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3話

「なるほど。ご主人様の力がスミに宿ったってことッスね!」

「元々あった力が目覚めたって方が近いと思う。それでスミさえ良ければ、その力をより使いこなせるよう指導させてくれないか?」

 スミを離した俺は、気功について説明した。危険があることも伝えた上で、俺はスミに修行をつけたいとお願いをする。


「もちろんッス! ご主人様に無理させないためにも、この力は絶対必要ッスからね」

 ニコニコと提案を受け入れてくれるスミ。よし、ならばさっそく……と言いたいところだが、こんな場所じゃ無理か。


「スミ、落ち着いてお前に修行をつけるためにもデモンが襲ってこない場所があれば案内して欲しいんだが、できるか?」

「んんん……スミ、ここが還らずの樹海と呼ばれているのは言ったッスか?」


「名前だけは聞いたな」

「還らずの樹海はデモンクロス最大のデモンの巣窟ッス。無数のデモンが徘徊し、なお樹海が広がり続けるあまりにも危険な場所ッス。スミの知識だと、普通に出るのはちょっと無理ッスね」

 そんなヤバい場所だったのか。しかし俺は一生森でサバイバル生活できるような健康な体じゃない。

 スミの助けがあっても遠くない将来衰弱死しそうだ。


「だから、スミのオリジナルも拠点にしていたネオバベルに向かうのが一番ッスね」

「ネオバベル?」

「木に登るんで、スミにおぶさってくれるッスか?」

 言われるがままにおぶさると、スミはひょいひょいと木の枝を飛んで登っていく。

 そして周辺で一番高い木の頂上まで登って見た光景に、俺は疑問の答えを見た。


 途中で折れた、しかしそれですら高すぎる塔が見えた。


「太古の昔に栄えた統一帝国が建設した塔、バベルの残骸。そこに樹海から出られなくなった人が集まり生まれたのが、万魔都市ネオバベルッス!」

「デモンの住処の中に都市があるのか……!」


「デモンの襲撃はある。イカれた住人は多い。完全に安全とは言い難い場所ッスけど、森の中よりはマシなはずッス。それにあそこからなら樹海を出る方法もあるッス」

「なら、向かおう」

 目的地は決まった。

 木から降りると、俺はネオバベルの方角へ進もうとしたが、スミに止められる。


「その前に、このワイルドキャットでデモンのトドメの刺し方を教えるッス」

「ワイルドキャットはもう死んでるだろ……いや、プラーナの塊がまだ残っている?」

 死体からは霧散していくはずのプラーナが、まだワイルドキャットには塊として存在していた。生きているのかと焦ったが、やはり死んでいる。

 スミは息絶えたワイルドキャットを蹴り、仰向けにさせるとその胸を引き裂いた。

 更に爪を突き刺し、引き抜かれた爪には、血の滴る黒い球体が刺さっていた。

 心臓にしては完全な球体すぎる……そう考えていると、スミは爪からそれを引き抜き地面に転がした。

 ワイルドキャットのプラーナは、すべてその球体の中にあった。


「これがデモンの命の源、魔核ッス。デモンは心臓が潰れても、脳が吹っ飛んでも、最重要器官である魔核がある程度無事なら再生できるんス」

 転がる魔核を見ると、既にスミの開けた穴が塞がっていた。というか、自力で転がっている……ワイルドキャットの死体の方角へ。


「このまま死体に戻れば、数時間で蘇生するッス。死体が残ってなくても個体差はあるッスが時間をかければやっぱり蘇生するッス。その前に……」

 そう言いスミは足の爪で魔核を切り裂いた。

 今度は魔核の傷は塞がらず、魔核は砂のように崩れてしまった。プラーナも、大気に霧散していく。


「これで本当に死んだッス。本当は魔核に特別な注射をして再生しないようにして回収するのがベストッス。専門の業者に持っていくと高く売れるんスよ」

「なるほど、勉強になった。もしかしてスミに心臓が2つあったように思えたのは、片方は魔核だったのか?」

「多分そうッス……もしスミが死んでも、魔核を回収してくれれば助かるかもしれないッス。覚えといてくださいッス」

「覚えておくよ」

 そんな想定はしたくないが、スミの命に関わることだ。そうならないようにしつつも、忘れないようにしよう。


「ワイルドキャットの肉、いくつか葉っぱで包んで行くッス。スミは生でいけるッスけど、ご主人様は焼かないとお腹壊すッス」

 スミ、それ半分共食いだけど全然平気そうだな。魚も魚を食べるわけだし、深く考えるのはやめよう。

「俺は肉食べると胸焼けが酷くて……サバイバル中だし、そんなワガママは言ってられないんだが」

 うどん&サラダ+ビタミン剤が俺のベストパートナーです。そして正直飯より水分補給したい。

 そんな会話をしつつ、俺たちはようやくネオバベルへと出発した。


「ネオバベルに着けば、樹海の外に出る道もわかるのか?」

「最新の地図もすぐに役に立たなくなるほどに樹海は変化するッスから、普通に出て行くのはそれでも大変ッス。でも、ネオバベルには主要都市と繋がる魔導ゲートが存在してるッス。それを通れば一瞬で樹海の外ッス」

