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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第二章 ~大戦の英雄~
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「それじゃあ改めて、僕はルック。アーティス人だ。

 スニアラビスの状況を簡単に説明すると、スニアラビスは今、何とか二千の大軍を前に持ち堪えてる」

「ちょっと待っていただけますか! 二千ですって?」


 ルックの言葉に、最初に話をしてきたピンク色の髪の女性が声を上げる。


「ヒリビリア。落ち着きがないわよ。最後まで話をお聞き」


 ピンク色の髪の女性、ヒリビリアは、リージアにたしなめられて口を閉ざす。ルックはそれを見て、そのまま状況説明を続けた。


「どうも敵の将軍が倒れていたらしくて、ちゃんとした作戦行動が取れてなかったみたいなんだ。それでももう門はぼろぼろだし、それに将軍が目を覚ましちゃったらしい。敵は今日の内にもスニアラビスの門を破る気でいるみたいなんだ」

「敵兵とスニアラビスの戦力差は?」


 ルックの説明に、ビラスイが尋ねる。彼はどうにか汚名を返上しようと、気の利いた質問をしたかったようだ。


「正直な話、分からない。もう暗くなっていたから敵の全容も見えなかったし、砦の中のアラレルたちはさっぱり。とにかく分かるのは、急がなきゃいけないって言うこと。門が破られたら敵はきっと総攻撃をかけてくるでしょ? そしたらいくらアラレルがいても勝ち目はないと思う」

「この間言っていた、ビースの切り札って言うのはどうなの?」


 今度はミーミーマが問いかけてくる。ルックの知っているビースの切り札というのは、ルーンの治水のことだ。総攻撃をかけられれば治水にはほとんど意味がない。そうすれば純粋に兵数差がものを言う。ルックは静かに首を振った。


「ビースの切り札だって? 全くあの子は食えないわね。私たちの他にも切り札があるなんて」


 ミーミーマの言葉にリージアが言う。


「まあ、なんにしろ急がなきゃいけないのね。それだけはよく分かったわ。それでルックはこんなちっぽけな軍で、一体何をしようと言うのかしら?」


 少女のような口調でリージアは尋ねる。ルックはその違和感を頭の隅に追いやって、考え始めた。

 兵力は多分七十くらいだ。それほど多くはない。それにビラスイたちはもちろん、体の小さい森人たちも大きな戦力ではないだろう。もちろん魔法が達者なら話も変わるが、物差しの違う森人たちの戦力をどう尋ねればいいのか、ルックには思い付かなかった。

 しかしルックはそこでふと、リリアンの言っていたことを思い出す。


「そう言えばあなたたちの中に、光の少女と闇の少女はいるの?」


 ルックの問いに、リージアたちは驚いた顔をする。


「よくご存知ですのね。こちらの私の姉、シーシャが闇の、そして私と最長老のリージアが光の少女でございます」


 ルックはそれを聞いて、少し光明が差した気がした。


「その、僕もあまり詳しくないんだけど、光の少女と闇の少女って言うのは、どれくらい強いの?」

「そうね、アラレルっていう程じゃないけれど、控えめにいってもかなり強いわ。……ビースにはそう言ったけど、私は多分アラレルっていう子には負けないでしょうね。ちなみにここにいる森人たちは、ある秘伝の技を使うわ。シャルグにもこの間その秘伝を授けたけど、授ける前のあの子にならここにいる誰も負けなかったでしょうね」


 こともなげに言うリージアに、ルックは自分の耳を疑った。もしその話が本当なら、この森人たちにルックより弱いものはいないということになる。シャルグが秘伝を授かったというのは初耳だったが、実際ルックは、秘伝などないシャルグにも及びはしないだろう。先日のカミアとの戦闘の手応えから恐らく間違いがない。


「まさか、みんながみんなそんなに優秀なアレーだって言うの?」

「ふん、まさか、そんなはずがないじゃない。ここで本当に優秀なアレーは私とヒリビリアとシーシャくらいよ。私は魔法具の精製に長けているのよ。まさかあなた、森人の森でリージアと聞いて、何も思い当たる節がないって言うの?」


 リージアはどこか誇らしげに言う。ルックはその言葉の意味を考え、そしてはっとした。


「まさかあなたが光の織り手・リージアだって言うの?」


 ルックの驚愕は、すぐにビラスイたちにも伝わった。そしてそれを見た他の森人たちは、どこか誇らしげににやにやとしていた。


「そうよ。全く、あっちの子たちには最初にそう言わなかったかしら」

「言ってねぇよ!」


 リージアのぼやきに、カミアが大声で言う。ミーミーマが頷いているので、恐らく本当に言っていないのだろう。


 簡単にだが説明すると、光の織り手・リージアは、夢の旅人の夢のお告げを信じ、仲間を集め、運命の地下聖堂という所に行き、目前にまで迫っていた世界の崩壊を止めた。

 彼らのその旅路は、彼らの仲間の一人、ニッツによって物語にされている。それは子供にとても人気の高い冒険譚で、大陸中に広まっていった。

 その物語の中でリージアは魔法具造りの天才と称されていた。ルックにしても、母に読んでもらい、シュールやシャルグに何度も語ってもらったことのある物語だ。リージアのその特技は覚えていた。


「そっか、ここにいるみんなその魔法具を使ってるんだ。ザラックの物語に出てくるような魔法具を持ってるんなら、すごい戦力だね」

「なめないでちょうだい。ニッツの書いた話に出てくる魔法具は、私が十歳くらいのときに造ったものよ。あんな玩具、今の私の魔法具に比べたら何でもないわ」


 リージアは暗い表情で言う。自慢のような発言だったが、私にはリージアがそれに後悔していることが分かった。物語の中では伏せられているが、ニッツはザラックたちとの旅の途中で両目の光を失った。もしもリージアが、あのときからもっと優秀な魔法具を開発していたなら、ニッツの目は失われていなかっただろう。


「そっか、それならなおさらだ。僕たちは砦に合流するよりも、門が破られたとき、敵の後ろから仕掛ける方がいいかもしれない。敵はすごい士気を下げていたし、かなり数を減らしていると思う。千五百か、良くすれば千人くらいになっているかもしれない。それなら少しは勝機が見えてくると思う」

「嫌ね、負けることが前提な訳?」


 ルックの言葉に、挑発するようにリージアは言う。ルックは言われて、弱気になっている自分を恥じた。


「勝つよ。光の織り手・リージアがいて、どうして負けるはずがあるのさ」


 ルックは強がる。しかしルックのその発言に、ビラスイたちも森人たちも一気に士気を上げ、口々に自分たちの勝利を宣言し始めた。

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