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13-1 示した決意

 翌日。

 あと一時間もたたないうちに、組合が所有する練習用の小ホールを使っての会議が行われる。

 出席者はロキマ含む組合の一部の幹部が数名、ヴェルホーン楽士団の団長であるタギングと副楽士団長、メルハンディー楽士団団長のリコードと昨日は式に参加していなかった副楽士団長、そしてフィンテール楽士団の団長ケイスが既に小ホールにて待機していた。


「二十年前を思い出すな」


 ケイスが誰とはなしに呟く。

 もちろん、前回の戦争のことを言っているのだろう。いろんなことが当時と同じなのに、いろんなところが当時と違う。


 まずは相手が同じであること。

 次に、演奏する(たたかう)同士の顔ぶれが同じであること。

 また、違うところは……


演奏でき(たたかえ)るんですか? タギングさん」


 リコードはタギングへ質問を飛ばす。


「ん? そりゃ演るさ」


 飄々と答える。だが、言葉は軽い。


「今回は、前回に比べて違うことが多すぎる。例えば……」

「『歌い手』がいない」


 リコードの例えを遮るように、その答えをタギング自身が口にする。


「過去の戦歴から見るに、前回明らかに違ったのは『歌い手』の存在だ。歴史上、歌い手が戦争に参加したのは前の戦争が初めてだ。だからこそ、今回レイヤーのような奇跡が起こった可能性はある」


 全員が口を紡ぐ。


 その名は、あえて誰も口にしなかった名前。


「随分はっきり言うんだな」


 ケイスも会話に参加する。他の組合幹部たちはダンマリを決め込んでいるようだ。


「そして、調査の末にその歌い手を失ってしまうと」

「まだそう決まったわけじゃない」


 タギングは静かにケイスに反論する。

 だが、その言葉を絞りだすのに僅かな間があったことは、その場にいる誰もが感じた。

 タギング自身ですら。

 そんな不毛な会話が続いて開始まであと数刻と言うところで、低いノックの音が扉から響いた。


「すいません、失礼します」

「あれ、君は」


 入ってきたのは、セントラルホテルの接客担当主任だ。もともと組合の受付責任者だったのでここにいるほとんどが知っている。


「はい、お久しぶりです。と言いますか、こちらの皆様当てにお手紙をお預かりしておりまして」

「手紙?」

「だれから?」

「なんのために?」


 各楽士団長がそれぞれ疑問を口にする。


「私が読むよ」


 たまたま近くにいたロキマが手紙を預かり、差出人を見るが、表には何も書かれていない。というより、ホテルに備え付けてあった便箋をそのまま折り込んで手紙にしたようだ。

 ロキマは折り込みを解くと、中から三人分のイヤリングが転がり落ちてきた。

 それを手に、彼女は便箋を開いて中身を読み始めた。




『組合の皆様へ。


 我らサレインノーツ楽士団一同は、友を助けるために楽士隊組織連合がくしたいそしきれんごうより退隊し、それぞれが望む道へ行くことをお伝えします。



 タクト・スタッドカート

 カノン・パンディール

 ネンディ・エードゥ


 以上』




「……タギング、息子には何も言ってないのかい?」


 手紙を挟んでロキマは父親を糾弾する。タギングは間に手紙があるというのに目の前で言われているかのようなすさまじい圧を感じた。


「そりゃあ、ここで説明すると思ってたから……」


 一瞬弱腰になるタギングに、一同は事の重大さをようやく理解した。


「ぷっ!」


 しかしそんな空気を、ケイスが吹き出す笑い声が文字通り吹き飛ばした。


「ま、まさかここまで二十年前と同じとはな! タギング! ははははは!」

「……あの馬鹿野郎が」

「親父そっくりだ。まんまだ! さすがは親子だな。ははははは!」

「よしな、ケイス。タギングもあの時はそう行動するほかなかった。誰も信用できず、自分の力だけが頼れるところだった。今のタクトもそうさ。戦争という大きな目的に私らが舵を切ったことへの、事の大きさと責任を自分たちだけで方向転換できないことに焦りといら立ちを募らせてる。少なくとも」


 ロキマは手紙の文章をみんなに見えるように持ち替え、真ん中あたりを指さす。


「あの子たちは、間違いなくまっすぐ『友を助ける』と言っている。自分たちの力が友を助けられると確信している。私らでは力が足りないと思っている。いや、逆に強すぎて戦争の目的ごと友を殺されるのかもしれないと危惧している」


 手にしたイヤリング…… タクトたちの楽士章を掲げ、ロキマは続けた。


「これらはあの子たちの決意の表れさ。組合わたしたちに迷惑をかけないため。あるいは私たちからの明確な拒絶か、それとも?」


 それらをぐっと握りしめると、今度は柔らかな眼差しをタギングに送る。


「親として、大人として、私らがしてやれることは何だろうね」


 ロキマは視線を外すことなく移動し、目の前の男にイヤリングの束を持たせる。


「それはきっと、今回の戦争…… いや、今後のこの世界の未来を左右することになるんじゃあないかね」


 タギングは渡されたイヤリングを強く握ると、険しい顔で一同へ視線を巡らせた。


「方向性は変わらない。主役たちがちょっとばかし先に行っただけだ。少しの間、皆の力を貸してくれるか!?」


 タギングの一喝が小ホールに響く。今度は会場に居る全員が間を置かずにあらん限りの声で返事を返した。その響きはホールを超えて外まで響くほどに。


「……そういえば、あの()()はまだ来てないなぁ」

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