表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
160/354




 しばらく雑談をしながら南下していくと、海へと続く細い川が流れていた。

 シェンダーにも街を分断する大河が流れていたが、この川はその支流だ。

 川には丸い橋がかけられていて、馬車はその橋の手前で停められた。


「こっから先は歩いて行くぞ」


 ルーメスの縄張りが近いのだろう。コライは馬車を降りて橋の手すりに馬をつなぐと、川に沿って東に進んだ。

 川は平原にある川らしく、緩やかでくねくねと蛇行をしていた。川沿いは道が整備されてなく、コライが剣を抜き、草をかき分けながら先導している。

 しばらく進むと地形が荒れてきた。草も所々はげた箇所が増え、明らかに自然にできたものではないくぼみも多くなる。

 ルックは背中から愛用の大剣を抜く。

 自然にできたのではないくぼみは、何かが爆発をした跡だ。ルックはルーメスの紅い視線が生む爆発を思い出した。


「ルーメスはここでも誰かと戦闘をしていたのか?」


 シュールが問いかけると、コライは首をかしげる。


「確かに妙だな」


 こんなところには旅人もそうそう通らない。それなのにルーメスが爆発を起こしたわけはなんなのだろうか。


「コライはルーメスの魔法は知ってるの?」

「ああ、前に戦ったとき、仲間がそれで怪我をしたからな」

「そっか。そしたらルーメスの弱点は分かる?」

「弱点? それは知らないな」

「ルーメスは全身の皮膚がすごい堅いんだ。アラレルでもなかなか深手は与えられなかったんだけど、喉だけは堅くないみたいなんだ」

「へぇ、喉か。じゃどうにかルーメスの動きを止められたら、簡単に倒せそうだな」


 コライは今回の事だけではなく、今後またルーメスが現れたときのことも考えているのだろう。ルーメスの倒し方について、シュールとあれこれ検討し始めた。

 二人の会話が川のせせらぎに飲み込まれて行く。時折吹く風が、草原をざわざわと揺らす。


 そこに突然動物の悲鳴が響き渡った。そして複数の動物の蹄を打つ音が聞こえる。

 草食動物の群れが、何かに襲われたのだと想像がつく。

 シュールとコライが会話をやめ、ライトも腰の剣を取り出す。

 動物の悲鳴はすぐにやむ。悲鳴がしたのはルックたちの前方だ。


「このまま私が先行して進む。ルックは左に展開して警戒してくれ。シュールは後方で支援、ライトは中央で攻撃の時を待て。行くぞ」


 コライの指示通りに四人は展開し、駆け足で声のした方へ進む。

 いた。

 草むらの先に、捕らえられた一頭の野生馬に、二体のルーメスが群がっている。

 二体ともルーメスは貫頭衣一枚を身に付けていた。膝までの長さの、動物の毛皮をなめした服だ。袖がなく、肩からむき出しの腕が、馬の肉をむしり取って口に運んでいる。

 たまにその手を止めて、二体のルーメスは会話をしながら食事をしていた。

 コライは再び小声で指示を出す。


「ルック、放砂で視界を遮れ。シュールはそのあと炎上をあの場所に撃ち込む。私が右、ルックが左のルーメスに向かっていって、敵に確実な隙ができたら、ライトがとどめを刺す。行けるな?」


 コライの言葉に全員が頷く。

 そしてルックがマナを集め、大量の砂を放った。

 ルックの早打ちにほとんど遅れず、シュールが火柱を生み出す。

 放砂が晴れ、炎上が消える。

 ルックとコライが駆けた。


 ルックが対峙したルーメスは女のようだった。突然の炎上に動転していたのだろう。ルックの突撃に驚いたルーメスが足をもつれさせて尻餅をついた。

 しかしそのせいでルックが狙っていたルーメスののどが、かなり突きにくい角度になってしまった。ルックの剣がルーメスの腕に阻まれる。

 リリアンに教わった体術で、渾身の力を込めて切り込んだのだが、ルーメスの腕は切り落とせない。

 だが体勢はかなりルックに有利だ。落ち着いて何度も大剣で斬りつける。

 ルーメスは腰を地面につけた体勢のまま、ルックの剣をなんとか防いでいたが、どんどん腕がボロボロになっていく。


 ここでライトが加勢に来てくれれば、すぐに勝負が終わる。そう考えたが、ライトの近付いてくる気配はない。さすがに状況を確認するほどの余裕は持てず、ルックはそのままの体勢を維持するため、ひたすら目の前のルーメスに剣を浴びせた。

 シュールの援護も来なかった。目線はルーメスに固定したまま、コライの方がかなり苦戦をしているのだろうと考えた。


 それならば多少危険な手を打ってでも、早くこちらを片付けるべきだ。


 ルックは数歩分後ろに飛んで、ルーメスに向かって石斧の魔法を投げつけた。

 その隙にルーメスが立ち上がる。

 ルックは再びルーメスに肉薄する。

 ルーメスは石斧を払い落とし、今度は落ち着いた様子でルックのことを迎え撃った。

 ルックの袈裟切りを身を引いてやり過ごしたルーメスは、逆にルックの頭に手を打ち込んでくる。

 ルックは身を屈めてそれをよけ、肩から突き上げるように体当たりを食らわせた。そしてよろめき後退するルーメスを、今度は逆袈裟に斬りつけた。

 ルーメスはそれをかわすためにそのまま後退をしようとする。その足をルックが踏みつけ、ルーメスがバランスを崩した。

 ルックの剣は再度空振りしたが、そこからさらにルックは剣の軌道を変え、とどめの攻撃を繰り出した。

 ルーメスはそれを防ごうと腕を回してきたが、それよりも早く、ルックの大剣がルーメスの喉を切り裂いた。

 驚愕の表情を浮かべ、ルーメスが地面に倒れる。喉を両手で覆い、苦しそうに身もだえている。

 ルックは右手を差し出し、容赦なくそのルーメスに石投を放った。

 一抱えはある大きな岩が、高速でルーメスの頭にぶつかり、ルーメスの動きが止まった。

 ルックは石投が消えるのを待たず、コライの方に目を向けた。


 コライはライトと二人がかりでルーメスと戦闘していた。

 ライトに切られたのだろう。ルーメスはわき腹から大量の出血をしていたが、それ以外には目立った傷は見られなかった。

 ルーメスはこちらも女のルーメスだったが、ルックが倒した個体よりも一回り速い。ライトとも遜色ない速さだろう。そしてルーメスはライトの剣だけは決して受けようとはせず、全てかわしている。すでにライトの剣が見切られているのだ。

 コライは見たこともない独特の型で、二本の幅広の剣を振り回している。

 しかしコライの攻撃は、ルーメスの堅い皮膚に阻まれて傷一つ付けられていない。

 シュールが魔法でルーメスの目に火を付けようとするが、ルーメスの速い動きになかなか合わせられず、顔の所々に小さな火傷を作るだけだ。


 もしも最初の予定通り、ルック一人でこの仕事を受けていたら、恐らくこのルーメスは倒せなかっただろう。

 ルックは内心ルーンに感謝をしながら、落ち着いて地面に手を突けた。

 戦闘は膠着し、手を出すのが難しそうに見えたが、ルックにはもう必勝の手が頭に浮かんでいた。

 ルックはタイミングを見計らって、ルーメスの立つ地面に掘穴を放った。

 ルーメスが何度となく繰り出されるライトの剣を避けようとしたとき、ルックの掘穴に足を取られた。

 突然沈んだ地面に、ルーメスは回避ができなくなり、ライトの剣に体を上下に分けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