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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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 次の日、ルックがリーダーとなった総勢二十一名のアレーは、ディーキスの別邸の前にいた。

 二の郭は裕福な商人や、地方貴族の別邸が多く、何事かと人が集まってきたが、すぐに彼らの物々しい雰囲気を悟りどこかへ逃げていった。


「降伏を呼びかける必要はない。ディーキスに言われたとおり、この館の中にいる人は、キーネだろうと容赦なく殺さなければなりません。いろんな意味で辛い戦いになるだろうけど、みんな手は抜かないでください。

 ミリアとヒサルシは裏に回って敵の逃げ場を塞いでいます。

 ビッスターランとニニーキアは表を見ていてください。中に入るのは十七人で、敵と数の上ではほとんど同数ですけど、負けることはありません。みんな歴戦の猛者ですから。

 あと、中にビージュっていうお婆さんがいるんですけど、その人だけは殺さないでください。彼女はこっち側の内通者らしいです」


 ルックはそう言うと、背中から剣を外し、鞘だけを背負いなおした。


「行きましょう」


 ルックの静かな合図と共に、全員がそれぞれの武器を手に取り、屋敷の門へ向かった。ルックは立ちはだかる門の前で地面に手を突き、隆地の魔法を放った。帰空も掛けられていない木の門が、立ち上がる地面になすすべもなく破壊された。隆地が消えると、ルックが先陣を切って屋敷の中に駆け込んだ。

 屋敷の内門の前には、左右に槍を持ったアレーが二人立っていた。目の前で門が壊されたのを見ており、彼らはすでに槍を構えて戦闘態勢だ。


 ルックは左側のアレーに向かっていった。アレーはルックを迎え撃とうとしたが、ルックは彼の五歩ほど手前で急加速をし、一気にアレーの喉に剣を突き立てた。微塵も反撃する暇はなく、喉を突き破られた男は死んだ。

 それからルックはすぐに右側のアレーに剣を繰り出した。

 藍色の髪の女のアレーで、ルックの突進に驚いてはいたようだが、すかさず槍を回して攻撃してくる。かなりの速度のなぎだったが、ルックの目にはなお緩慢だった。ルックは深く前屈をしその槍を送り過ごして、そのまま地面に手を突き掘穴の魔法で敵の足下に大穴を穿った。女は完全に意表を突かれて尻餅を突く。そして後ろからルックを追ってきたカイルの剣に頭を割られた。

 さらに後ろから追いついた紫色の髪の女性が、強烈な正拳突きで門の鍵を打ち砕いた。ルックとカイルはすぐに両開きの門の左右を引いた。残りの十五名のアレーが空いた隙間になだれ込む。

 扉の中の玄関ホールでは、五人のアレーが待ち受けていた。なだれ込む味方のアレーと、その五人との戦闘がすぐに始まった。


「伏兵の魔法師に気をつけてとは言うべきかな?」


 ルックは玄関ホールの様子を見渡すと、隣にいたカイルにそう問いかけた。


「みんな、魔法師が伏兵にいるかもしれない! 気をつけろ」


 ルックの問いにカイルはすぐさま反応し、号令をかけた。


「悪いな。見せ場を奪った」


 カイルは余裕の表情でそう言うと、援護に回るつもりなのか、マナを集め始めた。

 敵が五人と見て畳みかけるつもりでいた味方のアレーたちは、警戒心を強めた。だが彼らを襲ったのは、敵の魔法ではなく矢の群れだった。

 玄関ホールは吹き抜けになっていて、左右の二階部分が死角になっていた。矢はその左方から飛来してきた。


 警戒を強めていたアレーに、もちろん矢などはきかない。石投が軽々避けられてしまうように、十数本の矢など皆訳なくかわした。しかし全員一度は足を止める。勢いに乗り切れなかった味方のアレーに、敵方の五名が討って出た。

 体勢を崩したところを襲われ、皆苦戦を強いられた。特に敵の一人がかなりの強者だったようで、味方のアレー二人が瞬く内に斬り殺された。

 そして仲間がようやく体勢を立て直そうかというときに、その強者の黒髪のアレーが何かの合図を送った。


 敵のアレーが一斉に後ろへ飛び離れた。ルックは手を突きその強者の黒髪に隆地を放った。屋敷内に突然立ち上がる大地を、しかし黒髪は身をよじって辛うじて避けた。

 それと同時にまた左方から矢の群れが襲い来る。そしてわずかに間を空け、今度は右方から三つの火蛇の魔法が放たれた。矢を避けることに集中しすぎた仲間の一人が、のたうち回る火の鞭に呑まれる。死んではいないだろうが、戦闘は続けられないだろう。そしてまた五人の敵が攻撃に出る。


