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この青い空から  作者: 湖沼 弥音
bright future
32/40

輝は近くのスーパーに向かった。希楽たちはその背中を追いかける。

出来るだけ知り合いに会いたくないのか、顔は伏せ気味でたまにちらりと周りの様子を窺う。その背中はやはり覇気がなく小さく見えた。


弁当売り場に到着した彼は、しばらく悩んだ後、ハンバーグの入った弁当に手を伸ばした。

その時その手に別の小さな手がぶつかった。


「あれ?お前確か…同じクラスだよな?」


「俺だよ、大森 来桜きお。久しぶり。今も学校行ってねーの?俺も最近あまり行ってなくて知らねーんだけど。」


人なつっこい笑みを浮かべながら相手は話しかける。キャップ帽をかぶった小柄で元気の良い少年だ。


「来桜…」


キャップ帽の少年を見て驚いている里空に咲斗が問いかける。


「もしかしてもう一人の気になる子ってのが……?」


静かに里空が頷く。


「そう。大森 来桜。この子だよ。」


「ワリぃ。これ譲って?」


「僕が先だったと思うんだけれど…」


ハンバーグ弁当を譲って欲しいと言う来桜に、輝は静かに反論する。


「そんなこと言うなよー。俺今400円しかなくて他の買えねーの。小さいやつだと足りないし。」


「そういう理由ならいいよ。どっちにしようか迷ってたし。」


そう言って輝はからあげ弁当を手にする。


来桜はそのまま飲み物売り場へスタスタと歩いて行く輝の背中に声をかける。


「ありがとうな坂本!」


輝は彼が名前を覚えていたことが意外だったのか、驚いた表情で振り返る。


「なあ、坂本これから時間ある?これ一緒に食べようぜ?」


弁当を持ち上げにこにこと屈託なく話しかける来桜。輝は戸惑った表情のまま、黙って飲み物を2つカゴに入れた。


その日以降も二人はスーパーで会う度に公園へ行き、一緒にお昼を食べた。少し会話をして、食べ終わればそれぞれの家に帰る。

来桜は登校したりしなかったりの状態らしく、学校へ行かなかった日は昼前にスーパーの前で輝を待つようになった。


「なんだかんだで相性がいいのかな。少し安心したんじゃないですか?」


二人の様子を見ながら、咲斗が里空に尋ねる。


「二人が会うようになったことは良かったと思ってるよ。ただ根本が解決した訳ではないんだよね。」


二人を見つめる里空の顔は険しかった。


輝と別れた来桜は自宅へと帰る。その足取りは重い。

日中、家には養母がいるらしい。

希楽達は余程のことがない限り、他人の家へは入らないようにしている。

そのため、声でしか中の様子を想像できない。


「あらやだ。もう帰ってきたの。」


「……。」


「ただいまも言えないの?全く…」


「おい、何を大きな声出してんだ?」


中からは男性の声も聞こえた。


「アンタ、何で出てきたのよ!」


女性の慌てる声と、バタンとドアを閉める音が響く。

彼女の慌てようから察するに男性の声は彼の叔父ではなく、来桜と顔を合わせて欲しくない人物らしい。


「不倫相手と言ったところか…。」


玄関を睨みながら苦い表情で雅貴が呟く。皆思うところは同じようだ。


「ったく……。アンタ、父さんには黙っとくんだよ。もし約束破ったら、わかってるね。」


「っっっっ!!」


続いて聞こえてきたのが来桜の声にならない悲鳴。


里空は思わず扉をすり抜け家の中へ入る。希楽達も今回ばかりは里空に続く。


自分の部屋へ駆け込む来桜を追いかける。来桜は自分の部屋へ入ると電気もつけず、ベッドへ倒れ込んだ。


「父さん、母さん…っ。」


細い身体が震えている。

服の間から見える背中には小さくて円い、赤い跡が見えた。真新しい火傷の跡だ。


皆が声を失う。

「さっきの声って…。」

「!ちょっと!!これって虐待だろ?何が義理の母だよ。周りは何してんだよ。」


咲斗が里空に詰め寄る。


「僕ももしかして。と思ったことは何度かあったんだ。でも決定打に欠けていて何も動けないまま臨海へ行ってしまった。臨海学習も水着になるのを避けるために休ませたんだと思う。」


悔しそうな里空の顔。だが咲斗はまだ納得がいっていないようだ。


「里空さんは二ヶ月しか付き合いなかったからそうだったとしても。今は翌年の二月だぜ?学校や相談所はバカなのかよ!」


「巧妙に隠されるんだ。いつも跡が目立たなくなるまで学校には行かせない。傷も不注意で起こりそうなところにしかつけない。火傷だって家事を手伝ってくれているから小学生なら仕方がないで逃げられる。」


里空の手は強く握りしめられ、怒りで震えていた。気付けなかった自分への怒り。巧妙な方法で子どもを虐げる彼らへの怒り。未だに保護まで動けない大人への怒り。そして、何も出来ない自分への怒り。


「その辺にしておけ。お前の怒りはもっともだが、里空にぶつけるものではない。」


雅貴がまだ納得のいかない咲斗をなだめる。尚も口を開こうとする咲斗の肩を掴み言葉を被せる。


「里空が同じことを死んでから今まで考えなかったとでも思うか?」


「っ……すみません。でもこんなの許せねーよ。」


謝る咲斗に里空は黙って首をふる。

それまで黙って聞いていた希楽が静かに呟いた。

「この子……、先生にも相談出来てないんだね。」


希楽を静かに見つめると、里空は答えた。


「本人からの訴えはない。転校してくる前の学校へは一度も登校させてもらえていない。連絡さえとれていなかった。それも義理の親たちが両親を亡くしたショックが大きいからそっとしておいてくれと学校へ申し入れていたからなのだけれど。学校が家庭訪問を何度も申し入れ出した頃に転校を決めたらしい。」


視線を床に落とす。部屋にはまだ来桜の嗚咽が響いていた。


「彼にとって学校は誰も助けてくれなかったところなんだ。本人が助けを求めれば少しは動き出せるはずなんだけれど。」


「マジで悪質だな。」


吐き捨てるように言うと、咲斗は部屋から出て行った。希楽はその後もしばらくその部屋を動けずにいた。来桜が泣き疲れて眠った頃三人はそっと部屋を後にした。

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