15
「タケさん、昨日のオフにもしかして佑那がここに来なかった?」
晴貴が単刀直入に尋ねる。
今は数秒も時間が惜しい、そんなところだろう。そろそろ日付が変わる。約束の日まであと一時間を切った。
「ああ、来たよ。一人でな」
「!!!」
全員が顔を見合わせる。
佑那は一瞬目を見開いた後、険しい表情に戻る。やはり、記憶は完全には戻っていないようだ。
「その時の話を聞かせてくれ」
晴貴が頼む。他のメンバーも前のめりになって次の言葉を待つ。
「ああ。と言っても何も普段と変わりは無かったんだけどな。」
武則が言葉を続ける。
「今日はオフだから、って一人で来て飲んで帰ったよ。割と量は飲んでたけど、様子がおかしいとか変なところはなかったぜ」
期待していたような情報はここでも得られないようだ。皆も落胆を隠せない様子だ。
「何か話をしたか?どんなことでもいいんだ」
幹也がさらに尋ねる。
「んー。あ、ネコを拾ったとか言ってたな。とりあえずミルクしかあげてないけど何食べるんだろ?って話してたぜ」
猫。
新たなキーワードが出てきたようだ。
「お前は…、捨て猫まで拾うのか。なかなか乙女なんだな」
佑那を見下ろしながらニヤリと雅貴が嗤う。
「うるせー。そういうの弱いんだよ。でも昨日…拾ったか?」
佑那は首を傾げる。
「部屋に…いなかったよね?」
希楽も皆に確認を取る。確かに部屋に動物はいなかった。
「ネコぉ?そんなの部屋にはいなかったぜ…」
「でも、幹也。あの床にこぼれていた牛乳とコップ!」
和巳の指摘に晴貴も覚えがあるようだ。
「床に置いてあったのは猫にあげたからか」
どうやら部屋に猫がいたのは確かなようだ。
「こうなると、部屋に戻ってみるしかないな…」
皆が頷く。時間を考えてもゆっくりはしていられない。
店を後にする四人の背中に向かって、武則が叫ぶ。
「もう一つ思い出した!段々酔ってくると、あいつ饒舌になるからさ。機嫌もよかったし、毎年ツアーの回数を重ねられるのが嬉しい、とかお前らと一緒にいれるのが幸せだとかのろけてたんだ。あいつがあの後自殺なんてするわけないよ。頼む!なんでこんな事になったのか見つけてやってくれ!」
「ああ、もちろんだ」
彼らは力強くうなずいた。