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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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『空の旅人』①

   第三章 ~陸の旅人~


『空の旅人』




 二股の木でクロックを迎え、ルックたち一行は四人と一羽になった。


 ルックは世界を見て回りたいという想いから旅に出た。そして世界の歪みを抑える術者への連絡と、片腕の討伐、ルーンを救う手立てを探すという目的を得た。


 リリアンには大きな目標はなく、ルックと一緒にいるために旅人に戻った。リリアンにとってはルックでなければいけない理由はなかったが、ルックとの旅以外にしたいこともなかった。


 ルーンはアーティーズに強い思い入れがあったが、ルックについて行く以外に選択肢がなかった。また自分の中にいる誰かがそれを強く望んでいるのが分かった。


 ビーアはどうやら意志を持っているようだったが、時の中にいる私にもビーアの心は覗けなかった。


 クロックは母の過ちを取り戻すため、自分自身に使命を課して旅をしていた。しかしルックと出会ったことで、ただ単に旅を楽しみたいという理由も強くなっていた。


 彼らの旅の出だしは波乱もあったが、滑り出しとしてはそこまで悪くはなかった。全員の目的が反発することもなく、性格や価値観もそれほどのずれはなかった。しかし出会って数日では当たり前だったが、ルックとルーン以外、まだ完全に仲間と言えるほどの間柄とは言えなかった。ルックとリリアン、それからルックとクロックにはすでに友情ができていたが、リリアンとルーンとクロックは、どこかお互いが遠慮をしていたり、警戒心を持っていたりした。


「けどやっぱり、リリアンは強いね。男爵クラスはほとんど一人で倒したよね」

「あら、ビーアの援護がなければ辛かったわよ。リージアといいあのテツといい、本当に世界は広いわね。考えられないことの連続よ」


 リリアンの期待を裏切り、クロックは荷車を持ってはいなかった。リリアンはみなに強く勧め、一行は荷車を買うため二股の木から一番近い大きな街、ガンベに向かっていた。その道中、ルックが先日の出来事について話し始めた。クロックがその話を受けて、ルーンに言う。


「リリアンは随分な謙遜だね。俺はルーンにも驚いた。てっきり戦力外なのかと思っていたが、あの爆発する石はなんなんだい?」

「あ、クロック。ルーンは実際そんなに強くないから、ルーメスとはあまり戦わせたくないんだ。あんまりほめると調子に乗るから注意してね」


 ルーンはルックのその発言にもにこにこ笑って反論しなかった。ルーンにとってそれは事実だったし、リリアンとクロックの前ではまだ猫をかぶっていたのだ。

 一行はそれからそれぞれの戦い方や、何が得意で何が苦手なのかを説明しあいながら歩いた。視力強化やリリアンの体術についてなどは話さなかったが、これは一行の中の警戒心によるものではなく、クラムの儀式によって進化が止められているためだ。クロックだけはそのことを知っていたが、知っていたとしても抗うすべもそうする気もなかった。

 リリアンは全員の人柄が合うようだと、少し安心をしていた。そしてクロックが自分の戦い方を語るのを聞きながら、自分なりに全員の戦力を分析をしていた。


 クロックの体術は普通のアレーより優れている。しかしリリアンのような動き方ではない。アラレルのような力強い動きでもない。力は劣るようだが、速さはルックとも遜色がない。変わった武器は器用に動き、実際対峙したら苦戦をしそうだと思った。影の魔法は実戦向きではないが、早打ちもできるようだ。何よりもあの伯爵クラスを相手にも、虎視眈々と勝機を見出そうとしているようだった。戦闘に対する心構えは間違いなく一級だ。まだ完全に信用しきることはできないが、ルーメスを討つ旅には、頼りになる仲間に思えた。


 ルックも一年前リリアンが教えた技術を完全に物にしている。相当鍛え込んだのだろう。そして魔法の使い方がとても器用だ。戦闘中に驚くほど深く考えているのが分かる。


 ルーンの魔法はルーメス相手にはかなり有効に思える。ルックは戦わせたくないと言ったが、自分の弱さを分かっている分、自慢げに戦い方を語るクロックより不安がないように思えた。


