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9-4 想いの送り先

「あなたたちにその覚悟がないのなら、せめて邪魔おんかいにならないように楽器を置いてくれると助かるよ」

「……ロキマ「ロキマ様。少々言葉が」


 厳しい口調にタギングが諭そうと口をはさんだ瞬間、リコードが釘をさす。


「悪かったよ。昔を思い出してね」


 ロキマはそう言うと席に着き、再びマーサに言葉を紡いだ。


「あなたが後悔しない方を選びなさいな。大切な人と離れるのが嫌なのか、大切な何かのために楽器を取るのか。それを知る時間を、リコードと共に過ごしたはずだろう?」

「……ええ。そうですわね」


 マーサは弱々しく答える。自分は早々にあの場を去った。守るべき役割から逃げてしまった。先程の意見はその埋め合わせの言葉でもあった。しかしそれを見透かされたような気さえした自分が情けなく感じ、ただ机を眺めるしかなかった。

 そこで部屋が数秒、静寂に包まれる。


「……休憩しましょう。飲み物でも入れてきます」


 リコードが席を立つ。それにつられてタギングとタクトが席を立ち、ケイスは顔を手のひらで覆う。

 リコードが部屋を出るのと同時に、タクトは父親の席へと向かい、タギングもまたタクトの席へと向かう。自然と中間地点で対峙した二人は、お互いを強く見つめあった。その背はまだ頭一つ分、タギングの方が高い。


「……父さん」

「でかくなったな」

「つい最近十五歳になった」

「そうか! なら正楽士だな」

楽器トロンボーンもうまくなったよ」

「ティファとレイヤーの指導の賜物だな。いや、血筋か?」


 タギングは、少し腰をかがめてタクトの頭を撫でる。


「でも…… ティファも、レイヤーも……」


 既に、タクトの感情はピークを超えていた。目からは溢れんばかりの思いの粒が、瞼の境界を超えそうになっていた。


「ああ。よく頑張った」


 タギングは、息子の頭を胸に引き寄せる。


「うっ…… あああっ! あああああああーーーーーーー!!」


 部屋一杯にタクトの声が響く。だが、誰もそれを咎めない。

 ひとしきり泣いたあと、タクトは顔をあげて父親に訪ねた。


「……母さんは?」


 タギングは少し黙り、もう一度目線を合わせて話した。


「今は、ちょっと別行動だ。お互い生きてるのはわかる。だが、受けた任務が途中で変わった。それだけだ」


 笑顔で語る父親の様子を是と感じたのか、タクトは泣くのを止め、再び父の胸に顔を埋めた。


「そうだタクト、ステ…… ティファのマスターピース、持ってるか?」


「え? ……うん、これ」


 タクトは懐からマスターピースを出してタギングに渡すと、彼はそれをじっくりと見てみた。それは器状の部分から裂け目が入り、細い先端に向かって割れている。亀裂が入ったというよりは、中からの圧力に負けて破裂したようにも見える。タクトもじっくり見るのは、これが初めてだった。


「……これは、ハデに割れたもんだな」


 試しに口にあて、音が出るか試してみるも、スースーと空気が漏れる音がするだけでまともに音はならなかった。だが、何故かタギングはその行為をやめようとしなかった。何度も何度も息を吹き込んでは、音が出ないことを確かめた。

 タクトは、そんな父親の奇行をただ見ているしかできなかった。

 何度目かの吹き込みを止めて、マスターピースをタクトに返し、タギングは笑った。


「大丈夫だ。何も心配いらない」


 それだけ言うと、タギングはがしがしと無造作に息子の頭を撫でまわした。

 ほぼ直後、リコードが職員を連れてお茶と茶菓子を持ってきたので一同はしばし喉を潤す時間を楽しんだ。





 お茶の器が回収され、会議室は再び重い沈黙で満たされる。


「さて。では今日の本題に」


 最初に沈黙を制したのはリコードだ。


「現状、問題となっているのは君主コーディルスの状況。撃退はできたようですが今後の動きを把握できなければ、またソラルのようになります」

「以前のように待ち受けるか、あるいはこちらから打って出るか。十五年前あのときと同じようにとはいかんだろうな」


 タギングは昔を思い出しつつ意見を述べる。つい先日も演奏たたかいに参加したばかりである男の意見が、全員に重圧としてのしかかる。


「現在既に怪音律四重奏カルテリオスの四体全員が確認されている。イズルエがいない今、天奏楽士団本隊はメルディナーレで待機するのが効率がいいかもしれん」


(母さん?)


 タクトは不意に母親の名前(イズルエ)が挙がったことに困惑した。


「『巫女』は不在のまま……、か。その後、彼女の行方は?」


 ロキマは静かに質問する。


「いや、まだ」

「ねえ、父さん。母さんは今どこに?」


 タクトは再び母の行方を尋ねた。

 もう今から数えて七年前。タクトの父タギングは彼の妻イズルエを連れてコダの街を出た。

 しかし、今目の前には父しかいない。

 母親は?


 先程のロキマの話などから察するに、何処かにはいるのだろう。しかし、タクトには話が見えてこない。なぜ父は、母がいないことを平然と受け入れているのか。なぜ母は父と家を出たのか。

 それらの想いがこもったのか、タギングはしばし沈黙の後に、その口を開いた。


「提案がある」


 それだけ言うと、また沈黙。しかし、今度はそう時間はかからなかった。

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