをたしなめる。シャラはまだ少し幼さの残る年齢だ。持ち前の若さで、明るく笑って舌を出した。


「ちょっとシャルグ、今いい所なんだから邪魔しないでよ」

「え、やっぱりルーン、これって良くないことなの?」

「そうだよ。私置いてきぼりにされたからグレてるところなの。お酒だって呑んじゃうんだからね」


 ルーンはすでにここでも皆と仲良くなっているようで、その言葉に複数人がげらげらと笑っていた。


「酒はよせ。シュールが怒るぞ」

「やったねシャラ。賭け事の許しが出たよ」


 シャルグはシャラにハイタッチをするルーンを見て、苦笑いしながらため息を吐いた。

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