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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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 ルックたちは次の日、ガンベを発って北西へ進路を取った。ダルダンダまではまだ数日の距離があるため、これからしばらくは野宿になるだろう。ルックはクロックに自分の剣の力について話し始めた。

 クロックは生まれてこのかた、ほとんどディフィカの元を離れたことがなかった。ルックの剣の話にも、リリアンの強さにも、ルーンの治水や爆石にも、自分が世間知らずだったと思い知らされる。


「リージアって言うのも半端じゃないな。まあ、光の織り手だっていうのは知ってたけど、その剣といい、ビーアといい、俺の常識が全く通用しない。しかもそんな奴でさえ、これから会おうとしてるのの中にもっとすごいのが二人もいるんだ。信じられるか?」


 クロックは今度は自分がルックを驚かそうと、そんなことを言った。しかしルックはリージアからすでにそれを聞かされていたので、特に驚きはしなかった。ちなみにリージアは自分より四人優れた者がいると言っていたが、一人はテツで、もう一つはクロックの従う人たちらしい。なのでこれから会うつもりなのは二人なのだ。


「うそ? リージアってルックを一瞬でアーティーズに連れてっちゃったんだよ。そんな人がまだ他にもいるんだ」


 クロックの話に驚いたのはルーンだった。ルーンが驚いたのに気を良くしたクロックは、にやりと笑う。


「一体どんな奴なんだろうな。あのテツですら、フィーンの方でルーメスが来ないようにしている奴よりは、力が弱いんだ」

「えー、信じられないよ」


 リリアンはルーンとクロックのそんなやりとりを見て、ルックと目を合わせて微笑んだ。ルーンはかなり気づかいができる性格なので、クロックの気を良くしようと、あえて大げさに驚いているのだ。六つも年上のクロックはそのことに全く気づいていない。それがおかしく思えたのだ。

 荷車はルーン以外の三人が交代で引いていた。この中ではルーンの足が一番遅く、そうすることが一番効率的だったのだ。荷物が積まれ、布がかぶせられた上に、ビーアがちょこんと乗っている。

 彼らが進むのは、道のない草ばかりの平野部だった。それはこの先に町がないということを示している。きりがないほど続く平野は、確かにカンやヨーテスから見れば宝の山に見えるだろう。特に荒れた地の多いカンにとっては、アーティスとの国境は邪魔で邪魔で仕方がないだろう。


「リリアンはどこの出身なんだ?」


 出会ったばかりのため、一行の会話は尽きなかった。クロックがそんな質問をリリアンに投げかける。


「ヨーテスよ。小さい頃から旅をしているから、もうヨーテスにいない時間の方が長いでしょうけど。クロックはどこなの?」

「奇遇だな。俺も生まれはヨーテスらしい。といってもヨーテス人の血は流れてないけどね。ああ、父親のことは良く知らないから、もしかしたら流れてるかもしれないか」


 その日は丸一日歩き詰めだった。アーティスは大陸一小さな国で、歩きやすい平野の国だったが、それでもこうして歩くのはルーンにとっては酷な旅だった。一年前のスニアラビスからシェンダーまでの道程に比べれば短いのだが、ルーンの機嫌は悪くなり始めていた。そのくせルックが気づかって荷車に乗ったらどうかと尋ねても、ルーンは首を縦には振らなかった。

 ルーンにとっての一番の不満は、食事が毎回同じキラを煮た物だったことだ。五日目になると、ルーンはリリアンに他に食べられる植物はないのかと聞き始めた。しかしリリアンもそこまで植物に詳しくはなく、キラ以外には知らなかった。


「いい加減キラは食い飽きたぞ」


 ルーンの思いを汲んで、クロックがまず弱音を言った。クロックがルーンを気づかって言ったことは誰の目からも明らかだったが、ルーンが自分から弱音を吐こうとしないため、リリアンもルックもあえてクロックに同調した。


「アーティスって言うのは動物は少ないんだな。二日前くらいから見てない。狩りもできないよな」

「そうね。山か川でもあればいいけれど、ダルダンダまではどっちもないわね」

「じゃあビーアに頼んで、鳥を捕ってもらったらどうだ? 大抵の鳥よりは速いだろ」

「そっか。それは名案かもね。問題はビーアが思った通りに動いてくれるかだけど」


 ルーンを除く三人は、小休止の間にそんな話をした。問題はルックの言うとおり、ビーアが狩りをしてくれるかだが、三人は荷車の上にいる鉄の鳥を見た。


「ヒュー」

 三人の目線に答えるようにビーアが鳴いた。あまり気の進まないという感じだったが、ビーアはゆっくり飛び上がり、空へ向かっていった。


「移動しちゃって大丈夫かな?」


 ルーンが期待を込めた目でビーアを見送ると、そんなことを聞いてきた。それには誰も答えることができなかった。

 最悪の場合戻ってくればいいとクロックが提案したため、一行はしばらくそこで休んだあと、再び北西に向かって歩き始めた。その日の晩、四人が食事と野宿の準備を始めようとした頃、一羽の子鷹を咥えたビーアがよろめきながら帰ってきた。小鳥大のビーアが、体の五倍はあろうかという鷹を咥えているのだ。良くここまで飛んでこられたものだ。

