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そう言うと叶は何もない空間を指差した。
「?」
その瞬間現れたのは新たに2人の青年。
「ええっ」
驚く希楽をよそに黒髪の青年-2人の内の1人は叶を不機嫌そうに睨みつける。
「何の用だ?」
そんな青年をもう一人の青年がなだめる。
「まあまあ。そう喧嘩を売らずに。
大方そこにいる可愛い2人のお守りでしょう?」
優しそうな青年だ。
「かわっ…」
今度はその言葉にくってかかる咲斗を希楽がなだめる羽目になる…。
「察しがよくて助かります。雅貴、里空。あなた達の後輩です。希楽さんに咲斗くんです」
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「えっ…あのー。よろしくお願いしますっ」
「よろしく、希楽ちゃん。咲斗くん。
雅貴はこんなだけど噛み付いたりはしないから安心して(笑)」
どうやらこの優しい青年が里空で、黒髪のほうが雅貴らしい。
「さて、顔合わせが済んだところで初仕事に行って来てもらいましょうか」
そういって叶がよこしたのは1枚の紙切れ。
「それでは上手くいくことを祈ってます」
「祈る?成功して当然だ」
そう言うと雅貴はさっさと背を向けどんどん下へ降りていく。
「え…」
始めは空を飛ぶという要領がわからなくて希楽は必死でついていく。
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「お前ってホントトロいのな」
「…」
からかうような軽い気持ちで言ったのであろう
咲斗を思いきり睨みつけると
希楽はそのまま黙ってしまった。
「なんだよ…」
永遠にどこまでも続いていそうだった空を
下へ下へと飛んでいくと街が遥か下に見えだした。
「病院か?」
「一番命の駆け引きが多く行われている場所だ。病院は妥当だろう。」
咲斗に雅貴がそう説明する。
「ええと、305号室っと」
里空の後を追おうとする希楽と咲斗を
雅貴が制止する。
「お前らはあいつのやり方を見ていればいい。子供はあいつの専門だ」
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「?…」
そう言われ2人は里空とある程度の距離を保って後をついていく。
ー305号室ー
そう書かれた病室の中にいたのは1組の男女と小さな女の子。
「かずきぃ~っ」
母親らしき女性がベッドに横たわる男の子に向かって泣き続けている。
男の子の顔は死に化粧も終えられ綺麗だが、もうその目が開くことはない…。
里空は病室の窓の外で背を向け浮かんでいる男の子を見つけ声をかけた。
「こんにちは、和紀くん」
「え…?」
驚いて振り向いたその子はベッドの上の男の子だった。
「和紀くん、僕は君を迎えにきたんだよ。」
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「あの子の魂だ。
幼い子供は自分の死をすぐに認識できない。受け入れられないんだ」
雅貴は希楽と咲斗とは目を合わせずそう言った。
「最悪、現世をさ迷い天界へ行けず消滅することになる」
「そんな…」
「それを防いで天界へ導くのが俺達の仕事だ」
「誰?僕なんでここにいるの?
どうしてお母さんは泣いてるの?僕戻りたいよぅ」
泣きじゃくる和紀に対して里空はしゃがみ込み、目線の高さを同じにして言った。
「君はね、死んじゃったんだよ。
もうお母さんのところには戻れないんだ…別のところに行かなきゃならない」