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咲斗は希楽より先を飛んでいく。
見えるところに里空達2人がいないのをみると、きっと雲よりも下にいるのだろう。
希楽よりも少し先を、しかし彼女を置いていくでもなく、でも一定の距離を保って咲斗は飛んでいく。
もしかして咲斗が自分と必要以上に目を合わせようとせず、距離を保っているのは、照れ隠しの表れなのかもしれない。
希楽はふとそんなことを思った。
辺りはすっかり暗くなり、空には星が下には無数の光りに彩られた街がみえる。
「あの子達はもう、なぜ自分がここにいるかわかったかな…?」
街を見下ろして里空が呟く
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「さあな。そのうち知ることになる。放っておけ」
無関心な様子で話す雅貴。
「そうだけど…。でも咲斗君はともかく俺は希楽ちゃんが心配なんだ。
あの子の目を見てるとね…なんとなく彼女がここにいる訳も想像がつく」
「無理に俺達が詮索することはない。年の近い奴のほうがあの子もいいだろう?
ぶっきらぼうに見えて咲斗は案外相手のことをきちんと見てる奴だから」
「さすが♪自分と同類な人のことはよく分かっているようだ」
「うるさいっ」
茶化す里空を睨みつける。
その慌てた様子がおかしくて里空は笑い出す。
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「里空っ。いい加減、その笑いをやめろ…。キレるぞ」
ますます不機嫌な雅貴。さすがに飽きたのか、里空も笑うのを止めた。
「じゃ、そろそろ行ってくるとしますか」
「さっさと行け」
「冷たいなあ、今何月か分かってる?」
「12月の初めだな」
「そう。3月までもう長くないんだよ。わかってるんならもう少し愛想よくしてくれてもいいじゃん」
「無理な話だな」
「薄情だねー、雅貴って。ま、しょうがないか。じゃあ行ってくる」
「ああ」
里空の体が雲の遥か下、街の光の中へと消えていった。雅貴はその場で里空の帰りを待つ。
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雅貴と里空を探して下の方へ下りていった2人が見つけたのは、1人で佇む雅貴だった。
「あれ?里空さんは…?」
「下。なんだ。もう少し2人でゆっくりしていればよかったのに」
「なっ…、何言ってんですか。じゃなくて…、下…ですか? 何をしに?」
今いるところからは、既に街明かりが見えている。
さらに下というと地上へ行ったということになるのだろうか。
「ああ。人に会いにだそうだ。」
「人に?誰にですか…?」
自分達の姿は地上の人には見えない。そう聞いている。会いに行っても相手には見えないのではないのか。
「あいつの話だ。俺が言っていいことじゃない」
「そ、そうですね。すみません。」
お前は、里空のことを知らなくてもいい。そういわれた気がして、希楽は少し悲しくなった。
「あー、雅貴。希楽ちゃん泣かすなんてサイテーだな。」
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突然後ろに現れた里空に抱き疲れて慌てる希楽。
耳元で里空がくすくす笑っている声が聞こえる。
「泣かしてないだろ」
「いーや。泣きそうな顔してたもん。雅貴が悪い」
「何もしてねぇっ!」
「雅貴さんは悪くないです。私が勝手に…」
うつ向いて希楽がそう言った。
「ほんと?あいつの態度が恐かったんじゃない?」
「…恐くなかったわけじゃないけど…。そうじゃなくて、
聞いちゃいけないこと聞いたってわかって、
私ってダメだなって思ったら泣きたくなってきて」
「わっ、泣かないで、希楽ちゃん」
泣き出した希楽に慌てる里空。