 子鷹を見たとき、思わず四人は感嘆の声を漏らした。ここまで的確に彼らの意志を汲んでいるとなると、やはりビーアはただの魔法具ではないのだと確信を持った。

 クロックとルーンは、早速とばかりに子鷹の皮を剥ぐ作業に取りかかった。クロックはこういったことに手慣れているようで、血抜きから肉にするまでの作業をあっという間に終わらせた。子鷹の肉は堅かったが、ルーンがドーモンから習った料理の腕を振るい、かなり美味しい食事になった。


 次の日の道程は足取りも軽く、ついにダルダンダが遠くに見えてきた。


「やっと見えてきた!」


 嬉しそうにルーンが言う。ルーンは見えているのだから、もうすぐに着くと考えたのだろう。ルックはまだ一日は歩かなければならないことを、ルーンに告げるべきか躊躇った。

 ダルダンダが近付くにつれ、クロックの表情が硬くなってきた。ルックはそれに気付き、クロックに訳を問う。


「いや、ダルダンダにはどんな奴がいるのかなって思ってたんだ」

「不安なの?」

「あぁ、不安といえば不安だな。世界の歪みに手を加えられるような奴なんだ。もし敵意を向けられたら大変なことになるだろ?」

「けど世界を守ってる人なんだから、いい人なんじゃない?」

「はは、そうだといいんだけどね」


 どんな奴がいるのかと言いつつ、クロックはダルダンダで歪みに力を加えている者に、ある程度予測をつけているようだった。

 ルックは分かっているようなのにその正体を言おうとしないクロックを不思議に思った。


 ビーアはその日も野鳥を捕ってきてくれて、夕ご飯はそれなりの食事になった。鳥と合わせれば、嫌気がさしていたキラも存外悪くはなかった。

 明日にはダルダンダに着くだろう。ルックはそう予測していた。依頼で首都を離れることの多かったルックには、そのくらいの見当は付いた。

 ダルダンダに近付くと、辺りは草原ではなく、岩の目立つ硬い土地になって行った。キラが穫れることもなくなり、リリアンが荷車に積んでおいた食糧と、ビーアの狩ってくる野鳥が彼らの胃に入っていった。


 ダルダンダは、荘厳な山だった。草木は一切生えてなく、ごつごつした岩肌は崩れやすい。クロックが言うには辺りが草原でなくなった辺りから、すでにダルダンダという岩山の一部なのだそうだ。

 緑のない赤灰色の山には、ほとんど生物は存在しない。八合目辺りからはほとんど絶壁を登らなければならず、アーティーズ山同様、今まで登頂した人はいないという。柔らかい石の山肌は登るのには危険すぎるのだ。


「誰も登山用の道具なんて持ってないわよね。ここら辺にいるって言う呪詛の魔法師が、麓の方にいることを祈るわ」

「そうだね。道具があったって登りたい山じゃなさそうだよ」


 ルックはしゃがんで岩の性質を確かめて、心からリリアンに賛同した。もろく、崩れやすい岩だった。


「とりあえずは山を回ってみるか。それとも二手に別れるって手もあるな。どうする、リリアン?」


 クロックは年長者だったが、実質このメンバーのリーダーはリリアンだった。当たり前のようにリリアンに指示を仰ぐ。


「そうね。一番の懸念は食糧ね。ビーアのおかげで大分余らせてはいるけど、正直早く終わらせるに越したことはないわ。荷車はここに置いて、ルーンとビーアが外周を回って、私とクロックとルックで山に入って行くのはどうかしら」


 リリアンもクロックが不安を感じていることに気付いていたのだろう。そしてリリアンは、外周には目指す人はいないだろうと踏んでいるようだ。なので危険な登山を力のある三人で行おうと考えたのだ。

 クロックはやはりこのダルダンダでのことを、本気で警戒しているらしい。リリアンの意見に反論はなかった。

 ルックにももちろん異論はない。ただ、ルーンを一人にするということは少し不安だった。

 ルーンは自分が登山に耐えられないことは重々承知だ。一行はリリアンの決断通り、二手に別れることになった。

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