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リビングには佑那を除いたメンバー3人の姿があった。
どの顔もテレビで見る時とは違い、憔悴しきった表情だった。
どんよりとはこういう空気を指すのだろうと思わずにはいられないムードだった。
「……シケた面してんじゃねーっての。」
複雑な表情で佑那は悪態をつく。 彼の乱暴さは相手への愛着の裏返しなのかもしれない。
悔しいことに、仲間にこういった表情をさせているのは、自分自身なのだから。
「……。病院から連絡は?」
テーブルに座っていた晴貴が視線を落としたまま尋ねる。
「来てねぇ。島田さんの携帯も電源切れたまま。」
後ろのソファに突っ伏していた幹也が携帯を開きながら答える。
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「ってことは、まだマネージャーは病院にいるってことですよね。 連絡がないってことは急な容体の変化もない証拠だと思うけれど」
最後に口を開いたのが和巳だが、彼はテレビで見るのとはずいぶんイメージのかけ離れた格好をしていた。
普段は遊ばせている長めの髪を下ろし、黒ぶちの眼鏡をかけ、落ち着いたデザインのブレザーを着ている。
「和巳って奴は天陵学園の生徒なのか…?」
雅貴が驚いた様子で佑那に問いかける。
「ああ。俺と違って和巳は優秀だからな。でも学校側にも周りにもバレないように苦労してるんだ。 和巳の両親もバンドをやっていることはあんまり良く思ってないみたいだな。だから、和巳は実家暮らしだし、普段はこのマンションにはほとんど来ない。」
その彼がこの部屋にいる。それは非常事態だからだ。
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「そうだな。まいったな。こういう時にこそ冷静でいるべきなのに。一番年下の和巳が一番冷静に物事を見てる。」
「そんなことないです。俺はどこか冷めてるところがあるから。つい感情よりも理論が先に立ってしまうだけで。」
そんな二人の会話を聞いて幹也がソファから身体を起こした。
「ってかさー。人それぞれでいいと思うぜ。みんなそれぞれ佑那を心配してるんだから。冷静である必要も取り乱さなきゃいけない必要もない。」
再び部屋を沈黙が支配する。
その空気を壊したのは佑那自身だった。
「なんでこいつらは俺なんかのことを心配するんだろうな。俺なんてわがままで喧嘩っ早くて生意気なガキなだけだっただろうに……。」
「そんなふうに思っていたのはお前だけだったってことだろ。 離れて見てから初めて気づく。そんなもんだ。」
いつもの咲斗をからかっているような意地の悪い言い方ではなく、真面目な表情で雅貴がつぶやいた。
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「守備はどうですか??」
突然佑那の背後から声が聞こえた。
「わっ。なんだアンタ?」
そこに現れたのは叶だった。いつもの服装でデスクに座っている。
「はじめまして。私は天使部長の叶と申します。どうですか? 何か思い出しましたか?」
こちらの事情など全く意に介さない様子で、叶は話しかける。
「何かって…?」
「そうですねえ。自分が死んだ時のこととか?」
”死んだ”という単語に一瞬顔をこわばらせた佑那だったが、すぐに元の表情に戻って言い返した。
「まだ、死んでないんだろ?思い出してないし。」
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「そうですか。そのあたりの記憶が戻らないことにはどうしようもありませんねぇ。ここは少し、荒療治と行きますか。」
そういうや否や、叶の姿とデスクは消え失せ、代わりに部屋に高笑いが響き渡った。
「おーっほっほっほっほ。ご機嫌いかが?Pleasant Noiseのみなさん!」
「か、叶さん??」
叶が消えたタイミングと同時に、部屋に現れたいわゆるゴスロリ衣装の少女と佑那を代わる代わる見つめる希楽。
「……。おそらく…あの女が叶だな。」
「多分ね。どういう思惑があるのか。」
案外落ち着いた対応を取る年長組二人と半ばパニックの希楽。
「え?ええっ?」
「おい、落ち着けって。お前が慌ててもどうにかなるわけじゃないんだから。」
咲斗は希楽をなだめながら、あまりに目茶苦茶な上司の行動にため息をついた。
「お前っ!!いつ入ってきたんだ?ってか空に浮いている??」
幹也がゴスロリ少女もとい、叶を指さしながら叫ぶ。
「叶さん、みんなに姿見えてるじゃん!!」