やりたいこと
崖のある巨大な橋を越えた。
此所はバーグレイズ国境砦から百歩ほど離れた草原。
鼻に香る土や草の香り、穏やかな風。
青々とした自然の息吹に満たされた風景。
追放された英雄こと、シオンにとって新しい天地。
「うん…………変わらない」
新天地の風景は二秒眺めただけで飽きた。
新天地に来たと言う気分を出していたんですが、光景的には新鮮さは皆無。国境とか数百メートルと離れてませんしねー。
「まぁ兎に角新しい門出。さーてこれから先ずやる事は…………ええーーっと…あーーー ……どうしよ」
突然休暇を貰った仕事中毒者の様に手に入れた自由をどう使えばいいか悩みます。難解大学受験前の学生の様に自由になった後を空想していたのに、何をするか思い付かないですよー。
顔を気まずげに掻こうとして…
…ガリッ……
あ、まだ仮面つけたままでした。
「あ……取り合えずいらなくなった仮面は外しますか」
あの砦だと女の子に飢えた獣の兵士が沢山だったんで外せなかったんで、一年ぶりですか?顔が変形してないか心配です。
仮面と顔を固定してた耳についてる取っ掛かりを外す。
グッ!
「あれ?かた?」
接着剤でくっついてみたいに仮面が顔に張り付いてる?もう顔に固定とかされてませんよ。
グウウ!!!!
「うりゃ!!」
バリッ!
外れ、って!?皮膚が剥がれたみたいな音がしませんでした!?長く付けすぎて顔と同化してた!?顔は!?触った感じ、ツルツル…か、顔の皮膚は無事みたいですか。
「あー、良かった」
くっつく魔法でも掛かってた?そう言えば一年間の激戦で一度も離れて無かったんですよね。耳の取っ掛かりだけじゃ外れますか。くっつく魔法が掛かってても可笑しくないですか。
ふぅ一年ぶりに仮面が外れてスッキリ。付けてても普通に生活出来てましたけどやっぱり生の方が良いですねー。
ローブは寒いからこのままで良いですか。仮面は………まぁ…1年の付き合いですし捨てずに『ボックス』に入れときますか。
※ボックス(命名シオン)
使ってる本人も良く判らない不思議空間魔法。
生物は一部を除き入らない、ボックス内は時間が停止している、限界容量は不明。
現、ボックス内の保管物、
石ころ、お金、木の棒、布、剣、鍋、お菓子、食料?、呪いの仮面
食料は数ヵ月はもちますね……野宿も何とか行けそうですか。さて仮面をボックスに仕舞いましたし次はどうしましょうか?
利用されて捨てられたとも言えますが15年目にして自由です。そう自由になりました!アイムフリーーダァーム!!ですよ。
うん、いや、ですから嬉しいですけど…嬉しいんですけど……
「ホントにこれからどうしましょうかネ?」
自由に成りたいって思ってましたけど、…いざなると………やる事が思い付かない。無かったモノが突然手に入っても困りすね。この年で定年直後の老人みたいな感じですよ。
う~ん。これからはーー……自分が、やりたいことをしていいんですよね?
やりたいこと?
やりたいこと……ウーン。
やりたい事と言えば…… 好きなだけダラダラする?あっこれはダメ人間一直線です。幽閉生活だと自分の意思じゃ無いからやってましたけど自分からはダメですよね?さぁ…どうしよう?う~ん……今まで自由に何処にも行けませんでしたし、色々見てみたいですかね?
あ、そうです!!
あの塔で読んだ本で見たこの世界の不思議!!
世界一大きな木'世界樹、水の中に有る町、ドラゴンと人が住む山、魔物の町、亜人の国、あの砦を作った賢者様のすんでた国、男の夢の町!
