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天奏楽士はこの旋律を空の彼方へ届けたい  作者: 国見 紀行
第3楽章 失われた楽譜の行方は
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3-1 世界の成り立ち

 創造の神サレインは、その重き音を大地に、高き音を空に変えた。

 その他の余多なる音どもは、様々なそれらとを混ぜ合わされ、植物や動物を創り出した。

 最後に人間を創った神は、生み出したモノたちに伝えた。

「世界の全ては音によって創られている。音を生み出すことは、新たな命を生むがごとし。ならば、究極の旋律を求めよ。それはあらゆるよこしまなるものを退ける道標となるだろう」




「創世神話の一節ですね」


「ええ。この言葉通り人々は究極の楽曲…… 演奏を求めて人々は楽器を作り、曲を紡ぎ、奏者を集めることになるんです」


 レイヤーは、懐から紙束を出して二人の前に突きつける。


「そうして作られたのがこの神が愛した楽譜(サレインズ・スコア)です!」


 岩肌むき出しの道を通る馬車の中、がたがたと揺れる中でレイヤーが掲げた譜面集の表紙には『第六楽章:故郷』と書かれていた。先日タクトが発表した曲の大タイトルだ。


サレインが一番最初に生み出した人類である〝第一の音(チューリン)〟たちは今の我々と少し違い、小柄で手先もそれほど器用ではありませんでした。ですが楽器を演奏するための身体能力フィジカルはそれは素晴らしく、特に横笛からの高音域の演奏を得意としていました。編み興した楽曲である『第一楽章:序曲』さいしょのサレインズスコアは、当時まだ天奏楽士の枠組みがない中ではあったものの、最高の奏者たちが曲を奏でたと言われています」


 かくして、第一の音(チューリン)たちは『第一楽章:序曲』さいしょのサレインズスコアを完成させた時に、その邪なるものが現れる。今から十五年前にも姿を現した音怪の君主ロード、『コーディルス』である。コーディルスは人々が繁栄を極めんとする時代に現れ、各地に存在する多くの音怪を従えて人々を取り込もうと襲い掛かってくる。彼らはより純度の高い音を取り込み、肉体を得て、この世界の新しい住人になり替わろうとするのだ。


「残念ながら第一の音(チューリン)たちは敗れますが、君主コーディルスも滅びます。残された僅かな第一の音(チューリン)の生き残りや散っていった音怪たちはいったん鳴りを潜めますが、神はまた新たな人類を弾き出すのです。そうやって第二の音(フィグリグ)たちが生まれ、さらに新たな楽章スコアが作られ…… と続いていくのです。ところが――」


 そこまで話した途端、馬車がガクンと大きく揺れると同時に停車する。馬のいななきが響くと同時に御者の方から怒声が放たれた。


「出番だ、おたくら! 一丁払ってくれ!」


 聞こえるやいなや、まず飛び出したのはカノンだった。取り回しの大きな楽器は、いちばん最初に出るのがセオリー。次いでタクト、レイヤーが出る。


「前方目視にて対象を確認! 中級の獣形音怪が二体!」


 カノンはそう宣言すると、基準音チューニングサウンドを吹きながら周囲をぐるりと見渡した。低音の基準に合わせるのは音怪と戦闘する際の開始作業ルーティンだ。


 基準音がそれぞれのイヤリングを通して、外の環境を把握する。楽器は高音のものほど環境によって音が変わるので、それらにあまり左右されない低音楽器の奏者が率先して行うのが定石になっている。


「他にはいなさそうですね、それでは…… 『前進は勇気と共に』!」


 レイヤーは二人に『前進は勇気と共に』の演奏指示を出す。対音怪戦闘において展開されるポピュラーな曲である。


 まずは基準音を演奏していたカノンが、その音域のままテンポ良く音を刻み始める。軽快な間隔で刻まれる音の塊が音怪たちの足を乱し、逆にレイヤーたちの動きがよりシャープになる。低音リズムがワンフレーズ終わると主旋律のクラリネットがまさに歩き出した勇者たちを表現した曲調を描き、今まさに飛びかかろうと構えていた音怪へ先制の一撃をお見舞いする。


 だが明確なダメージを与えるに至らなかったようで、もう片方の音怪が仲間の負傷に目もくれずにこちらへと駆けだす。だが、それはタクトの構えから放たれた旋律によって瞬く間に音のかけらへと変えられてしまった。


 レイヤーの攻撃を受けて下がっていたもう一体も、対象をカノンに変えて突進するも、レイヤーとタクトの和音の壁に遮られ、あっけなくそのいのちを断ち切られてしまった。


『すごいね、みんな。タクトなんか、少し前に比べたら随分うまくなったし』


 馬車の客席からティファが声をかける。


「こんなもんよ。人数の多い楽士団なら、攻撃のいとますら与えないわ」


『まあ、私が出るような敵じゃなくてよかったわ』


「何を言ってるんですか。あなた(ティファ)が出るような敵は当分出ないですよ。楽機ミュージリアはいわば兵器。よほどのことがない限り楽士わたしたちは《《あなたたち》》を使いませんからね」


 自覚してください、と一言添えて、レイヤーはもう一度あたりを見渡す。


「音怪はもういないようですね。っと、もうここまで来ましたか」


 あたりはまだ森が続いているが、随分と山から下りてきた場所まで来ている。日も傾き始めていることから、今朝の出発した時間を考えるともうすぐ目的地メルディナーレに到着する頃だろう。


「ああ。街が近くなると音怪も増える。これでも以前よりは発生も少なくなった方だ」


 御者は手綱を整えながらレイヤーに声をかける。出発の準備も整ったようだ。


「あ、そうだティファさん。お願いがあります」

『はい、なんでしょうか?』

「街に入ったら、というか当分の間、あなたは喋ってはいけません。喋れることを伝えないでください」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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