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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第3楽章 失われた楽譜の行方は
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3-3 資料館にて

「……やはり、ここに所蔵されているのはこれだけなのですねぇ」


 レイヤーは山と積まれた楽譜の棚に指を這わせるという動作を、何度も何度も繰り返していた。

 大陸最大の資料館ですら、全ての『神が愛した旋律サレインズ・フルスコア』が所蔵されているわけでは無い。


 もちろん簡単に閲覧できるわけでは無く、一定の資格と許可が必要である。

 レイヤーはただ楽譜スコアを見るためだけなら最も近道とされた一級楽士の称号と取り、そして楽譜の閲覧許可申請を出した。


「まさか許可が下りるのにひと月近くかかると言われた時は耳を疑ったものですが、その時間の使い道で他の楽譜スコアと優秀なメンバーを発見したわけですし」


 寄り道も必要になることもありますよね、と言いながら、それなりに厚みのある紙束を二つ持って近場の写版机についた。ただ長いだけの机だが、書き写すために自由に使える紙が置いてあるのだ。それもご丁寧に五線が書かれているものと書かれていないものがそれぞれあり、筆記具もセットだ。


「さて。それでは…」


 レイヤーは早速「序章」と書かれた一つ目の束を開く。捲られた先のページには「これは、一つ目の音(チューリン)つむぎし、神へ捧げし楽曲。後に続くものに伝えるは、更なる音楽の高み。ゆめゆめ忘るるなかれ」と書かれていた。


「仰々しいですね…… まあ、彼らは彼らで音怪の君主(コーディルス)にある意味敗北していますし、思いとしては分かりますけど」


 レイヤーはさらにページを進める。先ほどの注意文のような文章が数ページ続いた後、ようやく楽譜が現れる。だが、その先は当時の書式を忠実に書き記したものであり、現代の楽譜記載方式とかなり異なるスタイルで書かれていた。


「これは…… ちょっとばかり書き写すにしても時間がかかりそうですね」


 浅く座っていた椅子にしっかりと腰を据え、ペンを構えてレイヤーは机に向かう。


 ふと、背後の机に誰か座った感触を感じると、イヤリングから声が聞こえて来た。


『久しぶりだな、レイヤー』

「!?」

『おっと、資料館の中だ。静かにしろ』


 声の主は背後に座った男のようだ。


あなた(・・・)ですか。まだ任務中と伺いましたが?)

『ああ。ちょいと休みをもらってな。顔を見に行こうと思ったらもう用事が済んじまった』

(声くらい、かけてもよかったんじゃあないですか?)

『馬鹿言え、任務に戻れなくなるだろう』


 囁き声ながらも、その男が本心で言っていることが伝わるほどの思いをレイヤーは感じ取った。


(それはそれは。やはりまだ続くのですか、その任務)

『ああ、状況が膠着状態でな。さすがに相手にしている存在が存在だ。俺たちでなければ今頃歴史の陰で雑音に変わってる頃だぞ』


 くっくっと声を殺して笑っているのをレイヤーは感じた。レイヤーの知る彼ならではの冗談なのだろうが、レイヤーにとっては笑えた話題ではなかった。


(色々苦労をかけます。あ、そうそう。ありましたよ楽譜スコア。ここの二つと合わせてようやく三つ揃いそうです。『確かな』情報感謝します)


 確かな、のところに少しアクセントを強めにレイヤーは伝える。その意味に男は気づいたが、構わず話を続けた。


『ああ、よかったな。それと、ここに収められている第一楽章と第三楽章は見つけ…… 今お前が持ってるな。だとすると残り、現状の最終楽章にあたる〝第七楽章〟は使われて間もないこともあって、組合本部で編曲作業中だ。そのうちここに入るだろう』


(他の楽譜はどこにあるか、ご存知ですか?)


『知ってるのは、帝国が少なくとも一つは持ってること。もしかしたらもう一つあるかもしれないが、不確かな情報だ。残る一つは全くの情報なし、行方不明だ。最も、その一つはあっても意味はない。俺たちではそれを演奏することはできないだろうからな』


(帝国ですか…… ツテはない、ですよね)


 楽士隊組織連合は、それぞれの国とは別組織として運営されている。一応各国に所属している形式をとっているが、無条件に情報などを提供しているわけでは無い。まして、他国ともなれば繋がりは薄くなる。


『お前が正体を明かす、ってんなら逆に喉から手が出るほど欲しがられるぜ。まあ、その後のことを考えると良案とは言えないかもな』

(やめてください。他の楽譜スコアが探せなくなってしまいます)


 そう話しているうちにもレイヤーの手はスラスラと楽譜を写していく。静かな館内には紙を捲る音とペンが机を叩く音だけが空間を支配している。


『まあ、楽譜集めも慎重にな。《《あいつ》》もお前なら大丈夫だろうが、あまり一緒になって危ない事に首を突っ込むことはやめてくれよ』

(その渦中にいる人に言われると、説得力がありますね)


 男が苦笑いするのにレイヤーがつられて苦笑する。一瞬、会話にできた隙に男は立ち上がり、椅子を仕舞う。


『さて、そろそろ失礼する。あまり長くいるとうちの団長に怒られるからな』


 男はかぶっていたフードをさらに目深に被ると、出口へと向かっていった。


『じゃあな。第八の音(レイヤー)

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