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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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『呪われた少女』①

   第三章 ~陸の旅人~


『呪われた少女』




 クロックはただルーメスを討伐するだけではなく、明確な目的を持って行動しているらしかった。彼は自分の所属する団体が、ルーメスの発生を止められる可能性があるのだと言った。


「俺は世界の歪みに手を加えている術者に会って、協力を呼びかける予定なんだ。道中でルーメスを倒しながらね。ティナにもその術者がいるはずだから、ちょうど今日この街に入ったのさ」

「歪みに手を加えるって、結界のこと?」

「結界? さあ、俺は具体的に誰がどんなふうにやってるかは知らないよ。だからここに来る途中も二人の術者に会えずじまいになってるんだよ」


 クロックは術者の大体の場所は分かっているらしい。しかし誰がどうその術を行っているのかは知らないようだ。

 クロックの目的はルックの目標とはずれがある。ルックの現在の目標は、片腕のルーメスの討伐だ。しかし元凶を絶とうとしているクロックの目的の方が優先度は高かった。だからルックは片腕討伐を二番目の目標に据え置いた。

 ドゥールやアラレルのことは気になったが、それは今すぐに何かをしてどうなるものではない。すでに事は終わってしまっているのだ。


 それからしばらく宿の部屋でクロックと話し込んだ。そしてルックはティナの術者に会いに行くというクロックといったん別れることにした。


「ティナは魔学者クォートって人がたぶん歪みに力を加えてる。どのくらい時間がかかるか読めないし、待ち合わせ場所を決めよう」


 クロックについて行くことも少し考えたが、リリアンを探すのを優先したかったし、クロックの言う術者の一人はほぼ間違いなくリージアだ。クロックは森人の森を始めて見て、その広大な森から一人の術者を見つけるのを諦めたらしい。クロックが魔学者に会っている内に、ルックがリージアに協力を頼みに行くことになった。

 クロックとの待ち合わせ場所は二股の木の麓に決まった。


 それからクロックと二人で一泊し、次の日は一人でアーティーズトンネルを抜けた。行きも帰りも一人だったが、リリアンの情報や仲間を得たルックには、行きと比べて帰りはずいぶんあっと言う間に感じた。

 ルックはトンネルを抜けるとティスクルスの宿で一泊し、首都アーティーズへ向かった。リリアンが自分と同じように自分の足跡を辿っているなら、彼女がアーティーズに行くと考えたのだ。

 リリアンはルックの住まいまでは知らないが、ルックとつながりのある人物のいる場所なら知っている。つまりはライトやビースのいる王城だ。ビースからの手紙も受け取ったはずだし、ティナ軍の将軍もしていたリリアンなら、王城を訪問することもできる。


 五の郭を抜け一の郭に入ると、ルックはすぐに王城に向かった。

 思っていたよりも大分早い帰還には照れもあったが、ルックは堂々とライトとの謁見を望んだ。取り次ぎをしてくれたのは文官のトーランだった。彼はライトの薬がよほど効いているのか、いまだにとても従順だった。

 トーランは今度こそ最優先でライトに伝えてくれたのだろう。ルックがいつもの中庭でライトを待つと、それほど間をおかずにライトが顔を出し、嬉しそうにルックに笑みを見せた。


「ルック。お待たせ」


 ライトはお帰りとは言わなかった。ルックの帰りが一時的なものだと分かっていたのだろう。そしてルックが気まずくならないように気を利かせてくれたのだ。ルックはそのライトの思いやりを嬉しく思った。


「ライト、急にごめんね」

「そんな気をつかうようなこと言わないでよ。もしかしてリリアンのこと? あの人なら、五日前に訪ねてきたよ」


 ドクンとルックの心臓が跳ねた。五日前といえば、ルックが森人の森にいた頃だ。リリアンはやはりすぐにこっちに情報を拾いにきたのだろう。


「そっか。それでどこに行くとかって言ってた?」

「うん。取りあえずはシュールを訪ねるといいんじゃないかって教えといたよ。だからシュールの所にいるんじゃないかな? あ、ちなみに今日はシャルグも非番で、家にいると思うよ」


 五日前だとさすがにリリアンももういないかもしれない。しかしだとしても次に行くべき場所は決まった。

 ルックはライトに軽く礼を言うと、別れも惜しまず城を後にした。少し無礼な方が仲がいい証のように思えたのだ。

 一の郭から二の郭に入り、急ぎ足で三の郭を過ぎる。

 四の郭の住宅地、ギルドの家が並ぶ区画でルックはシュールの姿を見留めた。


「シュール!」

「ルック。遅かったじゃないか」


 シュールは何かを買い出しに行っていたようで、家に向かって歩いていた。ルックが突然戻ってきたことにも、驚いた様子がない。それはルックが戻ってくることを予想できる、何かがあったということだ。


「リリアン来た?」

「ははは。来ていたぞ。後はリリアンよりも前に、キルクって言うアレーも、お前の手紙を持ってきたぞ」

「あ、キルクのことは忘れてたな。彼どうしてる?」

「今は里帰りをしているところだ。ちょうど仲間がほしいところだったからな。もちろん歓迎したよ」


 ルックはシュールの言葉にとても喜んだ。これでダットムたちも安心できるだろう。だがリリアンについての「来ていた」というのは、やはりもうすでにいないということだ。


「それからカイルとルーザーも仲間になってくれることになった」

「そっか。良かった。ルーンはどう? 馴染めそうかな?」

「あとそれなんだが、ルーンはルックがいなくなってから、少し塞いでいるようなんだ。ライトの所にも行っていない。良かったら顔を見せて上げてくれないか」


 ルックは意外な話に驚いた。それほどルーンが自分がいないことを気にするとは、不思議な気がした。

 どのみちここまで来て顔を出さないつもりもなかったルックは、シュールと連れだって彼らの家へ向かった。


「そう言えばシュールは、アラレルの話は聞いた?」

「ああ、どうも行方が知れないらしいな。まあ、その内戻ってくるだろう。ライトかビースから聞いたのか?」

「ううん。森人の森で直接シーシャから聞いたんだ」

「そうなのか? それじゃあドゥールについては何か言っていなかったか? 彼もまあ、大丈夫だとは思うんだが」


 実際にはシュールの言葉は何の根拠もなかった。ただの希望的な意見だ。ルックは決して楽観できない状況をシュールに話した。そして自分が片腕を追って、ドゥールやアラレルの足跡も辿るつもりだと話した。

 シュールはきっとルックが危険な旅に出るのには反対だっただろう。しかし、ルックの意思を尊重し、ぐっと言葉を飲み込むと、気を付けるようにとだけ忠告した。

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