表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

五百文字の小説

硬貨は回る

作者: 銭屋龍一

 グッドラックと言ってあいつは去った。

 旅先で知り合っただけの男だった。三日間、バッグパックを背負い、まるで兄弟のように並んで歩いた。砂塵の舞う荒野の長い長い一本道を励ましあいながら歩き抜けた。バグダットカフェを思わせる店で、しこたまビールを飲み、肩を叩きあって笑いもした。


 人生を変えたかった。

 一大決心をして海を渡った。だがそこに待っていたものは、あらゆる意味で僕を打ちのめすものばかりだった。本当に孤独である自分を嫌というほど見せつけられた。


 圧倒的に無力だった。


 とびっきりの笑顔を見せて去っていったあいつは、翌日のテレビのニュースで大きく取り上げられた。異邦の地で暴漢に襲われ、命を落した若い男として。

 涙が止まらなかった。僕の何処にこれほど熱い涙が隠されていたのか、驚くほどの量だった。安宿のベッドが津波に呑み込まれてしまうほど僕は泣きつづけた。

 冷たく静かに、窓の外にダークムーンが浮かんでいた。


 きょう、あの日のあいつがしたように、世界の全ての人にむけてグッドラックと言おう。あの日のあいつを真似て、あいつからの最後のプレゼントである小さな塊を、大空にむけて指で弾きあげた。力強い太陽の輝きを受けて、それは澄んだ青い世界をきらきらといつまでも回りつづけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