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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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『妖魔と少女』①

   第三章 ~陸の旅人~


『妖魔と少女』




 彼らはそれから、街道の宿に向かうことにした。リリアンは話のできるルーメスを貴重な情報源と考えたようで、ロロも聞きたいことがあるのだという。暗い中で話しをする理由もなかった。


 街道沿いの宿は鳥の山亭という、変わった名前の宿だった。

 古ぼけた煉瓦造りの建物で、煙突からは煙が立ち昇っている。暖炉や調理場で火を使っているためだ。

 煉瓦は原料の土がアーティスでは取れない。主にティナやカン、フィーンが原産だ。だからアーティスでは煉瓦で丸々立てられた建物というのは珍しい。


 宿は清潔で、上品だった。ルックたちは宿に金貨五枚を支払うと、食事も頼まず部屋へ向かった。


 部屋は大部屋でそれなりの値段がしたが、ふんだんに燭台が使われ明るかった。入り口から見て左の壁に暖炉まであり、彼らの夜に冷えた体にはありがたかった。 まず彼らは大桶に水を注文し、ルーンが治水の魔法を張った。


 カンには上流階級以外ではテーブルや椅子を使う習慣がない。彼らは円になって床に腰を降ろした。床には大味な幾何学模様が描かれたカーペットが敷いてある。


「私の名前はリリアンよ。こっちの緑の髪の子がルーン。青髪がルック。黒髪がクロックよ。あら、あとこの子はアラクナクト・ビーア」


 ルーンが治水を完成させるのを待って、リリアンが簡単に自分たちを紹介する。クロックで紹介を終わらせようとしたとき、ビーアが抗議するように鳴いたので、最後のビーアは付け足すように言った。


「俺、ロロ。よろしく」

「ええ。よろしく。

 さて、それじゃあ早速、私たちから質問をしていいかしら」


 リリアンが確認すると、ロロは大きくうなずいた。

 明るいところで見ると、彼の肌の色は真っ白で、やはり今まで見たルーメスの色とは違った。瞳の色も紅くはなく、ごく普通の茶色い色をしていた。


「まず、ルーメスって言うのは人の言葉が分かるものなの?」

「違う。俺知る限り、俺だけだ」

「それならあなたはどうして人の言葉が話せるの?」

「ナリナラ、教えてくれたからだ」

「ナリナラ? 誰かの名前かしら?」


 ロロはそれにコクリとうなずく。

 ルーメスで人の言葉がしゃべれる存在を、ロロは自分のほかに知らないと言うので、ナリナラというのはルーメスではないのだろう。


「ロロはこっちの世界に来てから長いの?」


 ルックはそんなことを聞いてみた。黒の翼竜は瞬時に今の時代の言葉を理解し話し始めたが、彼の場合は例外だろう。普通に考えて、他の言葉を覚えるというのは簡単なことではない。


「そうね。私たちの世界にもフィーンのようにキーン語以外の言葉を使うところがあるわ。私は半月くらいフィーンにいたけど、彼らがフィーン語で話し始めたらほとんど理解はできなかったわ。だからあなたは結構前からこっちにいるんじゃないかしら」


 ルックの質問の意図を汲み取って、リリアンが詳しい補足を入れる。少し不思議そうにしていたロロが、得心したようにうなずく。


「俺は、食物庫に来るの、二度目だ。一度目のとき、一年と少し、いた」


 話の流れからして、食物庫というのはこちらの世界のことだろう。クロックがそれに目くじらを立てる。


「食物庫だって? 人間は穀物じゃないんだ。やっぱりルーメスなんてとんでもない悪じゃないか」


 棘のある口調で断言する。

 ルックにもクロックの感じる禍々しさは分からないが、さすがにその発言はよくないと思った。思わず非難の目をクロックに向ける。

 ロロもそれには不快感を示したが、すぐにため息をついて切なげな目をする。


「クロック」


 リリアンが冷たい声で口を開いた。ルックは針のむしろになるだろうクロックを哀れに思ったが、仕方がないことだと思った。

 しかしそんなクロックに、思いがけないところから助け舟が入った。


「ちょっと待って」


 ルーンがリリアンを制止した。

 ルーンはおしゃべり好きだが、まじめな話のときには邪魔にならないよう口をつつしむ美徳がある。自分のことを話し合いに向かない性格だと自覚しているのだ。だからリリアンはルーンが積極的に話しを先導しようとするのが意外だっただろう。ルックの目から見ても珍しいことだ。


