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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第12楽章 連なる音の行方
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12-6 暗躍の末

 リコードの楽機、プレシアが光の帯に変わりマスターピースを経てトランペットの姿へと成り変わる。

 そこから、さらに奏者に変化が現れる。薄布のような輝きがふわりとリコードを包み込みと、自然とそれが人の形…… プレシアへと変化し、背後からリコードを抱きかかえるような姿勢で静止した。


(あれが…… 他人の全霊開始オーバードライブ


 タクトも一瞬、自身も全霊開始オーバードライブをするべきか迷ったが、今はリコードの動きを観察することにした。トーベンに『強敵が現れたからと言ってむやみにティファを全霊開始オーバードライブするな』と釘を刺されているからだ。


 事実、楽機化マテリアライズ全霊開始オーバードライブの直後、上半身はガタガタでまともに楽器が構えられず、下半身も普通に歩くだけで息が上がるほど体力を消耗した。

 練習量が足りないのではなく、単純に若すぎて体が出来上がっていないからだ、と教えられた。奏者のピークは二十代中ごろらしい。そう考えるとタクトはまだ二十歳にもなっていない。


 リコードはもうすぐ三十歳。奏者としては最高の仕上がりだ。

 他人の全霊開始オーバードライブを初めて見るタクトは、その音を聴かんと耳を向ける。

 しかしその直前。


「止さぬか! バカ者共!」


 唐突に凄まじい叫び声が真横から舞い上がる。直後に発生した衝撃波が双方を隔てるように横切り、空間ごと両方の演奏が断たれた。

 相手クラリネットたちへと放たれていたタクトたちの音は自分たちへ跳ね返り、自然とその相手の音も聞こえなくなった。

 叫び声の主は、手にしていたであろう小さく細い棒をしまうと、クラリネットの三人に向かって怒号を浴びせる。


「やけに遅いからと様子を見に来て正解だったわ、一体何をしておる、アンク!」


 アンク、と呼ばれたであろうE♭(エス)クラリネットの青年が飛び上がって答えた。


「も、申し訳ありません! レイヤーさんのことを聞いてから、どうしても彼らを試したく……」

「兄は悪くありません! 言い出したのは私です!」


 中央でクラリネットを演奏していた女性がアンクという青年をかばう。


「約束が違うのではないか、シェリド?」


 割って入ってきた青年はクラリネットの女性、シェリドにも突っかかる。そして三人目、バスクラリネットを持つ男性に向かって叫んだ。


「この責はどうするつもりだ、トロアス!」


 それを聞いたバスクラリネット奏者トロアスは片膝をついてかしこまった。


「陛下の望みのままに、罰を受けましょう」


 それを聞いた背後の二人も、同じ姿勢を取る。

 乱入してきた青年は一瞬怒りをあらわにしたが、軽く頭をかくと何かを諦めた表情になった。


「計算づくか…… 愚か者めらが」

「その声、もしかして」


 ようやく断たれた空間が戻り、タクトたちにも会話の一端が聞こえてきた。そして、その乱入者の声に一番に反応したのは、ビオナだった。


「ゼフォン皇帝陛下!?」


 乱入者は、口の端をあげてニヤリと笑う。


「久しいな、そなたら。余が直々に迎えに来たぞ」


 ようやく姿を見せた帝国の主は、仰々しい式典装飾のままに笑顔を披露してみせた。




 事情を考えれば、ゼフォンがタカンドゥ大陸を訪れていることは当然の話だ。

 そもそも今回の訪問は帝国に姿を見せたコーディルスとの再戦を全世界へと宣言するものだ。


「まあ、だからといってこんないち楽士団を呼びに来ていい立場の人ではないことは確かよね」


 珍しくカノンが呟く。


「そなたたちがあの遺跡に呼び出される事をその三名に伝えたのは余なのだ。なにせその者たちは……」


 ゼフォンはタクトを一瞬見つめる。そして、バツが悪そうな顔をしながら続けた。


「レイヤー殿ゆかりの者たちでな」

「レイヤーの!?」


 タクトは意外な事実に驚きを隠せなかった。


「レイヤーさんの話は聞いた。あの人がまさかコーディルスに吸収され(まけ)るなんて」


 アンクは苦々しく顔をしかませながら話す。


「それもこれも、お前たちがしっかり団長を守らないからこうなった!」

「いい加減にせよ、アンク! これ以上事を荒立てるなら、『遠征』の話はナシにしても良いのだぞ!」


 ゼフォンがたしなめ、アンクも口をつむぐ。


「遠征?」


 リコードが眼の前を歩くゼフォンに問いかける。


「なに、宣言後にまた集会を開くらしいのでな、そなたらにも顔を出してもらわねばならぬ話ゆえ、そのときに正式に伝える」


 そんな話をしていると、一行は森を抜けて広い草原に出た。長い時間をかけて作られたのであろう、うっすらと人が歩いた荒れ道の先には、左右に長大な建造物…… 壁が延々と続いていた。


「リコード、もしかしてあの壁」

「ええ、あそこが天奏楽士結成の聖地、サウンザードですよ」


 ここからでもわかるほどの高い壁、そして視界いっぱいに広がる幅は、帝国の城どころか、メルディナーレがすっぽり入って余るほどの大きさだった。

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