プロローグ
結論から言うと、俺は神様に異世界へ召喚されようとしていた。
「うっひょお!!異世界召喚キタ~!!」
「ハーレム、NAISEI、チート!!」
そう騒いでいるのは、白い空間に連れて来られた俺を除く学校の生徒の約半分、100名程度。
最近話題になっていたからと言って、ちょっとオツムが心配になる。
話題とは、全国で起きている集団神かくし事件のことだ。
全国の中学、高校、大学で全校生徒が忽然と消失する事件が発生していた。大規模な誘拐事件だと多くの学校が休校となったが、何故かネットでは「異世界に行けるんじゃね?」と大きな盛り上がりを見せた。
休校になった学校内に、生徒以外の人間が大量に進入し「異世界召喚してくれ」と暴れる事件も発生していた。
そんな中、うちの学校は「少数教育校である我が校は大丈夫!」と謎の持論を展開し通常通り開校していた。
今まで事件が発生したのが最低でも1000人規模以上のマンモス校ばかりだったのは事実で、うちは200人しか生徒がいない地方高校だったから確かに一理あった。
それも現在なくなったわけだが。
『選ばれし若者たちよ……』
ここまで来たらお決まりな、どこからともなく聞こえる声様のご登場だ。
圧倒的な気配に息を呑む者、更なる興奮に叫ぶ者。空間のボルテージも最高潮である。
おうちに帰して、などと叫ぶ声はそれに呑まれて消えた。
『私はあなた方が住まう世界とは異なる世界、デモンクロスの神。世界に新たなる息吹を吹き込むため、あなた方を私の世界に御招待致します』
御招待じゃなくて拉致の間違いだと思うが、やはり大多数は歓声を上げてそれに気づきもしない。
残りの呆然とした者、泣き叫ぶ者、怒声を上げる者などは完全に無視して話は進んでいく。
『皆様には、悪しき魔物であるデモンを制御し自在に操る力を与えます。この力を自由に使い、デモンクロスに変化を与えてください!』
問答無用とばかりに俺たちの体が光り輝いていく。おそらく力を与えられたのだろう。
『さぁ旅立て栄光の未来へ! 私は最高神ニーソン!! 世界の変革を望む者なり!!』
言いたいことを言い終わると、ニーソンなる神の気配は消えていく。
そして消えるのは俺達も同様。体が透ける……おそらく異世界デモンクロスとやらに移動するのだろう。
くっそ腹立つな。何が世界の変革を望む者だよ。
具体的に何をするか決まったわけでもないが、これだけは心に強く誓った。
あの身勝手神に吠え面かかせてやる!
『ふむ……今回もいなかったか』
神ニーソンは先程転移させた人間たちを思い返していた。
以前から地球より多くの人々を転移させてきたニーソンであったが、今回の学校生徒丸々を狙った転移にはこれまでにない理由があった。
『予言神……あれによれば、間違いなくあの国の学生という区分にいるはずなのだがな』
最高神たるニーソンは、太古の昔はその位置にいなかった。古き神々を滅ぼし、その地位を手に入れた者である。
旧最高神の消滅によって、古き神々はほとんどがその地位を奪われ堕ちていった。
だが、僅かな旧神は手元に配下として残していた。
その中でも予言神はニーソンにすら知り得ぬ情報を予言という形で綴る神であった。
その神が最近になって、消滅した。いや、ニーソンが消滅させた。
「地球の若き人間がニーソンを滅ぼす。とうとう最高神様を殺した報いを受ける日が来たのだ!!」
わざわざその人間の映像まで見せニーソンを挑発し、怒りに触れて消されたのである。
しかしニーソンは、殺したのは少し早まったと今では思うようになっていた。
その人間が、まったく見つからないのだ。
ニーソンによる数千年に及ぶ人間の召喚に、地球の神々は年々妨害の手を強めていった。
かつては大陸1つ丸々召喚できたというのに、今では準備を凝らさねば数人がやっとという有り様は、ニーソンを酷く苛立たせていた。
予言神の見せた映像をニーソンは完璧に記憶していた。
それが日本人だとわかったため、数年の時間をかけて大量召喚の準備を行った。
そしてニーソンは成長を予測した上で、同年代であろう学生たちを無差別に異世界に召喚し続けた。
殺すためではない。人間に自分を殺すことは不可能だとニーソンは断じていた。
それでも、どれほどの力を持つのか興味があったのだ。
『デモンクロスにどんな変化を与えるか、見てみたい』
それを見極めた上で有能ならば、ニーソンはその人間を勇者として扱うことも考えていたのだ。
『……あれほどの筋骨隆々な男を見逃すはずもない。異国に住まう日本人だったか? それとも勉学などと無縁の野生児か……捕まえるには一番の方法だと思ったのだがな』
ニーソンが見た映像の男は、神々に愛されたとしか思えぬ完璧な肉体美を持つ少年であった。
一目見ればわかるのに、未だ見つからないことはニーソンを更に苛立たせた。
『……見つからなかったのは残念だが、流石にこれまでだな。地球の神は私と戦うつもりらしい』
今回の数十万に及ぶ人間の召喚に怒りに震える地球の神々は、ニーソンに戦を挑む準備を始めていた。
『ふむ、地球の神々を捕縛し尋問すれば、目的の人間も見つかるやもしれんな』
それでも絶対に負けなどありえぬと確信するニーソンに焦りはない。
ニーソンの力が地球の神々の総力より上であることを、誰よりもニーソン本人が知っていたために。
そうしてニーソンの意識は神々との戦の準備へと集中していく。
故に、気がつくことはなかった。
先ほど心の中でニーソンへ敵対の意思を示した青年……その名を、内野阿斗。
彼こそが探し求めていたニーソンに滅びをもたらす人間だということに。
何故気が付かなかったのか、答えは単純だった。
当時ニーソンが見た映像の中の筋骨隆々な面影は、今の阿斗には欠片もないのだ。
彼はとある理由で、酷く痩せ細った姿に変わり果ててしまっていたのだから。
主人公の体型イメージはキャ◯ャリン。