三話
数日後、葉月は美香の家に来ていた。
ここ数日、会社の無断欠勤が続いていたため、会社側が心配して葉月のところに訪れたのだ。
何かあったら大変だから様子を見に行ってくれないかと。
葉月は会社側の話を承諾し、今に至る。
今日は、会社から休みをもらい、太陽が昇っている時間帯に来ている。
葉月は、携帯電話を取り出して、美香に電話をかけてみる。
「出るかな?」
そう呟きながら、電話に耳を傾ける。
聞こえてくるのは、アナウンスの音声だけであった。
「やっぱりダメか」
会社側から電話をかけても出なかったというのは本当だったらしい。
そのため、葉月は会社に連絡をするように頼まれたのだ。
葉月は、携帯電話をポケットに入れ、美香の家のドアに手をかけた。
「あれ?」
ドアは閉まっているかと思っていたが、すんなりと開いた。
「鍵、かかってない」
葉月は不思議そうにしながら、玄関に入る。
玄関に入ると、部屋の奥には美香が立っていた。
「美香~!」
葉月は、靴を急いで脱ぎ、部屋の奥まで走っていき、美香に抱きついた。
「良かった~!」
葉月は、安心しきったのか、涙を流している。
そして、抱きついた右手だけを解いて、携帯電話をポケットから取り出す。
急いで、通話ボタンを押す。
数回のコールの後に、
「はい、綿崎です」
「葉月です! 美香いました!」
「本当か!?」
葉月の答えに、綿崎も驚きを隠せなかった。
「よかった」
綿崎は安堵の声を漏らしていた。
「今、代われるか?」
「はい」
葉月は美香に電話を代わろうと、携帯電話を渡そうとした。
そこで、異変に気付いた。
元々、身長差があるから、美香が葉月の胸のとこに頭が当たるのは、当然分かっていた。
しかし、数十秒抱きついたままでも、苦しそうにしていなかった。
葉月は、美香を突き放し、
「ご、ごめん! 興奮しちゃって! 苦しかった?」
葉月が頭をペコペコ下げているのに対し、美香は頭を俯いたまま上げようとしなかった。
「綿崎さんが出て欲しいって」
そう言って、美香に渡そうとした。
そうすると、美香は頭を上げた。
「キャアァァァァァ!!」
葉月は叫び声を上げた。
驚きのあまり、携帯電話を落としてしまう程であった。
美香の顔は、白目をむいており、口はモゴモゴと何か物でも入っているかのような動きをしている。
いつもの美香とはまったく違う顔になっていた。
そして、美香は口を開く。
口の中には、大量の髪の毛が入っていた。
そして、モゴモゴとした口で一言だけ発した。
「タ……ベ……タ……イ」