私を婚約破棄して妹に乗り換えた男がどんどん不幸になり、魔術も解除された。
「はあ。やっぱり親から勧められた男と結婚したら大間違いだったのね」
私はぬいぐるみに話しかけた。
このぬいぐるみは、宮殿の中になぜか「拾ってください」と書かれた紙が貼られて落ちていたもの。
不思議だなと思ったけど、拾って大切にベッドの横に置くことにした。
で、そのぬいぐるみに話しかけるメルヘンな独身女の誕生よ!
というのも、私は夫に浮気されて、それで開き直った夫に婚約破棄された。
ちなみに夫の浮気相手は私の妹。
私に似てるけど、私よりもスタイルが良くて目が二重だからやっぱり魅力的だったねなどと言う。知らん。
まあ勝手に幸せになってくださいな。
と、いうわけで私は趣味の手芸でもやりましょうかね。
そう言えば、趣味が手芸の私としては不思議なことがある。
拾ったぬいぐるみが、どうやって作られたのか全然わからないのだ。
縫い目みたいなものが全くない。もしかして、すごい技術が発展した国のものかしら。それとも未来から来たとか……。
なんなんだろうか。ほんとに。
まあそれはそれとして、すごく可愛い猫のぬいぐるみなのでやっぱり可愛がるしかないね。
私は話しかけた。
「あなたはどこから来たの? もともとの持ち主は誰だったの?」
それから何日か経って。
大きな出来事が起きた。
なんと、元夫が仕事で不正をしていて、交易の際に密輸を主導していたというのだ。
そんなヤバい人だったとは……。それでやたら権力もあって、私の親に結婚したら得だと思わせたのね。
私はもう親の影響は受けないことにした。
権力のない悲しい貴族だけど、報告書や本の執筆という仕事はこなしてるし、時々社交の場にも出てる。
いいでしょこれで。
そして元夫はどんどんと不幸になっていった。
当たり前だけど、悪事がバレたので処分を下されて、少し前に悪事をした魔術師と同じ部屋で罪を償っているらしい。
妹が、元夫のせいで自分の評判も悪いと愚痴を私に言ってきたけど、妹だって浮気した側なので、もうそんなに信用してないのよね。
そんな妹よりも信用してない元夫から連絡が来た。
牢屋の中だから手紙でね。
で、面会をしたいらしい。
なんでだ……?
でも仕方ないからしてやるか。
乗り気ではないけど。
で、言ってみたら、元夫が言った。
「俺の同部屋の魔術師、ヤバい魔法を悪用してたんだ」
「えっ、それが私に言いたいことなの?」
「そう。だってさ、やたら縫い目のないぬいぐるみ持ってただろ。お前」
「持ってるけど…」
「その魔術師のヤバい魔法、人間とかの生き物をぬいぐるみに変える魔法らしいぞ」
「えっ」
「ああ、面会の終わりの時間だな。じゃあな」
「ちょっと待ってよ…」
これってまずくない?
私が話しかけてたぬいぐるみ、人な可能性ある?
で、人な可能性におどおどしながら数日過ごしたら、すごい知らせが来た。
なんと、魔術師の魔法を全部解除するというのだ。
てことは…ぬいぐるみが元に戻って…。
や、やめて!
と私が祈っても意味なくて、
ふと、ベッドのぬいぐるみを見たら煙にまとわれていた。
こ、これってもしかして…イケメンとか出てくるやつ?
あ、でもだとしたら普通に下着姿で話しかけたりもしてたのでしぬんですけど。
「にゃおー」
「え?」
「にゃおー」
「めっちゃイケメン…。イケメンの猫だ!」
そっか。人をぬいぐるみに変えたとは限らないもんね。人間とかの生き物をぬいぐるみに変えられる魔法なんだから。
結論としては、猫が猫のぬいぐるみに変えられてたってことだ。
そして私は気づいた。
猫は首輪をしている。
誰かに飼われていた猫なんだ。
私は、首輪をよく見ていた。
住所が書いてある。
こ、この宮殿の南の方だ!
面識のない、私なんかよりも格式高い貴族がいるところだ。
どうしましょう…。
で、とりあえず行ってみることにした。
猫を抱えてうろうろしていたら…。
「ああっ! し、信じられない!」
男の人が私のところに駆け寄ってきた。
「い、イケメン…」
今度こそ本当にイケメンの男の人だった。
いやでもだから何よ。元夫だって容姿は整ってたし。
「そうだろう? この猫、イケメンなんだよ。でもどうして君が抱えていたの?」
「あ、あの…実はぬいぐるみになっていましてこの猫…」
「そうだったのか…。この猫は、僕の愛猫なのに、元妻に勝手に捨てられたんだ。僕は居場所を探したけど全然見つからず…」
「捨てられた…そうか…!」
私は思い出した。拾ってくださいって書かれて落ちていたぬいぐるみ。魔法がかけられる前は、拾ってくださいって書かれた本物の猫だったんだ。
「本当にありがとう。戻ってきてくれてよかった」
「あの…」
「あ、もしかして元妻のことが気になるのかな? 元妻はね、今は罪を償っているよ。違法な薬を作っていたんだ。猫を捨てたのも、嗅覚が優れていて賢いから、バレそうで邪魔だったかららしいんだ」
「ひどい人ね…」
「本当にひどいよ。でも当時僕は親に言われて結婚してしまったんだ」
「わ、私と同じ…」
「君も親に言われてよくない人と結婚したのかい?」
「う、うん…」
「そっか。似てるね。君は…猫は好き?」
「大好きよ!」
「それなら、この子を一緒に飼わない…?」
「ぜひ! だってね、この子がぬいぐるみだった時に私は色々話を聞いてもらったのよ」
「ぬいぐるみに話しかけてたの? なんだか小さい女の子みたいで可愛いね」
「い、いいじゃないの!」
こうして私も猫の飼い主になった。
そして…私はこの猫好きの男性に恋に落ち、今は猫も含めて幸せな結婚生活を送っています。
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