アストンの町
シオンによる盗賊退治から翌日。
朝早く魔物の活動時間帯でない時を狙い移動を開始。
辺りが暗くなる頃にシオン達はヒーバリの活動拠点の町のアストンという町に辿り着くと、ヒーバリは捕まっていた女性達を町を守る憲兵に預けた。
「被害者の女性の保護は良いが……」
憲兵はヒーバリが連れてきた縛られ猿轡までされた盗賊を怪訝な表情で見る。
普通は盗賊はその場で殺されて連れて来られる事が無い。憲兵達が引き渡されても手配でもされてないとその場で処刑以外の選択肢がない。ハッキリ言えば連れてこられても邪魔なのだ。
ヒーバリも盗賊のアジトの洞窟であるモノを見るまでは、団の仇の盗賊全員の息の根を止める気だったが、ヒーバリは少しの回復で自力で歩けそうな数人の盗賊だけは生かして連れてきた。
「……これ見てや。コイツらの持ち物やで」
「これは!」
ヒーバリは盗賊達が持っていた有る板状の紋章が付いた魔石を憲兵に渡す。二匹のキメラが合わさる様な特徴的な紋章を見て憲兵が顔色を変えた。
「…ジックリ情報を搾り取ってや」
憲兵が頷くとヒーバリは不幸にも生き残った盗賊達の此れからの運命を考え暗く笑った。
被害者女性の受け渡しに一応着いてきたシオンが受け渡しの無事の終了を確認すると、宿を探そうと離れ様としたが離れる前にヒーバリが声を掛けた。
ヒーバリは盗賊退治の報酬が出るから自分がギルドまで案内すると提案。シオンは特に断る理由もなく町に有るギルドまでヒーバリと一緒に移動。
移動する途中シオンはギルドに入れるかヒーバリに相談すると、13までは入れない年齢制限が有ると気まずげに言われた。
シオンは自分が14だと少しの憤りを込めて抗議。それに反応したのがシオンの隣に飛ぶ飛行物体。
「え、14……シオン様色々と小さすぎ」
「小さいかな?それなら大きくなるのに栄養がホシイヨネ。……妖精って栄養豊富ポイかな?」
「え、えへへ冗談ですよ。レフィから見ればシオン様はスゴいデカイデス!!」
シオンの隣に飛ぶ人形サイズの女の子妖精。
中学生ぐらいのピンクの髪の妖精、彼女の名前はレフィ、森でシオンに悪戯を仕掛けて捕まった妖精だ。
シオンの非常食もとい妖精のレフィは此所に来る前にヒーバリに命乞いした。助けを求められたヒーバリも見掛けは幼い少女なレフィなので助けるきになった。
因みにヒーバリは非常食は冗談だと思っている。レフィはマジだと思っている。
ヒーバリがシオンにゴハンを奢ると言う事でレフィは現在、シオンの非常食からシオンの使い魔兼非常食(仮)まで格上げされている。助かるためにシオンと使い魔の契約をした妖精のレフィ。
『此所が目的地のギルドですか?』
シオン達の前には外壁は煉瓦製、サイズは普通の民家の五倍程の比較的大きなアストンのギルド。日が沈みギルドは街灯の明かりで照らされている。
本当ならギルドはこの時間には閉まっているがアストンのギルドは珍しい夜中も運営するギルドなのだ。今はちょうど夜の仕事に入る前でギルド内には昼の仕事終わりのギルドメンバーがだいぶ残っている。団の仲間を無くしたヒーバリは何時もの光景に複雑な顔をする。
(……落ち込むのは止めや!帰ってこれた幸運を喜ばな。それにシオンちゃんの案内しなあかんし落ち込んでる暇はないで。)
「そや此方がギルドやで、そんでシオンちゃんギルドに入るんやろ?入るなら彼処の受付のおねえはんにギルドに入りたいって言えば良いいんよ」
ヒーバリはそう言うとシオンを一人だけで行かせる。いや妖精も一緒だ。
『向こうだって!行こうシオン様』
「あの妖精の子…レフィちゃんあない目立って」
ヒーバリは確実にシオンが絡まれると思ったがなにも言わないで送り出す。
