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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第三章 ~陸の旅人~
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「しかしルック、あんた生きてたんだね。一体あんとき何が起こったんだ? お嬢ちゃんは喚ばれたなんて言ってたが」


 大部屋の中には大小二つのテーブルが置かれていた。とりあえず六人のアレーはそこを囲んで、話し合いから始めることにした。

 しかしコライはよほど気になっていたのだろう。本題に入る前に真っ先にそんなことをたずねてきた。


「うん、ルーンの言うとおり喚ばれたんだよ。あのときの戦争に光の織り手が参戦してて、僕を魔法でアーティスまで呼び出したみたいなんだ」

「へぇ! あの光の織り手が? けどなんでルーンはそれが分かったんだい? 同じ呪詛の魔法師だからか?」

「うーん、なんとなくそんな気がしたんだ。私もよく分かんない」

「なんとなくって割にははっきり言ってたじゃないかい」


 コライはルーンの返答に首をかしげたが、ルックもルーンがどうして分かったかはいまだに謎なのだ。ルーンも本当によく分かっていないらしい。

 とりあえず今は答えの分からない話をするよりも、考えなければならないことがある。


「ライト。たぶんだけど、シャルグやビースにはなにも言わないんで来たんだよね? 手紙とかは置いてきた?」


 考えてみたら、ルックを送り出すときのライトの気を付けてという言葉には、どこか上の空のような雰囲気があった。ライトはあのときから今回の計画を立て始めたのだろう。比較的急なことだったし、まだまだ思慮の浅いライトのことだ。手紙などは残していないかもしれない。もしそうなら、今頃首都では大変なことになっているだろう。


「手紙? そんなことしたらバレて止められちゃうよ」


 確かに突然ライトが紙と筆を要求してきたら、不審に思われるだろう。

 ルックは首を振ってため息をつく。となりでシュールも同じ動作をしていた。


「たぶんお城は大変な騒ぎになってるよ?」

「うんうん。だから早くルーメスを退治して戻ろ?」


 ライトはどれほど大変なことなのか、まるで分かっていないのだろう。あっけらかんとした口調だった。

 ルックは困り果ててシュールを見た。


「まあ言いたいことは山ほどあるが、こうなってしまったからには、ライトの言い分が正しいだろう。手早くルーメスを退治して、王城に送り届けよう」


 言われてみればもっともだ。今やれる最善の手はライトを説得するよりも、ライトがここにいる理由をなくすことだろう。


「あーあ、そうするしかないか。ったく、とんだことになりやがった」


 毒づくコライを年配のアレーがなだめる。年配のアレーはコライとは違い、落ち着いた理知の見える口調だ。傍若無人なイメージのあるコライだが、年配のアレーの言葉には素直に従った。


「じゃあまず状況を説明しようか」


 気を取り直したコライがシュールに向かって説明を始める。コライの目が完全にシュールだけを見据えているのは、依頼を受けたのがルックだとは思っていないからだろう。


「最初にルーメスが現れたのは半月前だ。シェンダーの南に突然出現したんだが、そのときはここにいるナーファと二人で追い払えたんだ」

「そのときは?」

「ああ、そうだ。この時点で私たちはフォルキスギルドに救援要請を投げた。誰か適当なのが来次第、そいつらに街の警戒をしてもらって、私とナーファで討伐に向かう予定だった。全く、シュールに来てもらえたのは不幸中の幸いだよ。それから三日後に南のクルトって町でまたルーメスが現れたんだが、なんと二体に増えてやがったんだ」

「二体だって? まさかルーメスがチームを組んでいるのか?」

「チームって感じなのかは分からないが、私たちが聞いた話だと協力関係にあったことは間違いないね。

 町は少なくない被害を受けちまった。建物はもちろん、死者の数も相当だ。今クルトの町には見習いのガキどもを十人向かわせているんだが、正直もしまた襲われたら、あいつらだけじゃ心許ない」

「見習いというと、いくつくらいの子たちなんだ?」

「一番上で十五、下はまだ十だったはずだよ」


 ルックは自分もその見習い戦士たちと同じ年代なのだが、その説明には危機感を覚えた。

 当然ルックやライトのような戦士はいないだろうし、リリアンやアラレルに教えを受ける前の自分たちよりも、おそらくその見習いたちは弱いだろう。自分たちは曲がりなりにも、アーティス最強のアレーチームに育てられていたのだ。


