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広い広い澄んだ空に、小さな少女の姿。
太陽の光で眩しいその姿を、3人が見つめている。
希楽は大きく息を吸い込むと優しいメロディーの歌を紡ぎ始めた。
その声はどこまでも澄んでいて、どこまでも暖かかった。
「和紀君にとって最高のレクイエム(鎮魂歌)だね…」
そう、里空が微笑んだ。
願わくば、あなたに最高の幸せが舞い降りてきますよう…ー
少女の澄んだ歌声は果てしなく続く青い空にどこまでも、響き渡った。
(和紀くん、今度こそ幸せになってね)
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「はい、ご苦労様」
そう言って先ほど4人へ渡した紙切れを受け取った叶は、ぱちんと指を鳴らす。
すると紙は天を目指すかのように、さらに上の空へと飛んで行った。
「これで任務は終了です。ではまた次の仕事の時に会いましょう」
そう言って叶は姿を消してしまった。
いつの間にか辺りは暗くなっていて、見たことのない近さで星がきらめいていた。
「わー、きれー」
思わず天を仰いで雲の上にあお向けになる希楽。
里空が微笑みながら横に腰をおろす。
「ここは雲より上だから、いつもこうして星がきれいに見えるんだ」
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「そっかぁ。なんだか手が届きそう」
「女は好きだな、そういうの…」
「なによ…、」
ぼそっと咲斗が呟いたのを聞いて、希楽は咲斗を睨む。
「ま、今日は疲れた。たまにはこんなところで寝てみたくはなるけどな」
決して希楽と目を合わせようとはせず咲斗は希楽と同じように雲の上に寝転がる。
「なに?気でも使ってるの?」
くすくす笑う希楽に咲斗は不機嫌になる。
「うるせー」
ますます希楽と目を合わせないようにと、そっぽを向いてしまう。
「あーあ、やってられないな。雅貴、お年寄りは退散しようか」
「まったくだな」
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「え、ちょっ…」
慌てる2人をおいて年長組は雲より下ヘと消えてしまった。
「……」
あとには希楽と咲斗の2人だけが残された。沈黙が続く。
「ねえ、起きてる?」
先に沈黙を破ったのは希楽だった。
「ああ?」
なんとも不機嫌な返事が返って来る。それに対しため息をつく希楽。
「どーせあたしのこと嫌いなんでしょ?里空さん達のとこへ行けば?」
「ちょっと待て。なんでンな話になるんだよ…」
今度は咲斗がため息をつく番だった。
「私なんて、いつもトロくて、すぐ泣くし、一緒になんて、いたくないに決まってるもの」
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「本気で言ってんのか?」
突然咲斗がくるりと体の向きを回転させる。
希楽と咲斗の視線が合う。
「…だって事実だもん。何の取り柄もないし、私なんかといたって、誰も…」
答えながら自分の目が潤んでいるのを自覚して今度は希楽が顔を背ける。
咲斗は何も言わず黙っていたが、しばらくして起き上がって言った。
「そろそろ里空さん達のところへ行くか。
お前がどうしてそんなふうにしか自分のことを思えないのかは、そのうち聞いてやるよ。
でも、俺はさっきのお前の歌を聞いてすげーって思った…」
「…ありがと」
「ほら、行くぞ」