 そしてビーアはある意味では無敵だ。相当に心強い。


 このメンバーでなら、男爵クラスのルーメスくらいならほとんど恐れることはないだろう。そう思えた。


 一行はそこからお互い自分のことを語れる範囲で語りながら、半日ほど歩き続けガンベに着いた。


 ガンベは北の国々から首都へ向かう途中に、行商人などが寄る街だ。彼らの落とす金で発展した街で、広さはないが、みな裕福だった。首都ほどではないにしろ、街行く人の身なりは良く、活気がある。オゼッタ子爵領にあり、街の外れにはオゼッタの大きな屋敷がある。

 十二年前の戦争終盤で重要な軍事拠点になったここは、町の周囲に石で組まれた高い塀が設けられている。前回の戦争ではカン・ヨーテス連合軍がスニアラビスで止まり、カン軍は海沿いに攻めてきたため戦渦を免れたが、首都から逃げた貴族たちと違い、オゼッタ子爵はカンやヨーテスとも戦うつもりがあった。オゼッタ子爵軍は勇猛だということはアーティス国では有名な話だ。

 軍隊があるため、この街にはアレーたちのギルドはない。軍人の中には当然アレーも多く、大抵の場合はオゼッタを頼んで厄介ごとを解決している。


「この街で誰か仲間になってくれそうな人はいないかな?」


 子爵クラスを討つのならこの人数では心許ない。道中彼らはそんな話をしていたので、ルーンが誰となくそう尋ねた。


「どうでしょうね。オゼッタ軍は子爵に固い忠誠を誓っているらしいわ。大陸中がどうなろうと、オゼッタ領さえ無事ならそれでいいんじゃないかしら」

「へえ、リリアンって物知りなんだ。軍に所属してないアレーはいないの?」

「実力のあるアレーはほとんど所属しているはずよ。一人でも現役の軍人が家にいると、ここでは税が安くなるらしいの。ここもアーティスだから、土地にかかる税は安いらしいけど、代わりにここは物に税をかけるそうなのよ」


 ルーンとリリアンの話を聞いていたクロックが意外そうに尋ねる。


「物に税? どういうことだ?」

「あら、クロックはあまりアーティスには詳しくないのね。この街では剣なら銀一枚とか、パンなら銅一枚とか、詳しい値段は知らないけど、売買に税が課せられるのよ。商人がそれを集めて、毎月領主に献納しているってわけよ。アーティスでは一番税の重い所なんじゃないかしらね」


 リリアンもルックと同様、クロックを旅のアレーだと思っていた。

 クロックも真実を明かすつもりはないため、その勘違いをそのままにしている。


「おいおい、そんな所で旅の支度をするのかい?」

「仕方ないわ。これから私たちはダルダンダに向かうんでしょう? この先ダルダンダまで、大きな町は一つもないわよ。寄り道をすれば農村なんかはいくつかあるけど、荷車があるとも思えないわ」

「まあ、それもそうだね」


 クロックは事実を隠すため、リリアンの話に知ったかぶりをした。ダルダンダというのはアーティスとカンに跨がる標高の高い山だ。大陸で最後の翼竜が棲む山でもある。アーティスでもその山の近辺では不毛の地が多く、ダルダンダにいたっては完全に岩山だ。そのためその近くには町を築こうという者はいない。ダルダンダまでの道のりはまだ相当あるが、その間に、ガンベ街のように栄えた所はないのだ。

 クロックの話では正確な場所は分からなかったが、その山の周辺に強い力で歪みに手を加えている者がいるのだという。


「リリアンはダルダンダにも行ったことがあるの?」


 町はにぎわっていて、ルックは物珍しげに町の景色を眺めていたが、そこで三人の話に参加した。ふと自分が道行く人に注目されていることに気付いたのだ。肩に乗っているビーアが珍しいのだろう。何となく恥ずかしくなって、話をして気を紛らせたかったのだ。それにリリアンとクロックの間に、まだ微妙な警戒心があるのに感づいて気にしていたのだった。特にその警戒心はリリアンに強いように思える。リリアンのクロックに対する言葉は、何となくだがどこか棘があるように思えるのだ。ルックが会話に入ることで少し場を和ませたかったのもある。


「ええ。でも一度きりよ。カンのサニアサキヤという領主から、翼竜の鱗がほしいっていう依頼があったの。それなりに実入りのいい話だったし、ウィンが一度見てみたいって言ったのよ。まあ、結局鱗は見つからなくて、ただの旅行になったんだけど。ふふ、山からの眺めだけはなかなかの物だったわ」

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