13-7 目覚める鼓動
タクトはハッとした。点だけの存在だった色々な事象が頭の中で繋がり、一つの答えを示したのだ。
「……そうか、レイヤーはそれが聞きたかったんだ」
今度は迷いがない。自分がしたいこと、レイヤーがしたいことを悟ったタクトは、決意のこもった眼差しでノイゼルを見据えた。
「理解したか?」
まるで最初からすべてを知っていたかのようなセリフに内心ドキッとしつつも、タクトは意を決して告げた。
「はい。俺たちも…… いや、ノイゼルさん。俺たちと一緒に天楽へ行きませんか?」
予想外の提案に、アンクが反応した。
「お、おいおい! いきなり何言い出すんだ!?」
「そうだ、弟の言うとおりだ。何よりこの人は、その」
「組合から爪弾きにされる人格崩壊奏者で、信用のおけないクソジジイ、だろ」
一応言葉を選ぶべきと、いったん話に一呼吸入れようとしたトロワスに続けて、本人がズケズケと補足した。ワザと悪い言い方で。
「そ、そこまでは……」
「ガッハッハ! 方向性に間違いがないなら、程度の強さは問題じゃあない。だがよく考えろ、イズルエの息子」
笑顔だったノイゼルの顔はいつの間にか真顔に変わり、途端真っ黒なオーラが見えるほどの威圧感を放ち始めた。
「オレ様の目的はあくまで『歌』を取り戻すこと。音怪の君主が持つ楽機のことなんざ眼中にない。そこも含めてまるっと救うってなると、その難易度は計り知れない。それでも、」
しかしタクトは引かない。むしろ前のめりになってノイゼルに視線を送る。
「出来るかわからないことのためにオレ様について来い、と?」
「出来る出来ないじゃない、奏るか奏らないか、です」
「手がかりは?」
「それを探しに、遺跡へ向かってました。……最初は、この大陸から出ようと思ってただけでしたけど」
もともと、迷いなどない。そんな思いを込めたタクトの視線は、僅かにノイゼルの闇を払う。
「天楽に行き、全ての『神が愛した楽譜』を手に入れる。それを音怪の君主の前で演奏できれば、きっとレイヤーを助けられるはず」
「五十点だ」
ノイゼルは即答する。内容はほぼ彼の想像の範疇にあったようだ。
「え、それはどういう……」
聞こうと口を出した時、ノイゼルの視線は彼の足元へと向けられた。位置的にタクトの視界から外れたそこには、ノイゼルの楽機オーディオーレが彼の袖を引っ張っていた。
『目、覚めたみたい』
(目が覚めた?)
タクトの視線に気がついたのか、オーディオーレはそれだけいうと再びノイゼルの背後に隠れた。
「話が途中ですまんが、アレが起きたらしい。お前たちも来るか?」
だだっ広い防音室に無理やりねじ込まれた小さなベッドの上で、それは横たわっていた。使い古した金管楽器によく見られる緑サビのような色の長い髪が、重力に負けてベッドからずり落ちている。
(たてがみと同じ色……)
太陽が真南から西に向かい始めて随分立つ。あの朝の出来事からかなりの時間が経ったはずだ。だがそんな時間でも、人が気を失ってから目覚めるにはあまりに短すぎる。
遺跡から連れて帰った女性だ。
「悪いな。ろくな医療音楽も用意できないがここなら他の音はまず入らないし、ここから何処かに漏れることもない」
薄く目を開け、虚ろな眼差しを向けるベッドの女性にノイゼルは伝える。
女性は何かを伝えるべく口を動かすが、声にならない。掠れた空気が僅かに振動し、「ホルン」とだけ聞き取れた。
「それならあそこだ」
ノイゼルは視線と頭の動作で奥の机を指す。
目だけで女性をそれを追い、また微かな空気の振動。だが、次の瞬間に机の上のホルンは青白く輝き、形を変えて人の姿を取る。
『……古代楽機、ティオーナ。奏者の救出感謝する』
「いいってことよ。まあ、タダで助けたわけじゃあねえから、こっちの都合を色々聞いてもらうけどな」
楽機の放つ微かな振動を聞いてノイゼルは答える。
「……あの、これって」
トロワスが少し遠いところから一連の流れを見守っていたが、ついに口に出した。
「あの、妙な音怪だったやつ?」
「妙っちゅーか、こいつはあのコーディルスが率いる四体の音怪が一角、閃光のアニシアや」
「!!」
クラリネットの三人が、一斉に臨戦態勢に入る。
「ああ、心配すんな。もう人間に戻ってるからよ」
確かに、かつてタクトたちが出会ったあの二角獣の姿ではなく、まして何の音も奏でることもできないほどに衰弱している。
しかし、人間に戻っているとはどういうことか。
タクトはそんな疑問が浮かびつつも、ある『答え』を感じた。
「もしかして、音怪のせい?」
『そうかもしれませんし、そうでないとも言えます』
楽機ティオーナは続けた。
『私たちは、あくまで自らの意思で君主に仕えていました。それも、獣の姿になる、ずっと以前から』
「『引っ張られ』だな。コーディルスの音怪を生み出す音律を近くで聞くうちにそっちに調律が持っていかれたんだ」
通常の合奏でもある。他のパートのメロディを聞き合わせるうちにそちらへ自分の音が引っ張られる現象だ。
「っていうか、音怪じゃないのにコーディルスといっしょに居たって事?」
『いいえ、むしろ私たちは、……彼を救いたかった』
タクトは戦慄した。
彼女が人間だったことが、ではない。もしかしたら《《自分も失敗すればこうなるかもしれない》》と感じてしまったからだ。
「あの、よかったらなんだけど、私たちにも分かるように話してくれない?」
そこにシェリドが割って入る。
「確かに。俺たち側が一方的に話ふっかけてるだけじゃん」
アンクも乗っかる。
「え、だってちゃんと楽機も……」
そこで反論しかけたタクトはハッとした。あまりにノイゼルの行動が自然だったために気づくのが遅れたのだ。
「もしかして、あの楽機の声が聞こえてない、とか?」
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