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「あれもわざとなんだろうね。どうするつもりなんだろう、叶ったら。」
あくまで穏やかに成り行きを見つめる里空。
里空のほほ笑みを見ていると、希楽も少しだけ落ち着いてきた。
「あたしは神様の使いよ。ねえ、Pleasant Noiseのみなさん、YUNAを返して欲しくなーい?」
「は?お前何言って…」
「だからぁ、YUNAの魂はまだ完全に死んでないの。ま、このままだと直に消滅しちゃうんだけどね。あたしとしては、別に一人の魂が消えよーがどうでもいいんだけどぉ。」
ガタン!!!!
大きな音が響き渡る。
「っざけんな!お前にとってたいした魂じゃなくても、俺たちにとっては代わりなんかいない、大事な仲間なんだよ。あいつが帰ってくるなら何でもやってやろーじゃんか。」
大きな音は幹也が椅子を蹴倒した音だ。声を荒らげて叶に詰め寄る。
「ふ。そうこないとネ。」
凄む幹也の視線にも負けず、不敵に微笑む叶。
ワザとだ。絶対この人ワザと幹也を怒らせた……。
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「で、条件は?ただで返してくれるわけないでしょ?まあ、どんな条件でも飲むと思うけど。いいよね?ハルキ。」
「もちろんだ。俺も和巳も幹也と同じ気持ちだよ。」
和巳の冷静な一言に一気に空気が引き締まった。
「頭の回転が速くて助かるわ☆いーい?期限は3日。あんたたちが、佑那の本当の気持ちを見つけられたらあんた達の勝ち。もし、見つけられなかったら……バイバイ。」
「佑那の本当の気持ち…?そんなのどうしたらわかるんだよ。」
「もう少し、詳しく教えてもらえないか?その気持ちというのはどうすれば見つけられるのだろうか?」
叶の無茶な要求に、不平を洩らすことなく、少しでも情報を引き出そうとする晴貴。
ああ、この人たちは本当に佑那のことを大切に思っているんだ。
希楽は胸が痛くなった。
―― この人にはこんなに大切に思ってくれる人がいるんだ…。
「どこにあるのか、どんな形をしてるのかは教えられないわ。そうねー、じゃあ、一人助っ人を紹介してあげる。あなた達とは違う佑那を知っている子よ。」
そう言って叶は、一つのメールアドレスを書いたメモを渡した。
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「これは…?」
「YUNAのカノジョのメルアド♪」
『ええええええっ!!!』
部屋にいる3人と佑那の声がダブる。
息はぴったりだ。
「じゃ☆がんばってねー♪グッドラック!!」
そう言い残して、叶は彼らの前から姿を消した。
そして、いつもの服装と姿で希楽たちの前に現れる。
「よしっと。これくらいのインパクトがないと信じてくれない んですよね、みなさん。受けてくれてよかったよかった☆」
「ってめえっ、何ウソ吹き込んでんだよ!!」
「ウソではないでしょう?多少誇張した情報だったかもしれませんが。これであなたの本当の気持ちが見つかる確率がぐっと上がったはずです。」
詰め寄る佑那も、叶は涼しい顔だ。
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「だから、俺の本当の気持ちって何なんだよ!?」
「叶さんの立場からは彼らに与えられる情報はこれが限界なんだよ。ココもいろいろややこしくてね。」
里空の言葉で少しだけ佑那は冷静になったようだ。
今度は黙って考え込んでしまった。
「そういうこと。後は君の仲間に任せるよ。佑那君も辛いだろうけれど、彼らを信じて彼らを見守るといい。何か思い出すことがあるかもしれない。」
叶の言葉は、穏やかだけれど有無を言わせない何かがある。
佑那には他の選択肢は与えられていないというように聞こえた。
「ああ。」
「雅貴たちも行動を彼と共にすること。何か変化があったら私を呼んでくださいね。」
「わかりました。」
「佑那君、私に出来ることはここまでです。あとは、あなた達の絆を信じなさい。」
そう言って、まばゆい光と共に叶は姿を消してしまった。
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「とりあえず、Pleasant Noiseの皆さんに任せてみようか。」
「任せるって……。奴らがあの子と連絡取るなんてっ!!」
あの子というのは、先ほど叶が渡したメルアドの持ち主だろう。
佑那の慌てようから察するに、メンバーは知らない付き合いだったようだ。
「本当に彼女なの?」
「いや、彼女とかそういうのじゃなくて、本当にメールのやり取りだけの付き合いで。」
希楽の度直球な質問に対して、赤くなる佑那。
そんな姿は、大物アーティストではなく年相応の少年に見え、微笑ましく感じる。
「会ったことないんだ?」
「ねーよ。」
ということは芸能人ではなく一般の女の子ということか。
「おい、奴らがその子に会う時間と場所を指定したメールを送ってるぞ。」
「ちょ、待てよ!!てめぇら何勝手なことしてんだ!バカ!!」
冷静な雅貴の声とは対照的な佑那の絶叫は、彼らの耳に届くわけもなかった。
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