「それでどうする予定だ?」


 シュールはコライの差配には全面的に信頼を寄せているらしい。今回はシェンダーに住んでいるコライの計画に加わることにしたようだった。


「まずはそっちの戦力を教えてくれ。ちなみにナーファは魔法の腕は確かだが、心臓が悪くて激しい動きはできない」

「そうか。ルーンは知っての通り治水が使える。戦闘はほとんどできない。ライトは剣技では俺にも劣るが、速さはアラレルと変わらない」

「アラレルだって? この国の国王陛下はそこまで腕利きだったのかい」

「ああ。だけどあまり危険なことはさせないでくれ。大きな戦闘の経験はそれほどないんだ」

「それは当然だね。まさかルーメスは討てたが国王の血が絶えたなんてシャレにならない」

「それとライトの剣は特殊で、鉄でもなんの抵抗もなく切る。ルックは魔法の腕は俺以上だし、体術でもシャルグ以上だ」

「おい、身内びいきじゃないだろうね?」

「まさか。

 そうだな。光の織り手が呼び寄せるくらいの実力だと言った方が分かりやすいかな?」

「なるほどね。言われてみれば確かにそうだ。ってことはつまり、不幸中の幸いどころか、かなり運が回ってきたってことか」


 コライはルックに、値踏みするような目線を向けてきた。シュールの評価には少し照れたが、誇らしくもあった。

 ルーンとライトは大人二人の話には口を挟まなかった。ルーンはおしゃべりな性格だったが、こういったときにはちゃんと口をつぐむ。ライトも今回は大それた事をしたが、本来は内向的な性格だ。

 しかしルックは自分自身を成長させるために、ここで黙ったままいるのは良くないと考えた。

 戦闘面だけではなく、気質としてもリリアンの足を引っ張るような子供ではいたくなかったのだ。


「コライ。コライは今回以外でルーメスと戦ったことはあるの?」


 もちろんなんの考えもなしでの発言ではない。しかしルックは少し身構えた。コライは子供が口を挟むのを嫌うかと思ったのだ。


「あん? この間の戦争の前に戦ったことがあるが、どうかしたか?」


 コライの雑な物言いには多少ひるんだが、ルックはしっかりと答えた。


「ルーメスは強さに段階があるらしいんだ」

「そうなのか? 具体的にどのくらい段階があるんだ?」

「僕は今まで三体ルーメスを見たけど、三体とも強さが違ったんだ。最初に見たのはアラレルが取り逃がすくらいの強さだった。次に見たのは、僕のチームにいた鉄の魔法師がほとんど一人で圧倒してた」

「あぁ、ドゥールだろ?」

「うん、そう。知ってるんだ。三番目に見たのは今アラレルたちが討伐に向かってるルーメスで、とても僕たちじゃ手が出せない強さだった。

 コライが最初に見たルーメスと今回のルーメスなんだけど、そんなに強さは変わらなかった?」

「そういうことか。それなら少なくともシェンダーに来た一体は、二番目に見たってのと同じくらいのやつだろうね。それほど絶望的じゃなかった。

 前に戦った個体ともそう変わらなかったね。まあ、前に戦ったのは女のルーメスだったから、見た目の印象はまるで違ったが」


 コライは丁寧に答えてくれた。ルックは邪険にされなかったことにほっと胸をなで下ろした。


「そっか。もう一体の方はコライも見てないんだよね。どのくらいの強さかなんて推測立たないよね?」

「そうだね。ただ町にいた自警団の魔装兵たちが手傷を負わせたって話だから、アラレルたちが追ってるやつほどじゃないんじゃないか?」

「良かった。それならきっと僕たちでもなんとかできるよ」


 安心しきったルックはそこで少し失言をした。いくら敵のルーメスが最下層の平民クラスだったとしても、安請け合いするような発言はすべきでない。

 しかしコライはその発言にも、特に気を悪くした様子はなかった。


「そしたらこのあとすぐにでもルーメスを退治しに行くぞ。ナーファとルーンは南区で待機だ。夜には戻る」


 コライは素早い決断とともに立ち上がった。自信に満ち溢れた表情は、これから危険な仕事をしにいくことを微塵も感じさせない。

 ルックはシュールが頼みにしていたコライの、名指揮官としての片鱗を見た。

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