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彼らは学校へさえ来れるようになれば、すぐに周りとは打ち解けられるよ。
そう里空が言っていた通り、あれから二人は毎日学校へ通っていた。
家庭科の自由献立の課題では、輝が見事な手際でハンバーグを完成させ、皆を驚かせた。家に引きこもっていた間に身につけたらしい。
来桜は運動神経が良く、すぐに休み時間になるとクラスメートとサッカーボールを追いかけるようになった。
「ようやくお前も安心か?」
シュートを決め、ハイタッチして喜び合う来桜を眺めながら、雅貴が里空に言う。
「輝はね。後は子どもたちが助けてくれるはずだ。でも、来桜のことは根本的なところが何も解決してないんだよね……。」
「このまま何事も無ければいいんだけれど」
チャイムと共に校舎へ帰って行く来桜を、難しい表情で見つめながら、里空はそう呟いた。
それから数日経ったある日、
「来桜、サッカー行こうぜ。」
休み時間になり、クラスメートの一人が彼の肩を叩いた。
「っっ!触んな!」
来桜は一瞬顔をしかめ、思い切り相手の手を振り払った。
「あ、ああ。わりぃ……」
余りの剣幕に思わず謝ったが、そんなに強く叩いた覚えはない。なぜこんなに怒らせたのか解らない。
「今日はいい」
低い声でそう言うと一人で教室から出て行った。
「何だよ。変なヤツ……」
その日の掃除の時間、来桜は廊下掃除の担当だった。今日の来桜はずっとイライラした雰囲気を醸し出していて、輝はそんな彼を横目で気にしながら机を運んでいた。
「ちょっと男子、先生いないからってやめなよ」
扉の向こうには、水道の所でふざけあっているクラスメイトが見えた。
「わかってるって」
そう答えながらも蛇口を手で押さえ、遊ぶのを止めない二人。
「もーいい加減に……きゃっ」
そうこうしている内に水道から大量の水が飛び散った。
「うわっ、冷て!」
その水は見事に廊下を掃除していた来桜にかかった。
「げっ。来桜、ごめん」
来桜は頭から水を被り、彼のTシャツはびしょびしょだ。
ドン!
怒りにまかせて壁を蹴ったあと、自分に水をかけた二人を睨みつける。
「うっぜ。サイアク。」
すれ違い様にそう吐き捨てると、教室へ着替えに入った。
「ごめん……。」
「……。」
大きな音と、来桜の荒れた声にクラス中がシンとなる。
「……んだよ。さっさと掃除しろよ!」
イライラした来桜の声に、サッと皆が視線を逸らし、掃除を再開する。
「……。」
口調は荒いが、基本人当たりのいい来桜だ。今日はどうも様子がおかしい。
そんな彼がどうしても心配で、輝は濡れた服を脱ぎ体操服に着替えている来桜にチラリと視線をやる。
「!!」
思わず声をあげそうになったが、また彼に怒鳴られてしまいそうだったので、輝は急いで視線をそらした。
一瞬しか見えなかったが、彼の肩には大きな痣があった。それ以外にもあちこちに傷や青痣が見えたように思う。
「来桜……」
呼び掛けようとして、冷たい目で睨まれ、輝は言葉を飲み込んだ。
あの時自分はどうしてもっと食い下がらなかったのだろう。輝は後悔した。
翌日から来桜は学校に姿を見せなくなった。