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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第3楽章 失われた楽譜の行方は
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3-2 各々の目的

 メルディナーレはこの大陸でもっとも大きな都市である。様々な組織の本部が居を構えており、楽士隊組織連合の本部もここにある。


 荷馬車護衛完了の報告と、ダルンカート劇場の惨劇、またコダの街で起こった襲撃事件の連絡を行うため、一行は荷馬車と別れた後で本部へと向かった。


「本部は大通り沿いにあるし一緒にいるうちは大丈夫だけど、一人で歩き回る時は迷わないように気を付けてね」


 レイヤーとカノンは何度かメルディナーレに訪れたことがあるので、淀のことがない限り迷うことは無いが、タクトとティファは初めて、しかもコダの街に比べて遥かに大きい街である。何かと面倒になる前にとカノンは二人に釘を刺した。


「え、ああ。……わかってる」


 当のタクトも田舎者丸出しでキョロキョロするのかと思っていたが、むしろコダの街に比べて聞こえてくる喧騒のやかましさに興奮する気になれず、ティファと揃って本部までうつむいたままだった。




「え、大まかな話は速鳴はやなり(電話のようなもの。特殊な楽器で行われる)で聞いてますので」


 レイヤーたちは本部に到着し、一連の報告を行った。


 コダ楽士団から引き継いだ依頼も元の楽士団であるカノンがいたおかげでスムーズに行うことができた。


 一応気にしていたパイプオルガンの弁償や、帝国との関わりが深そうな楽士たちの話もすんなりと受け入れられた。だが、特に心配していたような事態になることは無かった。弁償は『経年劣化』と言われ、帝国関与は『最近、帝国の動きが活発だから』程度で収まってしまったからだ。


「え、帝国は最近になって設置型に関わらず強力な楽器を探し回っていると報告がありましたから、何らおかしな点はありません。引き続きかの国への警戒は続ける方向ですし」


 さらにあまり期待していなかった依頼料も全額出たは出たのだが、それについてレイヤーが一言添えた。


「依頼料の半分はコダの街にいるコダ楽士団へ振り込んでいただけませんか? 仕事ができなくなって、きっと困っているはずですので」


「え、ええ。それは構いませんが……」

「それより、頼んであった別件の許可。私はこちらのほうが気になっている次第でして」


 レイヤーは懐から一枚の申込書を出しながら受付の人と話を進める。


「え、っと…… ああ。中央楽譜資料館の閲覧許可申請をしておられたレイヤーさんですね。少々お待ちください」

「……どこにいっても楽譜、楽譜なのね。この団長さんは」


 カノンは心の中で、さっきの報酬の折半で上げた株を同じくらいに引き下げながら呟いた。


「え、ええ。許可、出てますね。持ち出しは禁止ですけど、入館と退館の際に確認をしてもらって下さい。場所、分かりますか?」


 一瞬動きが止まったレイヤーは、ひどくゆっくりとした動きでタクトたちに向き直った。


「皆さん、私はしばらく資料館の方に行ってます」


 その顔は、はち切れんばかりの笑顔だ。


「恐らく二、三日はここに留まることになりますし、宿の手配もいるでしょう。そっちはお任せします。それが確保でき次第、夕方あたりまでは自由にしていただいて構いませんよ」

「りょーかい。その資料館にお目当ての楽譜があるのね?」

「もちろん! かの神が愛した旋律サレインズ・フルスコアの第一楽章と第三楽章があるのです! ぜひ目を通しておかねば! あとできたら写譜も……」


 なるほどそれは目の色が変わるわ、とカノンも納得した。


「あ、そうだ!」


 お目当てのモノ、という言葉を聞いてタクトも受付カウンターへ乗り出す。


「あの、人を探せますか?」

「え、依頼ですか?」


 突然の話に、受付の女性も戸惑う。


「いや、そうじゃないんですけど、組合に所属している人が今どんな依頼を受けているか、どこにいるかが知りたくて」

「え、ああ。所属楽士の状況確認? 失礼ですけど、その方はあなたと同じ楽士団の方ですか?」

「あ、それは…… 違います。一応、父なんですけど」

「え、ご家族ですか。それなら、少しはお伝えできるかもしれません。公開範囲は狭まりますけど」


 女性はそう言うと奥に向かい、大きな書類の束を持ってきてカウンターに並べる。


「え、お名前、分かります?」

「タギング! タギング・スタッドカートって言います!」


 その名を口にした瞬間、受付の女性は明らかに顔をこわばらせた。


「……え?」


 持ってきた資料から情報を調べるまでもなく、女性は別の場所にあった資料を手に取り、ため息交じりに話し始めた。


「え、現在はとある楽士団の任務(・・・・・・・・・)に、特別調律師リチューナーとして参加している…… と言うところまでしか、こちらもお伝えすることができません」


 カノンはぞっ(・・)とした。


「ちょっと待って。何で、戦争も終わって平和になりつつある世界に、そんな公開情報しか出せない任務が存在しているんですか!?」


 カノンのまくし立てに、女性は黙ってしまった。それほど秘匿情報が多い事項なのだろう。


「……生きては、いるんですね」

「え、はい。それは間違いありません」

「じゃあ、今はそれでいいや。ありがとうございます! レイヤー、宿の予約取ってくる!」


 勢いよくお礼を言って、タクトはカノンの手を引いて外へと向かっていった。


「タクト…… くん」


 普段の行動から突然の豹変に、さすがのレイヤーもその場から動けないでいた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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