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「あと、命の重さを思い知りました…」
そう咲斗は付け加えた。
「皆に望まれて生まれてくる子供の魂を運ぶ、新米天使にとって一番辛い仕事が初仕事だな」
「ですね。自分が失った物の大きさに気付かされました」
取り返しのつかない事はないと言うけれど、それは生きていることが前提で…。
「お前よりそれを痛感してるのは、あの娘だろ」
雅貴が希楽の方に視線を向ける。
「どうして…?」
雅貴の言葉の意味が分からずそう返す。
「知らないのか。なら俺が話すべき事じゃない。彼女本人が話すまでは…な」
「じゃあなんであんたは知ってるんですか?」
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むっとして言い返した咲斗に、勝ち誇った笑みを浮かべて雅貴は答えた。
「上司だから」
その答えと態度に咲斗はキレる。
「ワケわかんねー言い訳しないでください!」
「何大声出してんの?恥ずかしい…」
気付くと希楽が冷めた目でこっちを見ている。
「何でもないって」
そう言って希楽の元へ移動しようとした咲斗は擦れ違いざま、雅貴に言った。
「構いませんよ。俺待ってますから、あいつが話してくれるまで。俺があいつを守ります」
「へぇ、見た目の割に頭の中は詰まってるみたいだな」
「見た目の割に、は余計です!」
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「何騒いでんの?」
「雅貴、いい加減からかうのやめなよ」
希楽と里空が2人の元へ来る。
「からかわれていちいち反応しているようじゃあまだまだ、子供だな」
「…っ」
3人から笑いが起こる。
「ムッカツク…。じゃなくて、里空さん、雅貴さん、
俺、あなた達に聞きたいことがあるんですけど」
「ワザとらしく逃げたな…」
ぼそりと雅貴が言った。
「真剣に言ってるんです。答えてくれますか?」
反論せずに真剣な顔で話す咲斗に里空が穏やかに言った。
「何?俺に話せることなら話すよ」
「俺達は何故天使としてここにいるんですか?」
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「なぜって999、1000番目に死んだからじゃないの?」
「はあ…?」
素直にそう言った希楽に雅貴と里空は思わず変な声を上げる。
その後2人して大笑いしだした。
「ナルホド…。面白いこと言うね、叶さんも」
「ふざけたやつだ…」
ようやく笑いの収まった2人はそう言った。
「じゃあ、あれはウソ…ですか?」
「フツー信じねーだろ…」
「素直に信じるってのがまた可愛いねぇ希楽ちゃん」
「じゃあ、どうして…?」
「さあねぇ」
曖昧に誤魔化そうとした里空を雅貴が遮る。
「話してやれよ。隠す必要はない」
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「そうだなぁ。多分俺達がココにいるのは、こっちに何か強い未練があるからなんだ」
希楽と咲斗が里空の言葉に反応する。
「2人とも思い当たることがあるみたいだね」
2人の反応を見て、里空が確認する。
「強い未練を残したままだと、それが邪魔してその魂は転生できないんだそうだ。だから時が来るまで天使として俺達はココにいる、俺は叶からそう聞いた」
「時がくるまで、か」
この世に未練がなくなれば、転生して新しい道を歩む。
その時、今の自分はいなくなる…
「俺達が魂を扱わされるのはそのことに関係があるのかもな…」
死せる魂が命を運ぶ。
生まれ変わる命と、新たに生まれる命を。
そうすることで俺達は救われるのだろうか?
見渡す限り、空は青く、高く、澄みきっていた。
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ここでとりあえず1部終了という感じでしょうか。まずはイントロダクション的な感じで。番外編的なのを挟んで1人1人にスポットを当てていく形で本編へ戻っていこうと思います。命だなんて、なんて重い題材を選んだのだろうと、ちょっと怖くなってみたり。未熟な湖沼の腕でどう伝えることが出来るのか不安ですが、がんばりますので、応援よろしくお願いしますvv