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「お兄ちゃんありがとう」
眩しい笑顔と共に少女の姿が光の中へ消えていく。
光の向こうには大きな扉。
扉の向こうで三人の影が揃った。
少女と両親は交通事故に合い、三人とも命を落としてしまった。しかし、彼女だけが、自分の死を理解できず、彷徨っていたのだ。
こちらの世界に一人取り残され、パニックになっていた少女をここまで連れてきたのは、ほぼ里空の功績である。
状況を説明しようといくら話しかけても、泣きじゃくる少女に希楽の声は届かなかった。雅貴は、話しかけようと近づいた時点で大泣きされた。咲斗はその様子を見て、近づくことすら諦め、お手上げ状態だった。
里空は、そんな少女に手品を見せて泣きやませ、肩車をして家族の話を聞き出した。そして、しゃがみこんで頭をなでながら少女が亡くなっていることを伝えた。一緒に来れば家族に会えると教えてもらった少女は花が咲いたように笑った。
扉が閉まり、溢れていた光も消えていく。
大きく息をついた後、咲斗が言った。
「里空さんって本当に子どもの扱い上手だよな。」
「うん。私たちじゃ手も足も出なかったのにあっという間。」
希楽も同意する。
少女がうずくまっていた公園には梅の花がきれいに咲いている。自分たちは気温を感じることはできないが、景色や人の服装から随分と暖かくなってきたことが分かる。
「雅貴さんなんてさらに状況を悪化させてましたからね。」
「うるさい。」
ニヤリと笑った咲斗の頭を雅貴が小突く。
「いてっ!」
「俺はもともとガキとは相性が悪いんだ。そもそも本職の奴に敵うわけがない。」
「雅貴は相性以前の問題だと思うけれど。愛想がなさすぎ。怖いんだよ。あと、僕の専門は小学生。あそこまで小さな子はやっぱり難しいね。」
里空が振り返って苦笑する。そのまま、咲斗の方に顔を向ける。
「でも咲斗くん、君は今日、始めから僕をアテにしていたよね。あの態度はいただけないな。」
亡くなる前は小学校の先生をしていたという里空は、いつも穏やかで笑顔を絶やさない。が、言うことはなかなかに厳しい。咲斗はバツが悪そうに目をそらす。
「うっ。あれだけ何をしても無理だと、里空さんに任せる方がいいかなって……。」
子どもが好きかと言われるとそうでもない、ましてや泣きじゃくっている子どもだ。できれば避けたい、里空に任せたいと思ってしまったのは事実だ。
「それじゃあいつまでも一人前の天使にはなれないよ。僕だっていつまでも一緒にはいられないんだし。」
「里空さん、いなくなっちゃうんですか?」
里空の言葉に不安げな表情で希楽が尋ねる。里空は少し困った表情を返す。
「いつまでもこのままって訳にもいかないでしょ。」
彼ら天使の仕事は魂を導くことだ。それは先程のように道に迷った魂だったり、これから生まれる赤ちゃんの魂だったりと様々だ。
そんな彼らも元は普通の人間だった。強い未練を持って死んでしまった為に転生の門をくぐることが出来ず、天使としてここにいる。
希楽と咲斗はまだ天使になって数ヶ月の新米だが、里空と雅貴は二人の先輩にあたる。天使として少なくない時間を過ごしてきているのだろう。
「そう……ですね。」
ここからいなくなるというのは、生前の未練に何らかの形で決着がつくということだ。むしろ喜ばしいことのはずなのに、寂しく感じてしまう。
「いやー、梅がきれいですね。」
「きゃっ!」
しんみりとした気分になっていた希楽の背後から呑気な声が聞こえてきた。
「叶さん。びっくりした。」
驚いて振り返ると、お馴染みの事務机と叶の姿があった。今日は和菓子とお茶のおまけつきだ。のほほんとした顔で湯飲みを傾けている。
彼は天使部長という肩書きだそうで、希楽たちの上司にあたる。導くべき魂の情報は彼を通じて希楽達に伝えられる。
いつも笑顔を絶やさないが、神出鬼没で、時にはゴスロリ少女に変身して対象者の前に姿を現してみたり、こうして突然現れてくつろいでみたり、どうも読めない人物である。
「こんにちは。美しい花を見ながら飲むお茶は格別ですね。皆さんもいかがですか?」
「はあ……。」
「俺たちに味覚など残って無いだろ。今日はどんな仕事なんだ?」
叶にペースを崩されることなく、雅貴が突っ込む。視線はいつもにも増して冷ややかだ。
「あ、今日はお仕事ではないんですよ。里空くんに用があって。」
雅貴の冷たい対応も意に介さず、にこにこと叶は引き出しから書類を出す。
「里空くん、契約内容の最終確認に来ました。」
お待たせいたしました。新章の更新です。
今回のメインは里空です。この時期にアップしたくて温めてきた内容になります。よろしくお願いします。




