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この青い空から  作者: 湖沼 弥音
bright future
38/40

10

無事卒業式が終わり、卒業証書を手にした子どもたちが花道を通って運動場へ出てきた。目に涙を浮かべる子どもたち、晴れやかな表情でハイタッチを交わす子どもたち。青い空には、彼らを優しく見守る里空たちの姿があった。


「ちょっと、先生泣きすぎだから」


出て来た時に誰よりも一番号泣していたのは、担任の浜野であった。


「だって、皆そろって卒業出来たことが嬉しくてっ」

「その節はご迷惑をおかけしました!」

「先生、本当にありがとうございました」


来桜が姿勢を正し頭を下げたのに続いて、輝も礼を言う。


「ふ、二人とも。よくがんばったなあ」


二人を抱きしめ、さらに号泣する浜野をクラスメイトたちは苦笑しながら見守る。


「本当に良かったですね」


その様子を見つめながら希楽が里空に話しかける。


「そうだね。みんなよくがんばったよ」


「お前もな」


珍しく雅貴が里空を労う。


「僕?僕は何もしていないよ。天使なんて大層な名前なのに、本当に無力だよね」


「いいや。炎を動かしたのはお前が最後の願いを使ったからだろ?あのタイミングで願いを使おうと決断していなければ、今日のあいつらはいない」


「最後の願い?」


聞き慣れない言葉に咲斗が反応する。


「俺たちは、天使の間に一度だけ、現世に干渉する事ができるんだ。その願いは、普通なら起こり得ないようなことも多少なら無理が利くらしい」


「初めて聞きました」


希楽達は驚く。


「お前たちはまだまだ新米だからな。契約終了に近づいた天使にだけ許される特権で、その時に知る奴らも多い」


とは言え、契約終了間近の天使だけが願いを行使できるというだけで、希楽達のような新米天使が最後の願いの存在について知ること自体は、問題ないらしい。


「本当はこの子たちの卒業祝いに桜でも咲かせてもらおうかなーなんて考えていたんだけれどね。みんなの笑顔を見たら、あの時僕の判断は間違っていなかったって安心したよ」

「お祝いの桜かぁ、素敵ですね」

にっこり笑って話す里空に希楽が微笑む。


「春名先生ー!!」


突然輝が空に向かってそう叫んだ。

里空は驚いて輝を振り返ったが、どうやら自分の姿が見えているわけではなさそうだ。


「僕たち卒業したよ!」

「これからもがんばるからね!」

「先生のことずっと忘れないよ」


子どもたちは思い思いに空へと叫ぶ。


「みんな、ずっと見てたよ。これからもがんばれ」

里空の瞳からは大粒の涙がこぼれた。


「先生、俺を助けてくれてありがとう!」

最後に大きな声で叫んだのは来桜だった。その言葉が意図する真の意味を、唯一わかっている浜野が、涙を拭いながら空へ向かって一礼した。


「……っっ。本当におめでとう」

どうがんばっても、里空の声は皆へ届かない。

その事だけが悔しく、残念でならなかった。


「仕方がないですねえ。今回は私からのサービスということで」

そんな声が上空から聞こえたかと思うと、辺りが明るくなり、風が吹き抜けた。


ざあぁぁぁ。


その直後、運動場が歓声に包まれる。

小さな蕾だった桜の花が、一斉に咲き乱れたのだ。


「大切な生徒を守るために、自分の最後の願いを捧げた里空さんに心打たれました。この桜は私からの個人的なプレゼントです」


そう言って、デスクに座った上司はウィンクした。


「叶さん、ありがとうございます」


里空は深々と頭を下げた。

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