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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第7楽章 器の中に潜むもの
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7-3 いったん置いといて

「……まあ、昔話はいいだろう。問題は、君が発見されたのを境に、世界のあちこちで大型の音怪による被害が急増したことだ」


 ケイスはなおも説明を続けた。被害の報告が組合に連絡が入り、楽士が現場へ行くもそこにはもう音怪がいないなんてことはザラで、酷いときには小さな集落が地図から消えていた、ということもあったらしい。


「だが、組合は依然として旧体制を維持しようとする。私はたまらず、この国の噂を聞いて門を叩いた。もはや組合に頼っているだけでは人は助けられない。世界に何が起こっているのか、人類は知る必要がある」


 ゼフォンがニヤリと微笑む。意義は我らにありとでもいいたげである、


「力持つ楽士が、我が帝国に何人いてもよいのだ。もちろん、組合に所属しながらこちらに関わる形でもよい。その場合は我らが組合に出張するという体裁を整える準備もある。ケイス団長のようにな」

「なるほど、天奏楽士の極秘任務という形で帝国に属しているわけですね」

「……あ、じゃあ父さんもそういうことで、もしかしたら」

「いや、タギングとは今は別行動だ。あいつは、今何しているかは知らんぞ」


 父に会えるかも、というタクトの希望は瞬時に打ち砕かれた。


「さて、先に報酬の話をしようか」


 ゼフォンは、自分の後ろにある別の封筒を取りだし、中身を少しだけレイヤーたちに見せた。


「ちょい待って、あれってまさか」

「第二楽章、『世界』の楽譜スコアだ」

「失われし第二楽章!?」


 これにはカノンも驚いた。長く第二楽章は楽士たちの間でも行方不明の噂があとをたたなかった楽譜なのだ。


「ギブアンドテイク。汝らは世界を守り、楽譜を手に入れる。わが帝国の近衛楽士団に入るというより、通常ある組合の仕事の延長だと思ってくれればよいのだ」

「……それでも、内容によります。私の団員を力量に見合わない任務に向かわせたくはありませんから」


 一瞬楽譜に心を奪われたレイヤーだが、さすがに命がかかるとなるとブレーキがかかるようだ。……視線のブレーキはかからなかったようだが。


「無論。組合からの出向ともなれば目的がないと話にならない。そのため、汝らに課す任務は二つ。ひとつは『天楽(てんがく)』の調査だ」

「てんがく? コーディルスはええんか?」

音怪の君主(最終ボス)に関わる任務を、天奏楽士以外が担当したとなれば国際問題だ。例え私が許しても組合が許さない」


 ケイスは少し焦ったように付け加えた。


「実際問題、今我らが直面しているのはコーディルスに対抗する楽器へいき不足だ。これを解決するためには、多くの奏者と楽器が、楽機ミュージリアが必要なのだ。いわく、この世界のどこかにあるという『天楽』という場所には、楽機だけが住んでいるという。なんとか我らの力になってもらいたい」


 なるほど確かに自分達がそのまま近衛楽士団に入るよりは安全で、また確実に力になれる。


「ですが、天楽はかなり眉唾な情報ですよ? 組合も()()()()()()でくる捜索依頼がまれに出されるくらいの信憑性しかないですし」

「それを、このグランヴェル帝国の情報網と合わせて探してきてもらいたいのだ」


「……少し、考えさせていただいても?」

「もちろん。今後の汝らの活動に関わることだ。即断は希望だが、最優先は共に演奏することだ。じっくり決めてくれて構わない」


 レイヤーはほっとして肩の力が抜けたのをタクトは見逃さなかった。あのレイヤーが緊張するほどの話なのだと、今更ながら感じた。


 そのあとも色々話をしたが、基本的にはケイス団長とレイヤーの昔話や近衛楽士団の通常任務の話が中心だった。正直タクトは後半眠くてほとんど聞いていなかったが、日が落ち始めた辺りで会議は一旦持ち越しとなった。




 その日の夜。

 あれだけ昼間眠かったタクトは、なぜか今になって妙に目が冴えていた。

 また増えた、レイヤーの過去の話。

 未開の場所、天楽。

 今後の世界。コーディルスの存在。

 自分が生まれそだったコダの街は、なんと小さな世界だったのだろうか。

 ふと、窓から差す月明かりに足を止め、その鮮明な金色の光にある種の既視感を覚えた。


(もしかして、天楽、って)


「おや? 夜更かしですか?」


 静かな廊下に突然響いた声に驚いたタクトは、その方向へ振り向く。そこにはいつも通りのレイヤーが、飲み物入りのグラスを持って立っていた。


「実は私もなんですよ。懐かしい人に再開して、ついつい熱く話してしまって。眠りにつきやすい飲み物をいただいてきたんです」


 月明かりに照らされたレイヤーの顔は、どことなく神秘的に見えた。窓の明かりが雲に遮られ薄くなるにつれて廊下にある燭台の揺らめきが強くなると、その明暗がさらにくっきりと際立つ。


「なんで父さんのこと、教えてくれなかったんだよ?」

「聞かれませんでしたから。それに聞かれても誤魔化すように、と」


 ふふ、と笑うレイヤーを見て、タクトは「ああ、いつものレイヤーだな」と昼間の緊張からようやく解放された気がした。

 安心したのか眠気がやってきたと思った時、静かだった廊下に大勢の人数が走ってくる音に気が付いた。それは徐々にこちらへやってくる。


「なんだ、どうしたんだろう」


 不思議に思った瞬間、タクトの鼻は覚えのある「臭い」を感じ取った。


「外だ! 気を付けろ!」


 誰かの怒声が聞こえた。


「……行ってみましょう!」

「わかった!」


 タクトも二つ返事でレイヤーと共に外へと向かった。

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