「ねぇクロック。偏見や決め付けで一方的に嫌われるのってどんな気分だと思う?」


 ルーンはクロックの肩に治水の水を掛けながら落ち着いた声で問う。瞬きもせずに見つめてくる茶色い大きな瞳に、クロックは射抜かれたように動きを止めた。

 ルックには何のことない説得のように見えたが、効果は絶大だった。クロックはにわかに目を伏せて、「すまない」と一言つぶやいた。

 それを見たリリアンはクロックへの追求をやめ、肩をすくめて話を戻す。


「ロロはそんなに簡単にこっちと向こうを行き来できるの?」

「違う。一度でもこっち来る、珍しい。また向こう戻る、もっと珍しい」

「ロロはどうやってこっちの世界に来たのかしら。来たいと思って来たの? 質問ばかりで悪いけど、まだまだ聞きたいことはあるの。付き合ってもらえたらありがたいわ」


 リリアンは続けて聞いてばかりいるのを申し訳なく思ったようで、そう断りを入れる。

 ふと、リリアンのその質問に、クロックが体を強張らせた。ルックは視界の隅でそれを捕らえた。


「質問、別にいい。俺種族の中で嫌われ者。話しするの、楽しい。

 俺たち、こっちの世界、来たいと思う。向こう、枯れてて、食べるものない。みんな飢えてる。こっち食べ物、たくさんある」

「そっか、それで食物庫なんだね」

「そう。でも、こっちの世界来るのは、自由にできない。世界に歪みできて、それに飲まれると、こっち来る。逆も一緒」

「逆って、こっちの人が向こうに行くこともあるの?」


 ルーンが驚いた顔で聞いた。ロロはそれにコクリとうなずく。


「それが最近、歪み多くなった。だから俺、また飲み込まれてしまった」

「そうなの。それじゃあ全くの偶然って訳ね。どうして歪みが多くなったのかは知ってるの?」


 重ねて問うリリアンに、クロックが口を挟んだ。


「それより一度こっちに来たのになんでまた向こうに戻ったんだ?」

「違う。戻ったのも、巻き込まれただけ。俺たちの存在、こっちの世界に、歪み、生みやすい。ナリナラ、巻き込まれそうになった。俺、助けたかった。そのころ俺、まだ強くなかった。だから、巻き込まれた」


 ルックにはクロックが無理やり話題をそらしたように見えた。しかしリリアンはそれには気付かなかったようで、さらに質問を続ける。


「いろいろあったのね。

 あなたは私たちから見ると三階級目のルーメスのようだけど、強くなかったって言うのは、位が低かったってこと?」

「そう。当時俺、一番位低かった」

「位が違うって何が違うものなの?」

「ん? 速くなったり、力強くなる。これでいいか?」

「そうね。今の聞きかたは分かりにくいわね。位が変わるっていうのはどういうことなの?」

「ああ。神の祝福、度合い違う。位が違うと、全く違う。基本、上の位に、下の位逆らえない。力も魔法も、すごい強くなる」


 リリアンは大体それで聞きたかったことを終えたようだ。続けてルックが気になったことを聞いてみた。


「さっき倒したルーメスは位が下なんだよね? それならロロが従わせれば良かったんじゃない? もしかして肌が白いのと関係があるの?」

「おお、そうだ。お前、頭いい。肌白い、目茶色い、それはマナ少ないからだ。マナ少ないと魔法できない。肌傷付きやすい。だから、バカにされる」


 ルックは大体のことが理解できた気がした。

 ルーンとクロックにもそれ以上質問はないようだ。

 異界の異端者は、誰からももう質問がないことを見とめると、今度は彼から質問をしてきた。


「俺、ナリナラのこと、知りたい。誰か知らないか?」


 彼はたどたどしい言葉遣いで事情を語り始めた。

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