「何だ?此処はギルドと無関係なチビが来る場所じゃないぞ。」
『ふふん、シオン様は今日からこのギルドに入るから無関係じゃなくなるよ』
「あん、ギルドに入るだとテメェみたいのが入れるか!その妖精を置いてとっとと帰りな!」
ヒーバリは予測通りと小さく呟く。ギルドには荒くれものが多く見た目が弱そうだと絡まれ強盗紛いの事も起こる。
ヒーバリも二年前には絡まれたギルドに入る前の洗礼の様なモノだ。ヒーバリは今回洗礼を受けるのは絡む側だと考えてるが。
(確かリンツ、Cランクの何時も新人苛めをする奴やね。まぁあの程度の迫力に負けるのは実力不足やと危険やし追い出す方が良いから黙認されてるんやけどね。………ゴメンな。新人苛め君今回は逆にボッこボコにされてな♪)
「無視すんじゃ[ボゴン!]ごふぁ!」 ドサッ
腹部を殴られて倒れたな。シオンちゃんそのまま受付に歩いて行った。
『うわぁ痛そう、死んでない……かな?』
(そら死んでへんやろ。一応Cランクやしな。
けど普通に生きてるのはエエけど胃液しか吐いてないな。血ヘドぐらい吐くと思ってたわ。意外に平和的に終ったな?盗賊相手に容赦なくギリギリな所までヤってたし同じことする思ってたんやけどなー。 折角、面倒なの大人しくさせるのに力を最初に見せておいた方が良いと思って、シオンちゃんを一人で行かせたのになー。)
ヒーバリは平和的に終わらす事も出来たのに恩人のシオンの為に、リンツを生け贄にしようとしていた。ヒーバリは関係ない相手には容赦が無かった。
(まぁCランクを一発で倒したんやし下手なチョッカイは減るかな)
「何だよアイツ、油断してたからってリンツが一撃?」
スキンヘッドの男がローブの相手に値踏みする視線を向けていた。彼はベイグン、世代は違うがヒーバリとの付き合い友人関係と言えた。
「良かった。まだ帰って無かったか…」
「ひ、ヒーバリじゃねぇか!!!無事だったのか!討伐が失敗して盗賊団の奴に連れてかれたって聞いてたんだが」
ベイグンと呼ばれた男は幽霊を見たかの様に驚く。ヒーバリも全滅した事と誘拐された事が知られてる事に驚いた。
「え、うん、まぁ何とかな。あの子に助けて貰ったんや」
「は?あのチビ助にか?……どうやって?」
ベイグンは眉をしかめて聞き返す。ヒーバリの言葉を信じてないと言うより信じたからこそ気になったのだ。
ヒーバリは頭の心配をされそうな事実が言いにくく気になっていた事も有り話題を変えることにする
「あー、うん。何とかな?そ、それより!浚われたって知られてるって事は……団の誰か戻って来れたんか?」
ヒーバリは自分意外にも助かったのかと少し声が震えていた。
「まだ知らなかったのか………残念だが生きちゃいない。…町に血だらけのダマークの奴だけ戻ってきてアバル団が全滅した事とお前の事を伝えた。……それでダマークの奴は知らせた少し後にな」
二人はギルド員はいつ死ぬか判らない事を理解していたが流石に一人残して全滅は重かった。
「……そうなんや…ダマークの死体は?…」
「もう燃やされたよ」
「………そうか」
(……死体も無いんか。冒険者ならそれが普通なんやけどな。一番下っぱのウチだけ残してアバル団全滅………女だから助かったと喜んで良いんかな)
ヒーバリは平然とした様に見えるが泣くことを必死に堪えていた。そんなヒーバリにベイグンは提案する。
「ヒーバリ良かったら俺達の団に来るか?お前なら歓迎するぞ」
ヒーバリは優秀だ。ベイグンが誘ったのはヒーバリが役に立つという理由もあるが、ヒーバリに対して善意も有った。
