13
「さて、まだ自分がマンションから飛び降りた日にどこへ行っていたのかは思い出さないかい?」
里空が佑那に尋ねる。ゲームセンターを出たときには時間はかなり遅くなっていて、街には灯りが灯り始めていた。
「わかんねー。海もゲーセンもよく来てた場所ではあるけど。後は……あ、」
『公園!!』
突然佑那と由奈の声が重なった。
「バスケットゴールのある公園って近くにありますか?そこで変装して混ざってプレイしてたって聞いたことがあるんです」
「あるぜ。俺も行ったことがある」
そう答えたのは幹也だった。
「六丁目公園だ」
「行ってみるしかないね」
晴貴の言葉に三人は深くうなずく。そんなに遠いところにあるわけではないらしい。歩き出した三人の後ろを追いかけながら、雅貴が佑那に話しかける。
「お前は、変装していたとは言え、公園なんかをウロウロしていたのか?」
「公園っていっても夜にはほとんど人はいやしねーよ。暗いコートでニット帽かぶってプレイしてても誰も気づかないし」
口調から察するに佑那は割と頻繁に公園にも通っていたようだ。
必要最低限の街灯に照らされた小さな公園。奥には一つだけハーフコートとリングがあった。
誰かが忘れて行ったのかバスケットボールが一つ転がっている。
幹也はそれを拾うと、きれいなフォームでシュートを入れた。
「ここで幹也とよくバスケをしてたってことか」
咲斗が呟く。
「いや。あいつとしたのは一回だな。後は一人で来てた」
「俺が覚えてるのは佑那とバスケしたことじゃないんだよな…」
もう一度シュートを打ちながら幹也が話す。
「でも、幹也も佑那もバスケット経験者だよね?」
和巳が問いかける。
「そうだよ。はじめはバスケをするために佑那につれられてここへ来たんだ。」
「だけど、俺もあいつも気の短いところがあるからよ。やってるうちに、だからおまえの演奏はガサツなんだ、お前こそカッコつけることしか考えてないんだ、って言い合いになってさ」
「言い合いになって??」
先を促す和巳。晴貴はそこまで聞いて合点が行ったようだ。
「そ、最後は殴り合いの喧嘩。思いっきりやり合ったな…」
「あったよねえ、二人して顔ボコボコに腫らして帰ってきたこと…」
天使たちは複雑な表情で佑那を振り返る。
佑那はバツが悪そうだ。
「ハイハイ、どーせ俺は気が短いよ。幹也とはよく意見が食い違うしぶつかってたけど、ここで喧嘩したのが一番酷かったな」
「俺は佑那のいつまでも腹を明かさない態度にムカついてたし、あいつも俺がデリカシー無くぽんぽん言いたいこと言う俺が気に入らなかったんだろうな」
幹也が今度はドリブルからきれいにレイアップシュートを決めて見せた。
「バスケをしてても相手の嫌な所が見えてイラって来てよ。でも、バンドでは、互いの持ち味がPleasant Noiseに必要だってのは認めてたんだよなー。」
幹也の言葉に、佑那が苦笑気味に続ける。
「だからそれ以降バスケは一緒にしないことにしたんだ。バンドでは仕方ないって許せるのに、他ではそうはいかない。変な話だよな」
それまで黙って聞いていた由奈がぽつりと言った。
「YUNAにとっても幹也さんにとっても自分でいられる場所が、Pleasant Noiseがだったんですね」
「そうだったのかな…」
佑那は複雑な表情でそう漏らした。
「素直じゃないねえ」
里空が仕方ないなあ、と嘆息する。
幹也が少し離れた位置から、ゴールを見据える。助走をつけると、何かを振り切るかのようにダンクシュートを叩きつける。しばらく俯いていた幹也だったが、振り返ると笑顔で言った。
「だから、今度は四人で来ないとな。それなら喧嘩にもならないだろ」
「僕はバスケなんてロクにできないよ。突き指するのがオチだ」
口を尖らせる和巳。
「ああ、四人で来よう、また、あんな風にボロボロになって帰って来られるわけにはいかないもんな」
和巳の頭をポンと撫でながら晴貴が笑う。
その三人を離れたところから見つめる佑那。その表情が泣き出しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。
「他に、佑那が行きそうな場所の心当たりはあるのかな?」
晴貴が由奈に声をかける。いつもの笑顔に見えるが、やはりどこか悲しそうだ。
「いえ、私が思いつく場所はこれくらいです。何の手がかりも得られませんでしたね、すみません」
「いや、そんなことねーよ」
幹也が言う。
「今までの場所は全部何らかの形で俺たちと関わりのある場所だった。もうちょっと俺たちは自惚れてもいいじゃねーか?佑那は俺たちと過ごした時間が大切だったって」
彼の目は力強い光を宿していた。
「俺もそう思う。佑那は自分から望んで俺たちの元を去ろうとしたんじゃないって。それが俺たちの探すべき佑那の本当の気持ちなんじゃないかな」
和巳がしっかりとうなずく。
「じゃあこのあと行く場所は一つしかないな」
『nighrworksだ』