 詳しく聞くとまさかのワープ装置である。

 ネオバベルと樹海の外を繋ぐ唯一の交易路で、決まった時間に起動し、大人数が移動するそうだ。


「もしネオバベルが肌に合わないようなら、ご主人様は異世界人だから、神聖地球帝国に行くのがいいと思うッス」

 神聖地球帝国。

 そんなバリバリに、神を崇拝する地球出身者が建国しました、とアピールしてる国があるのか。


「それまでも何度も異世界人が国を建国しては滅びてたんスけど、200年前に建国された神聖地球帝国は過去最大の版図を築いたッス。それ以降異世界の文化や技術がデモンクロス全土に広まっていったッス」

 既に文化侵食が激しいなら、内政でチートとか考えてた奴はご愁傷様としか言いようが無いな。


「じゃあ電話やネットなんかもあるのか?」

「ネットって何かわからないッスけど、携帯電話はあったッス。魔導技術と科学を融合させて、色々再現してたッスね」

 異世界、森、魔物とテンプレ過ぎて想定もしてなかったが、この異世界は普通に文明が発達してるようである。

 そりゃあんな頻度で地球人連行してたら技術流出くらいするか。

 いや、あの頻度が普通だったら若者どころか地球人みんな異世界送りになってしまう。

 偶々増量セールだったのかな。神の考えなんかわかるわけないが。


「とりあえず、そういうのを確認するためにも今を生き抜かないとな」

「そうッスね。結構大物来ちゃったッスけど……」

 前方の木々の隙間から、その幹より太い巨体が現れた。

 4メートル強の、芋虫に牙だらけの口を取り付けた外見のデモンは、こちらに殺気を振りまきながら近づいてくる。


「サンドワームッス。弱点は口の中の舌っぽい軟体ッス」

「そこはどんな器官なんだ?」

「本体ッス。あのデカイ体は全部口と消化器官で、その中に本体があるんス」

「胃の中で生きてるのか……っと、来るぞっ!」

 意外と速い動きで二人まとめて飲み込もうとするサンドワーム。

 それを躱して上に飛び乗ったスミは、爪でその体を切り裂こうとした。


「硬っ!!」

 だが、爪は通らなかった。サンドワームの表面はゴツゴツとしており、そう簡単には貫けない。

「なら、ご主人様によって目覚めた気功パワーッス!!」

 コツは掴んだとばかりに全身にプラーナを巡らせるスミ。

 サンドワームの標的が完全にスミに移ったので、俺はその様子をじっくり見れたが……ううむ、凄いな。

 修練もなしに気功を自在に使えるようになっている。かなり怪しいところはあるが、出力的にもまだ体を壊すような段階じゃない。様子を見よう。


「これでどうッス!!」

 今度の切り裂きは、サンドワームの表皮を貫いた。

 体液を撒き散らし、雄叫びとも悲鳴とも取れる声を上げるサンドワームは、身をよじりスミを振り落とそうとする。

 しかしスミも簡単に落ちるほど甘くはない。

 サンドワームの体に爪を食い込ませながら振り落としに耐え、その表面から更に体液を噴出させる。

「ゴアアアアアア!!!」

 サンドワームの口から何かが飛び出し、スミへと迫る。


「おっと! これが本体ッス!!」

 なるほど、届かない位置にいる敵にはまるで意思ある鞭のように、本体が口から飛び出し攻撃するのか。

 だが、それは頑強な要塞から自ら飛び出す行為に等しい。

 スミは本体を迎え撃ち、爪で切り裂く。本体が致命傷を受けたと同時に、振り落とそうという巨体の動きも止まった。

 どうやら死んだらしい。後は魔核か。


「確か、本体の付け根にあるはずッス」

 口の中を覗きこんだスミは、爪で本体を巨体から切り取る。そして、少しもぞもぞ動いた後、魔核を持って出てきた。手と魔核が体液でヌラヌラと光っている。


「ワイルドキャットの魔核より大きいな」

「サンドワーム自体大きいッスからね。とはいえ大きくても魔核は頑丈だから、こうして剥き出しにしないと破壊は難しいッス。生き返るまで案外時間かかるッスから、状況次第では放置もありッス」

 確かに、複数を相手にしているときなどは魔核の回収は難しい。

 しばらく生き返らないというなら、魔核は後回しでもいいだろう。

 サンドワームの魔核を破壊すると同時に、またも草木をかきわける音が響く。

 新たなサンドワームが2匹追加である。


「ご主人様は下がっててくださいッス。今のスミなら……あ、あれ?」

 ガクリとよろけるスミ。うん、予想通りである。

 しかしタイミングが悪いな、どうしよう。

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