「氷柱」


 ルックの隣でカイルが魔法を放った。攻撃に転じた五人のアレーの前に、鋭い氷の柱が襲う。敵はそれも訳なく避けるが、味方に体勢を立て直す時間を与えた。体勢が整いさえすれば十二対五。圧倒的に有利な差だ。

 敵は仲間が新たにマナを溜める時間を稼ぐため退くわけには行かず、待ち受ける十二人のアレーに突撃する。

 敵の黒髪はやはりかなりの強者で、仲間のアレーを一挙に三人葬った。他にも一人が敵に斬られる。だが味方のアレーも五人の内二人を切り捨てた。そして手の空いた者が他の仲間の援護に向かう。


「あいつはやばそうだ」


 隣でまたマナを溜めていたカイルは、そうつぶやくと黒髪のアレーに向かって駆けだした。カイルが着くまでに援護に入った仲間がもう一人、ほとんど一合もせずに黒髪に斬られていた。

 その間ルックは目一杯のマナを溜めていた。そして大地の魔法を、何も言わずに解き放つ。


 左右の一階の床から、二本の隆地が立ち上がった。隆地はあっと言う間に二階の床にぶち当たり、それを押しのけテラスごとさらに上へと押し上げた。二本の隆地はとても太く、二階に潜んでいるだろう敵を、おそらく丸ごと飲み込んで、さらにさらに上昇していく。

 隆地は天井にぶつかり、なおも少し上昇を続ける。天井と床の挟み撃ちに合い、恐らく伏兵のほとんどは潰されただろう。

 敵の残った三人の内の二人は、その見たこともないような特大な隆地におののき、剣が鈍った。そしてその隙を見逃さず、それぞれ二本と三本の剣が、二人のアレーを串刺しにした。

 最後に残った黒髪は、状況の圧倒的不利を悟り、じりじりと後退を始めた。カイルはその黒髪と互角に剣を結んでいたが、一瞬の隙を突かれ逃走を許した。


「ダンルはニックスを連れて待避してください。その傷だと辛いでしょう」


 ダンルは肩に浅くはない傷を受けており、ニックスは火蛇に火炙りにされたアレーだ。

 ルックの指示通り二人は下がり、カイルとルックを合わせ六人になった部隊は、黒髪の逃げた館の奥へと歩を進めた。

 ルックは予想よりも遥かに厳しい戦闘になったと思った。決して敵を軽んじていたわけではないが、ここまで統制の取れた動きをしてくるとは思ってなかった。敵の十五名の内、少なくとも九名のアレーを討ち取っただろうが、敵はキーネも戦闘に参加してきている。残りのアレーの数は一緒だが、五分とは少し言い難く思えた。


 黒髪の逃げた先は長い廊下になっていた。白い毛皮のカーペットが敷かれた廊下で、壁に掛けられた燭台が心許ない明かりを灯している。廊下の両脇には四つドアがあり、ルックたちは慎重に一つ一つの部屋を確認しながら進んだ。挟み撃ちにあったら一溜まりもないのだ。そしてルックが四つ目のドアを開けると、突然中から黒髪のアレーが仕掛けてきた。


 ルックの視力強化があっても、本当にぎりぎりだった。ルックは胸を薄く切られる。ドアを挟んで、一対一の戦闘になった。敵もそれを望んでこの狭い場所での戦闘を選んだのだろう。敵の誤算は、自分と対等に渡り合う戦士がカイル一人ではなかったことと、ルックがカイルを凌ぐ戦士だったことだ。

 敵は武器を小太刀に持ち替えていた。小回りの利く剣がこの狭い場所では有利なのだ。ルックの剣は無意味な宝剣のような大きさだ。決定的にその面では不利だった。しかしルックの実力はそれ覆す。ルックは剣を片手で立てて持ち、敵の黒髪の細かい突きをことごとく防ぐ。敵がなぎに切り替えて来ても、華奢な腕でその斬撃を受け、びくともしない。ルックは空いた左手で放砂を放つ。黒髪の金色の目をめがけ、砂が打ち出された。たまらずに黒髪は後ろへ飛び退く。絶対的に有利だった位置を離れる。ルックはすかさず追いすがり、剣を両手に持ち替えて存分に振るおうとした。


 しかしそこで、右手から研ぎ澄まされた刃の一撃がルックを襲った。

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