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「しかし…、ここには何の手がかりも無いようだな。」
晴貴が何かを振り払うように顔を上げて言った。
「他の場所…か。」
「後は、ゲームセンターとか。」
「ゲーセン!?あいつが?」
由菜の呟きに、幹也が驚きの声をあげる。
「はい。よく行っていたみたいですよ。格闘ゲームからクレーンゲームまでなかなかの腕前だとか。」
「それは、知らなかったな。」
晴貴も目を丸くしている。
「佑那が良く行くゲームセンターなら、多分この近くだ。」
突然の和巳の言葉に皆が驚いた。しかし、彼の表情は確信をもっていた。
「お前、佑那がゲーセン好きだって知ってたのか?」
「うん。一緒に連れて行ってもらったことがあるんだ。ここから五分もかからない。」
そう言って和巳は先頭を切って歩き出す。四人と、希楽たちも後をついて行く。
佑那の様子を横目で伺いながら咲斗が訪ねる。
「おい、ゲーセンってのは心当たりあるのか?」
「ああ。バンドやる前からよく入り浸ってたからな。今では随分減ったけれど。ただ、死ぬ前に来たのかはわかんねーな。」
相変わらず佑那は何も思い出さないようだ。
たどり着いたのは商店街の中にあるゲームセンター。大きいわけではないが、それなりのゲーム台は置いてある。
中へ入ると様々な音が入り混じった独特の喧騒に包まれる。
「俺からすると、和巳がゲーセンに通ってたってのも意外なんだけど。」
溢れかえる音に負けないように、少し怒鳴り気味の声で幹也が話しかける。
「僕は通ってないよ。佑那に連れてきてもらったことがあるだけ。」
メンバーを一度振り返ると、和巳はクレーンゲームの前で足を止めた。なかなかこのような深刻な表情でゲーム台に向かう人もいないだろう。
「あ、和巳と来た時のこと思い出した。あいつ両親にバンドを続けることを反対されてて、辞めようかと悩んでた時に連れてきたんだ。」
佑那がふと声を上げた。
「和巳のおうちって厳しいの?」
佑那たちのマンションでちらりとそのようなことを聞いてはいたが、バンドをやめようかと悩むほどだったとは。
「厳しいっていうか、あいつの家は病院だからな。兄貴も医大生だし、和巳も医者になれるだけの頭持ってるんだよ。」
「頭もあってベースの腕もあるってことか。皮肉だな。」
「まあな。歌しか能のない俺には分かってやれない悩みだよ。」
和巳がお金を入れると、音楽が流れゲームが始まる。中のぬいぐるみは子どもに人気のキャラクターだ。なぜ和巳がこの台を選んだのかはわからない。佑那のようにぬいぐるみが好きなのだろうか。
ボタンを押すとクレーンが動き、ぬいぐるみを捕らえにかかる。
「いきなり佑那にここに連れてこられて、色々なゲームに付き合わされたんだ。遊んだことないからボロボロに負かされたけど、大きな声で騒いですっきりしたのを覚えてる。」
1センチほど動いたが、ぬいぐるみはアームをすり抜けて行った。黙って和巳は次のお金を入れる。
「佑那は一度ゲームをやり始めると最後クリアするまでお金をつぎ込んでさ。かなりの腕前らしくて、どのゲームでも周りに人が集まってきてた。」
今度は数センチ浮かびあがったが、ぬいぐるみはバランスを崩して落ちてしまった。当然のように和巳はお金を再び入れる。
「最後にここの台で景品を狙いながら言ってたんだ。あと百円入れていたらクリアできていたかもしれない、捕れていたかもしれないと思うのが嫌なんだって。『俺は、やらなかったことを後悔したくない。自分で決めてやったことを後悔するなら上等だ。お前は今やらないって決めてしまうのか?』って。」
ついに的確にぬいぐるみの重心を捕らえたアームは、穴の位置までぬいぐるみを運ぶ。ゆっくりとアームが開き、ぬいぐるみは穴へと吸い込まれていく。
「だから俺はバンドも学校も両立させる努力をすることを選んだ。皆に迷惑をかけるのも分かっていたけど、後悔せずに済むように。」
取り出し口から景品をつかんで、無言で由菜へ手渡す。
あまり表情を表に出さない和巳だが、この時ばかりは悲しみを抑えているように見えた。
「バーカ。俺の遊びとお前の人生を同じレベルで考えるなっての。」
佑那はそっと和巳の後ろに周り、頭を小突くふりをしてみせたが、その手を振りおろそうとはしなかった。