うん、幽閉中に見てた本の事を思い出すと色々見て回りたい所が有りましたね!!見て回ろうにも何処に有るとか情報知りませんけどね。まあそれも込みで楽しむのも良いでしょう。
何処にどんな国が有るとかも知りませんし、先ずは色々勉強しなきゃいけませんか。…いえその前に…生活しなきゃいけませし、仕事探しから始めなきゃいけませんか。
はぁ働くですかー。……この一年間砦で一生分は働いた気分なんですがね。…なにもしないでよかった塔での生活が懐かしいです。仕事探しですけど…………何処で見付ければ良いんでしょうね?
見付ける以前にボクが出来そうな仕事は……出来る事は…殴る…蹴る、攻撃魔法…物理的な破壊ばかりです。
これで出来るのは……魔物退治ぐらい?魔物退治をするのは兵士か傭兵、後は冒険家かな?
ウーン
今思い付くのは魔物退治ぐらいしか無いですね。他の仕事なんて知りませんし。……また魔物を倒さなきゃいけないんですか。まぁもしかしたら他に向いた仕事が有るかもしれませんし、先ずはどんな仕事があるか町で調べてからきめましょうか。
となると仕事を探すのに町とか人が居そうな所に向かいませんとね? 理想は大きな町………現在地すら判らないボクには狙って行くのは無理ですね。先ずはここはどこでしょう?
一番近くの町か村は?
看板は無い。だからと言って後ろの監視してる感じの人には場所を聞きたくないですし。
んーーまぁ、最初は気の向くまま行くのも良いですか。
【国境の兵士】
俺がこの国境の砦に勤続して五年か。
勤続してから初めから三年ぐらいまではウチは大国だし、砦で隣接してる国が戦力の少ない交易国家だから……危険は少なかった。しかし二年前の魔族との戦争で隣国の動きがキナ臭く怪しくなっているんだよな。
魔族との戦いに本国が負けてるって話が聞こえて来た時には最悪だ。
砦を観察する奴がいたり、門を開閉する部屋の扉の鍵が盗まれかけたり、毎日寒気がすることが起きたんだよな。魔族の隙をついて隣国が領土の侵略をしようとしてる噂があった。
ーーいや実際は報復の可能性か。
英雄や勇者様が現れて本国の戦線が盛り返した話が出た後には、そういう動きが減った。しかし此れからも国が弱った所を狙うつもりかもしれないと言う話もあり油断出来ない。
ーー敵対する理由があるしな。
本国のお偉いさんからも砦の封鎖、最悪の事態が起きた場合の命令書が届いていた。
三日ほど前に混乱の原因の魔族との戦争が終わったと言う情報があり、ようやく国内が安定してこの砦も安全になったと思ったよ。
なのに、今日の朝早くに完全武装な上級兵付きの馬車が来たから驚いた。用件は拍子抜けにもローブを着た変なチビの国外追放らしい。
その国外追放したチビッこいのがようやく離れていった。
「ようやく行ったか」ボソボソ
隣にいた同僚のアインが小声で聞いてきた。国外追放者を見送る上級兵を気にしてるんだろうな。
「ああ、結局アイツ何者何だ?何で上級兵10人の護送付きで連れて来られるんだ?それに出ていく時には砦の要員の殆どが隊列を組んで見送るって」ボソボソ
俺が知ってる威張り散らす上級兵が護送何て下っぱの仕事するなんて普通あり得ない。それに見送る時のあの隊列って余程上の貴族を相手にする様な感じか?
「恨みを買いたくない厄介な相手なんだろうさ」ボソボソ
「いや厄介者に扱うと言うより、畏れ多いモノを扱ってた感じじゃなかったか?」ボソボソ
今も国外追放した奴を不安そうに見送ってるしな。
余程身分が高いのか?
「あー何にしても国外追放された奴だ。もう関係ないだろ」ボソボソ
「……そうかな」ボソボソ
そうなのか?
仮面を外した時に一瞬みえた金色。
金色の眼が見えたの気のせいだよな。
金色の眼って王族の証。
ヤバイヤバイ本気で厄介そうだ忘れよう。