団が全滅し一人生き残ったヒーバリは幾ら優秀でも、邪推されたり縁起が悪いと何処の団にも入れない可能性が高い。
そんなヒーバリを入れるというベイグンは厳つい顔に反して少しお人好しなのだ。
それはヒーバリも察していたが……
「ありがとな。けど少し考えさせて仲間の弔いに行く前に決めるのはダメやろ。死体は無いしせめて教会に行って皆の魂が無事にヘレントに逝けるように祈る事にする。仲間になるのかはそれからでエエか?」
「そうか」
ベイグンは確かにその通りだとこの話題は止めることにすると声を潜める。
「…なぁ聞いても良いか?」
「なんや?」
「お前らを全滅させたの本当に盗賊か?アバル団が全滅なんて正直な……耳を疑ったぞ」
ベイグンには侮辱する意思はない。
人数は十人程度だが団長はAAランクで他のメンバーも最低でもAランクだけで固められた、このギルドでトップ戦力の一つとして数えられていたアバル団。ベイグンはアバル団が盗賊程度に破れたという話しが信じられないのだ。
「ああ………少し厄介そうやな盗賊や」
ヒーバリは怒りを抑えた平坦な口調で話す。
「……そう言えば何でアバルの奴はこの依頼受けたんだ?」
ベイグンは何かを察しこの場で詳しく追求するのは止め話題を変え質問をする。だがヒーバリはその質問に首を傾げた。
「……依頼受けた時はただの盗賊団思ってたから仕方ないやん?」
ヒーバリは団の全滅だが亡き団長の失敗とは考えて無かった。
誰が高ランクパーティを全滅させる盗賊なんて想像出来る。だがベイグンはなに言ってんだと言う顔をする。
「は?エルデスの団が皆殺しにあっただろ?何でそれでただの盗賊なんて……」
「ち…ちょっと待ってそんな話は知らんで!」
ヒーバリは驚く。エルデスとは団長はAランクの団。
Bランク等のメンバーも混ざりアバル団よりは戦力は落ちるがこのギルドの主力級。
(どういう事や!エルデス団の皆殺しにした情報あれば相手がただの盗賊なんて油断せえへん!!最低でも他の団に協力求めるなり人員を増やしてた)
「聞いてないのか?お前達の救援に向かう時にな止められて警告されたぞ?…噂はまだ出回って無かったがあの時にはギルドは知ってた筈だが……依頼受ける時に聞かなかったのか?」
「…アバル団長が受けたし聞いてたかもしれへんな」
そう言うと目を鋭くさせ沈黙するヒーバリ、自分で言ったことを欠片も信じてないようだ。ヒーバリは睨むようなギルド受け付けを見た。
「それではレベルをしらべますので此方の水晶に手を置いてください。
(レベルな……あ!『レベル検査』してるなら行かんと)
「ベイグン失礼するで!」
「ああ?」
ヒーバリは何かに気付き急いで水晶に手を置こうとするシオンの元に向かう。
「れ、レベルさ、ウグ ッ」
「おっとストップやで」
ヒーバリは予想通りとシオンのレベル検査結果を叫びそうな受付の女性の口を手で塞いだ。
「人前でレベルを言っちゃダメやで?」
ヒーバリが耳元で注意すると失態だと自覚している女性は口を塞がれた事に文句を言わずにコクコクと頷く。
ギルド所属の新人が入る時のレベルは一桁代。
だがシオンは平均レベルが50以上のヒーバリ所属のアバル団が負けた盗賊団に、一人で勝つ実力者。最低でもギルドトップクラスのAAランク以上のレベルが有ることは確定だ。
『ねぇねぇ幾つか見せてよ』
レフィがそう言い水晶に写されたレベルを見てきた。
ヒーバリもチャッカリと確認する。
さーて出てる数字はなんや?
「ファ!?」
『う、うわぁお』
ヒーバリは驚きレフィは呆れた。
70でAAランク
100でAAAランク
150でSランク。
人類の限界の200越えたらSSランク
水晶に出てる数字は……385。