11-6 光の旋律
一連の騒ぎもあったが、タクトたちはまず自分たちの目的を果たすところから始めた。
サークライト遺跡での、天楽関連の調査である。
エタンギルの介入・退治は副産物ではあるが、大きな成果の一つでもある。とはいえ、今は天楽に関する情報を探すことが第一目的だ。
よく周囲を観察すると、ロスカリンガ遺跡にあったような石室がいくつかあったが、そのどれもが風化に耐え切れずに瓦礫の山となっている。恐らくは先日の演奏が原因とも思われるが、天井の崩落が時間の経過を囁いているため、それだけが原因でもなさそうだ。
『こんな寂れた遺跡に何があるというのだ』
パラヴァリカはいまだビオナと行動を共にしている。というより、ビオナの事を多少なりと気に入ったらしい。
「ああ、そういえばパラヴァリカさんは天楽のこと、何かご存知ではありませんかぁ?」
リコードがいつもよりさらに間延びした話し方で質問する。
『知らぬ』
帰ってきたのは気のない答え。
『というより、天楽とはなんだ?』
「レーゼンツ大陸、その大陸にある都市フェルトマ。我々はそこへ生きたいんです」
『人が行くところではないな』
そこで全員の手が止まる。
「知ってるッスか!?」
「どうすればいいんですか!?」
「詳しく! 詳しく!」
『詳しくは知らぬ! ただ、こちらにはもうない!』
パラヴァリカは大声で全員の怒涛の質問を制する。だが、リコードは一瞬怯んだもののさらに掘り下げる。
「『こちら』というと? どこかにはまだあるということですか!?」
『そうだ。フェルトマとそこに住む人々はここから去ったという話は私も聞いたことがある。しかしどこへ行ったかは知るところではない』
「でも、あなたがここにいることと、何か関係があるのでは?」
『私はあまり込み入った話は好まぬ。ただこの遺跡を守護せよと仰せつかったにすぎぬ』
「それは誰からッスか?」
『もうかなり旧い話だ』
そこから話は途切れ、一行は遺跡の調査に戻った。
しかしそこからは一切情報らしきものはなく、ただ先ほどの演奏の爪痕がまざまざと残されたことだけが見て取れた。
(ふう。なにもない、か)
タクトは開けたステージの上で空を見上げていた。すり鉢状の底にあたるステージから大空を仰ぐと、扇状になった観客席の全ての視点がこのステージに集まっているのが分かる。
『どうしたの、タクト』
ティファが声をかける。
再び得たその身体を奏者に見せびらかすように。
それを見たタクトは、ふと昔の姿と重ねながらティファを見る。
「なんか、変わった? 細くなったというか、ちょっと小さくなったというか」
タクトの言うとおり、ティファは最初に会った時と比べて容姿に変化があった。
『タクトの演奏しやすい管になったのかも。まだまだ発展途上だから』
そういってティファは胸を反らす。タクトは思わず『そうは思わないけどな』といいそうになるが、カノンに追求される発言は慎むべきと口を閉ざす。聞かれてるとかそういう問題ではないのだが、気を使えるようになったな、と自画自賛した。
「でも、ダルンカートにいたときよりもスマートのなった気がする……」
その時だった。
突如楽機を持つ奏者の目の前に、光の譜面が出現した。
「な、なにこれ!?」
カノンが悲鳴を上げる。
「よくある和音の練習曲の一節、にも見えますけどねぇ」
リコードは冷静に譜面を眺める。近くのカノンの楽譜と見比べながら、さながら練習風景を切り取ったような落ち着きである。
「リズムを叩くだけの楽譜ッスね」
ビオナはリコードの言葉で冷静になったのか、上ずりながらだが自身に映し出された譜面を読む。
「ふむ、特段難しい楽譜ではないですし、他に大きな収穫もないとなると」
リコードは楽器を構える。カノンもそれに倣ってチューバを膝に乗せる。
「……ウチはとりあえず見とくわ」
自身には譜面があらわれなかったネンディは、邪魔にならないようにカバンを抱きしめながら離れる。
「じゃあ、まず軽く通して見ましょう」
カノンが基準音を鳴らし、音を合わせる。全体が整ったところでリコードが楽器を振り上げ、演奏の開始を示す。
トランペット、トロンボーン、チューバ、スネアドラムの演奏が始まった。
スネアドラムの軽い連符を皮切りに、トロンボーン、チューバがベースラインを担当。
トランペットが入ると同時に、トロンボーンが副旋律へと切り替わる。少し変化のある曲調に、タクトは若干息継ぎが間に合わなかったが、大きな遅れにはならなかった。
僅か三十秒にも満たない短かな曲だったが、とても深みのある曲だった。
「さて。何かが起こってくれると面白いんですけどねぇ」
リコードが呟いたその時。
「な、なに? 今度はなに!?」
タクトたちが立っていた劇場の舞台を強い光が包み込み始めた。
「なんや? 何が起こっとるんや!?」
カノンたちが叫んだのも束の間。あふれだした光の柱は徐々にその太さを細め、徐々に部隊の中心へとすぼまり始めた。
細くなるにつれて光はさらにその強さを増し、空へとその軌跡を伸ばす。
そして、ほんの一筋の光になるころ。
劇場には、立ってるものは誰もいなかった。
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