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「死んじゃったら戻れないの?」
和紀は、まだ本当に死ぬということがどういうことなのかもわからないようだった。
「残念だけど出来ないんだ。
でもね、また、お母さんのところに、新しくもう一回赤ちゃんになって戻ることができるんだよ?
お兄ちゃんと一緒に和紀君が来てくれたらね」
「ほんと?」
「本当だよ。君はいい子だから」
「本当に、特定の元へ生まれ変わるなんて出来るんですか??」
「幼くして、死んだ子や辛い生を歩んだ人には特別にそういうこともあると聞くな…」
そうでないと、神はあまりに不公平だ。と雅貴は呟いた。
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「僕ね、小さい時からずっと病院でしか過ごしたことなくて、いっつも苦しかったんだ。
でも、ココにきたら、苦しくなくなったんだよ。
でも、今度は僕を見てお母さんが泣いてるんだ…。
戻ったら苦しいけど、お母さんなかないかなぁ。
でも、もう戻っちゃだめなんだよね。」
涙をとめることが出来ない和紀を、里空は抱きしめて言った。
「がんばったね、和紀くんは。もう苦しい思いしなくていいんだよ。
今度は元気になってお母さんたちと一緒に暮らそうね…」
「うん…」
「じゃあ、もうお別れしなきゃ。」
「あのね、ひとつお願いしていい?」
「なに?」
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「みんなに最後に挨拶したいんだ」
「ごめん。お母さんたちにはもう、君の声は多分聞こえないんだ…。
でも、君の妹さんになら聞こえるかもしれない」
しばらく考えた後、和紀は言った。
「佳澄に?それでもいいよ。どうしたらいいの?」
「もう少ししたら、君に空から光が降ってくる。
そうしたら、佳澄ちゃんに話してごらん?」
里空の言葉に空を見上げる希楽と咲斗。
すると空が明るくなって一筋の光が見えた。
さまざまな光を凝縮したような綺麗な光…。
「あの光が天界まで続いているんだ。
あの子が、自分の死を認めたということだな」
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和紀の体がその光に包まれていく。
そして、ふわりと浮き上がった。
「佳澄ちゃんに話してごらん!」
ー佳澄?いつも僕がお母さんとっちゃってごめんね。
これからは、僕の分とふたりぶん、お母さんとお父さん独り占めしてね。バイバイー
泣いている母親の腕をずっと握りしめていた小さな女の子ー佳澄ーはふと窓の外を見上げた。
「…。おにいちゃん?」
母親は、娘に目を落として呟いた。
「そうね、私にはあなたがいるんだもの。
和紀の分まで佳澄を幸せにしてあげなきゃ…」
そう言って微笑むと佳澄を抱き上げた。
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「おにいちゃん、ありがとう。またね」
そう言葉を残して、和紀の姿は天界へ続く空へと消えていった。
どこまでも、高く高く澄んだ空へ。
「バイバイ、和紀くん」
希楽は抑えきれなくなって泣き出してしまった。
「あんなに、小さいのに…」
躊躇しながらも咲斗が希楽の頭をなでる。
びくっと身をこわばらせる希楽に咲斗は口を開く。
「…きっと生まれ変わって今度はもっともっと幸せになれるんだよ。
泣くんじゃなくて、幸せを祈ってやれ」
不器用で、ぶっきらぼうだけれどしっかりと心のこもった言葉。
希楽は笑って少し上へと飛んで行くと広い空を見上げた。




