二話
美香は、大量の買い物袋を手に持っている。
「よ~し! 買ってきた!」
買い物袋の中身は、掃除用具が大量に入っていた。
「今日は大掃除だ~!」
美香は自分自身に気合を入れるように、声を出した。
掃除が終わりかけたとき、押入れにも手を出そうと、押入れに向かった。
押入れには、数ヶ月前の髪の毛の件以来、まったく開けようとしなかった。
しかし、今日は大掃除である。
この機会に開けないと、押入れの中にはホコリなどで汚れきって、大変なことになるだろう。
あれは偶然だと言わんばかりに、胸に手を当て、深呼吸をして、押入れを開けた。
「な……何、これ?」
美香は腰を抜かしてしまい、すぐには立てない状態になっていた。
間の当たりにしたのはホコリではなかった。
押入れの中に夥しい髪が入っていた。
その髪の毛はまるで生きているかのように蠢いている
「だ……誰かに連絡を!」
美香は恐怖のあまり、腰の抜けた状態になってしまっていた。
それでも何とか移動しようと、四つん這いになったが、
「あ、あれ?」
足が何かに引っ張られる感覚がある。
足を上げて抵抗しようするが、動かない。
そして、それが何であるかを見た。
怖さのあまり、首は少しずつしか動いてくれない。
なかなか動かない必死に首を動かし、後ろの存在をみた
美香は声にならないくらいの叫びを上げた。
足に大量の髪が絡みついている。
絡みついた髪は、美香の体を這って伸びてくる。
「いやっ! いやっ!!」
美香は体に絡み付いてくる髪を振りほどこうとしたが、振りほどくどころかどんどん締め付けが強くなっていく。
そして、足に鈍い音が走る。
美香は叫んだ。
泣きじゃくる子供のように。
髪の締め付けで足の骨が折れたのだ。
「いたい……いたいよぅ」
美香の抵抗する力がどんどん弱くなっていく。
美香は、髪に少しずつ引っ張られていく。
引っ張られていく先は夥しい髪が入っている押入れである。
ぎっしり詰まった髪の毛が少しずつ穴を開けた
美香にはそれが、髪には見えなかった。
まるで、魔物の口のように見えた。
その魔物の口に美香の足が入っていく。
その口はまるで物を食べるように、髪を開閉させた。
「いたい! いたい!!」
美香がそう叫んでも助けは来ない。
足の激痛の感覚が治まらない。
そして、少しずつ……少しずつ、押入れの中に引きずり込まれる。
引きずる音と共に、鈍い音も奏でている。
その魔物は、少しずつ美香を引き込んでいき、腹のとこまで引き込んだ。
「かはっ!」
美香は口から赤黒いものを畳に飛び散らかした。
美香は手を口に当てる力の余裕もなかった。
痛みを耐えようと歯軋りをするが、力が入らない。
美香は、最後の力を振り絞り、魔物に向かって、
「いっそ殺してくれ! すぐに殺し――」
その瞬間、部屋中に響き渡るような鈍い音が立った。
その音がなった後、美香は、頭が垂れ、抵抗する力もなくなり、そのまま押入れに引き込まれていった。
部屋に響き渡るのは、食べ物を食べているかのような鈍い音、それしか聞こえなかった。
そして、鈍い音が鳴り止んだら、静かに押入れが閉まっていった。