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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第2楽章 三人が奏でる二重奏
9/9

2-2 騒音の少女

 レイヤーとタクトが個室で音合わせの練習をしている頃、物資の運搬が主な仕事の定期便がコダの街に到着した。街の特産品である楽器の受け取りと食料や生活用品の交換のために月に一度、街を訪れるのだ。今月もそこそこ大きな馬車が数台、首都から大荷物でやってくる。もちろん護衛付きだ。


「よし、到着と」


 先頭の馬車の御者席に座っていた少女が勢いよく飛び上がる。軽やかに着地したその耳には、あのイヤリングが踊っていた。


「団長! 着きましたよ~」


 踵を返し、後ろの馬車へ走っていく。既に何台かは到着が完了し、荷物の確認を始めているが、主に人が乗る最後尾の車両はまだ到着していないようだった。


「あれぇ、まだだったかしら」


 少女はぐっと足に力を込めた一瞬の硬直の後、ものすごい速度で来た道を戻る。


「見つけた!」


 既に街からそこそこの距離を走り、山道まで戻ってきた少女はノロノロとこちらに向かっている馬車を見つけ、横を並走し始めた。コンコンとドアを叩いて横にいることを中にいる人へと伝えると、ノックに気が付いた乗客が驚いた顔で窓を開けて少女に声をかけた。


「おい、カノン何やってんだ? 先頭の馬車に乗ってたんじゃないのか?」

「もう先頭は街に着いたよ! どうしたの団長、この馬車だけ妙に遅いけど」

「ああ、御者が言うには馬が山道でバテちまったみたいなんだ。すまないが、休んでいる馬がいるなら何匹かこっち寄越して欲しいって言ってきてくれ。この馬車が最後なんだったら俺たちの事は構わねぇから、お前は組合に行って定期便の到着を報告してくれ。あとは出発まで自由にしていいぞ」

「わかった! 言ってくる!」


 カノンと呼ばれた少女は、こちらへ来た時と同じ速さで再び街を目指す。団長の言いつけ通り、既に休んでいる馬を最後の馬車へ向かわせた後、到着の報告をするために組合へと向かった。


「ただいま!」


 カノンは大声で勢いよく組合の建屋に入る。


「おかえり、カノン」


 フラップおばさんが笑顔で出迎える。


「ただいま、お母さん! あ、っと定期便到着の報告!」


 家族としての挨拶をいったん中止し、カノンは楽士団としての役目をまず全うすべく報告の姿勢に体を正す。直立し、左手を体の後ろに整え、右手を軽く握って胸の上に置く。


「コダ楽士団三級楽士カノン、定期便護衛任務完了報告に参りました!」

「はい、了解。団長は?」

「馬車の馬が不調のため少し遅れます!」

「あらあら。首都むこうの馬は貧弱ねぇ。わかったわ。カノンが報告っていうことは、いったんこれで任務遂行報告ってことね。お疲れ様」


 カノンは報告が終わってホッとしたのか、体の力が一気に抜ける。大きく息を吐くと奥に座っている存在に気が付いた。


「あ、もしかしてティファじゃない?」

『お久しぶり、カノン』

「やっぱりティファじゃん! もう劇場はいいの?」

『あ、ああ、ダルンカートね…… うん、もう必要なくなっちゃって』


 ティファはカノンに視線を合わせない。と、そこでちょうど練習が終わったタクトとレイヤーが奥から出てきた。


「あれ、ティファ?」

「あ! タクト! ただいまー! ……って、そちらの人は?」

「これはこれはリトルレディ。私、サレインノーツ楽士団団長のレイヤーと申します」


 レイヤーはカノンに丁寧なお辞儀をしながら自己紹介をする。


「まだ二人だけどね」


 レイヤーの『団長』発言にタクトが突っ込みを入れる。それを聞いたカノンは少々意味が分からず、視線が二人の顔を行ったり来たりを何度か繰り返した。


「どうかした?」

「え、っと。二人は知り合いなの?」

「ええ。彼は私のメンバーですし」

「メンバー? って、もしかして楽士団としての?」

「そうそう。俺、楽士登録したんだ!」


 タクトは耳に付けたイヤリングをカノンに見せる。カノンはまだ信じられない様子で二人につっかかる。


「でも、タクトはまだ十五歳になってない、まだ楽士にはなれないはずでしょう!?」

「副楽士としてレイヤーの楽士団に入れてもらったんだ。パイプオルガンの件で組合の本部に行かないといけなくなってね」

「なにそれ、なにそれ! ずるくない? 聞いてない! パイプオルガンって、あのダルンカートのやつだよね? なにがあったわけ!?」


 タクトは、幼馴染の彼女がここまで突っかかるのは非常に珍しいと思いながらも、一度熱くなると自分の要求が満たされるまで絶対に引きさがらないのを思い出し、仕方なく本部に報告する練習を兼ねて彼女に事の次第を説明し始めた。


「嘘、 じゃあ、劇場ダルンカートは?」

「半壊…… とはいきませんが、地下の大ホールはもう使い物になりません」

「でも、なんでティファの奏者マスターがあんたなの?」

「そりゃ、俺がトロンボーンを扱えるからだと思うけど」

「というか、カノンさんはティファさんが楽機だというのをご存じだったんですね?」

「え、そりゃそうだけど…… あ、まさかタクト、あんた知らなかったとか?」


 ようやく自分だけが知りえる情報が出てきたので、ここぞとばかりカノンはタクトにマウントをかける。


 だがその時、組合の建屋の壁がものすごい風により激しい悲鳴を上げた。


「この音…… 変ですね。ただの風にしては」

「ええ、自然の風にしては整いすぎている(・・・・・・・)

「え、どうしたの二人とも」


カノンとレイヤーは、異変を察知して外へと出ていった。

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