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「子供の魂…?」
「そう、正確には魂の片割れ、ですけれどね。
人間はもう1つの魂の欠片と一緒になって初めて生まれて来るんです」
「知らなかった…」
「天使というと死んだ人の魂を導くイメージがあるようですが、実は天界に集まる全ての魂を扱っているんですよ。
これから生まれる命もね。この仕事はこの魂を目的地に運ぶだけなので、主に新米天使の仕事なのです」
叶の言葉に反応するかのように光の塊がきらりと輝く。
「では、お願いします。あ、場所はこれに書いてありますから」
残りの一枚の書類を咲斗が受けとる。
「はい。行ってきます!」
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「えっと…ここかな」
紙に記されていたのは、とある病院の場所。
「産婦人科だよね、きっと。うー、ほかの人には見えないってわかってても変な気分…」
廊下を移動しながらそう呟く。
飛べばいいのだろうけど、やはり周りで人が歩いていると同じように歩いてしまう。
「あ、人がいる」
分娩室の前の椅子に腰掛けている人が見えた。
妊婦さんの両親だろうか。
希楽の手の中で子どもの魂がきらりと光る。
「お父さんは来てないのかなー?」
希楽が自分の手元にそう話し掛けた時、廊下の奥から慌ただしい足音が響いて来た。
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スーツ姿の男性だ。
「花織は?」
廊下にかけつけた男性は先にいた2人にそう訪ねた。
「まだ生まれてませんよ。裕也さん、その恰好…もしかして」
「はい…会社から。間に合ってよかったぁ」
どうやらこの男性が父親らしい。
「仕事は大丈夫なの?」
「はい、生まれそうになったら早退するって一ヶ月前から宣言してましたから。
ってもう生まれる前から親バカですね」
廊下に笑い声が響く。。
「花織と約束してるんです。男の子だったらあいつ、女の子だったら俺が名前を付けるって」
「あら?でもあの子…いえ、どちらか楽しみね」
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「はい!」
母親が言いかけた言葉も気にならなかった様子で、男性は嬉しそうに返事をした。
(あーあ。もうやんなっちゃうね、パパたち。)
突然手元でくすくす笑い声がして希楽は驚いた。
「ええっ。あなたがしゃべってるの?」
(うん。パパが来るの待ってたんだ。ありがと、お姉ちゃんたち)
光が一層強くなったかと思うとすっと手の中から消えた。
その後聞こえてきたのは元気な赤ん坊の声。
「花織っ」
その背を母親は穏やかに見つめている。
「花織は私に嬉しそうに言ってたんですよ。裕也さんにこの子の名前つけてもらうのってね…」
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「元気な女の子ですよ」
手渡された赤ちゃんを不慣れな手つきで大切そうに抱く。
「約束よ。あなたが名前を付けてあげてね」
「実はもう考えてあるんだ、未来の見に明るいで未明。どうかな?」
「未明ちゃん、か。今日からよろしくね。あなたの未来はきっと明るく輝いているわ」
愛情に満ちた微笑みで、そっと話しかける。
「仕事完了、だな」
幸福に満ちた家族を眺めて咲斗が言う。
「そだね…」
あ、笑った!、そんな声を背に2人は病院を後にした。
ーーどうかあなたに素敵な未来が訪れますように…