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 近しい者ばかりの集まりということで、そこまで時間や席次に厳密な決まりはないらしかった。とはいえ王族ではないネアーン伯爵やアーガイル公爵は謙譲の表れとして早めに入室していたようだった。

 カイウスとモードウェンも席につき、それほど時間も経たずに第一王子イーノスと第一王女プレシダもやってきた。プレシダは婚約者ディーンを伴っている。

 それで今回のお茶会の出席者が揃ったことになる。イーノスとプレシダは顔を知っているので――あと、眩しくてあまり見ていたくないので――モードウェンは他の三人に目を向けた。

 プレシダの隣に座るディーンは、どこか陰のある美青年だった。ダークブロンドの真っ直ぐな髪に端正な顔立ち、物静かな印象だ。

 その父であるアーガイル公爵は、息子とは逆に活動的で野心的そうな印象の人物だ。磊落に笑いながら、横に座るネアーン伯爵に話しかけている。

 ネアーン伯爵はキースに似た印象の、やや痩せぎすで生真面目そうな男性だった。控えめに相槌を打ちながら公爵の話を聞いている。

(王子王女三人に、公爵とその息子と伯爵、そこに国王陛下が加わるわけね……)

 出席者は多少入れ替わるらしいが――今回モードウェンが参加するように――、だいたいこの七人が中心となっているらしい。キースが亡くなったのは夏、そのあたりから顔ぶれに大きな変化は無いそうだ。

「やあ、よく来てくれたね」

 全員にお茶が行き渡ってお茶会が始まると、イーノスがモードウェンを歓迎してくれた。第一王子として、不在の国王の代わりとしてこの場を取り仕切るということだろう。

「お招きにあずかり恐縮です」

 目を伏せて楚々と返答しつつ、自分は招かれたのだろうかとモードウェンは心の中で首をひねった。連れてこられたとか、しゃしゃり出たとか、そちらの方が正しい気がする。

 そんな内心などもちろん知る由もなく、イーノスは続けた。

「兄君はお元気かな。彼とは学友だったんだよ。懐かしいな」

「! 殿下が、兄と……?」

「以前、王宮に長期滞在していた法律家がいてね。彼とともに教えを受けていたんだ。むしろ私が弟弟子かな」

 二十代半ばの兄は、イーノスよりも少し年上だ。年齢的にはそうなるのかもしれないが、畏れ多い。そういえば第一王子は社会学系の学問に秀でていると聞いていた。兄は法律家だし王宮滞在経験もあるが――デビューの前後に一年くらい滞在していたはずで、それを済ませてからも数か月ほど滞在する機会があった――、だからといって王子と知己だとは知らなかった。

「さいきん顔を合わせる機会がないのですが、手紙では元気そうでした。殿下がお気にかけてくださったとお伝えしておきます」

「…………うん、よろしくね。ところで、君も法律に明るいのかな。喪服姿のデビュタントを見たときは驚いたけど」

(第一王子殿下もご存じだった……)

 モードウェンは思わず瞑目した。プレシダもそうだったが、あれほどの人の波の中にありながら第一王子も第一王女も下々のことをずいぶんよく見ているものだ。

「なに、喪服だと?」

 公爵が顔をしかめた。伯爵も驚いた様子だ。イーノスが取り成すように説明した。

「二百年ほど前の古法なのです。当時の女王が王配を亡くした後、生涯を喪服姿で通すと決めたときに改められて、王宮の主要な催事に喪服で出席することが認められるようになったのですが……まさかそれを知っている人がいるとは。そしてまさか、本当にそうする人がいるとは」

「ふーむ、アデリー女王の時代か……」

「そうですか、喪服で……」

 公爵は自分の知識をさりげなく披露するように、伯爵は自分のこととして思案するように、それぞれ言葉を発した。自分から矛先が逸れたことにほっとするが、プレシダが面白そうにこちらを見ていることに気づいてまた緊張がぶり返した。

「思いが通じたのね。よかったじゃない。そういえば弟がこのお茶会に恋人を連れてくるのって初めてかもしれないわ」

「ほう。未来の王子妃候補ですかな」

 プレシダが猫のように目を細め、公爵がその言葉を受けてじろじろとモードウェンを眺める。居心地が悪いことこの上ない。

「いえそんな、滅相もない……」

 お茶の味が分からないが、緊張しているという言い訳で食べ物に手をつけずに済みそうだ。スコーンだのサンドイッチだのと美味しそうなものがいろいろと並んでいるが、毒入りかもしれないとカイウスに脅された後だ。いろいろな意味で食欲が失せている。

(頼むから話題……! 私から離れて……!)

 心の中で祈るものの、プレシダは面白がっているし、カイウスも面白がっているし、イーノスも穏やかに話を振ってくるし、逃げられない。毒殺の犯人を探そうと思ったのだが、とてもそれどころではない。話題をそちらに向けるどころか、やり過ごすので精いっぱいだ。

 そんなふうにしてお茶会は終わった。


「で、どうだった? 疑わしい人物はいたか?」

「……分かるわけがないでしょう?」

 お茶会をなんとか終えて双樹宮の自室に戻り、長椅子の肘掛けにぐったりと頭を伏せながらくぐもった声でモードウェンは答えた。

 カイウスは涼しい顔でくつろいでいる。彼にとってはお茶会も日常の一つなのだろうが、モードウェンにとっては非日常ここに極まれりだ。まだ目がちかちかしている気がする。

「そうか、残念だな。君の霊能とやらで何か見えたりしなかったか?」

「……それを期待なさるなら、こう言っては何ですが殿下は邪魔です。王族の方の存在が強烈に眩しくて、幽霊は近くに来られません。形を取るまでに至らない思念……生者のものも死者のものもありますが、それも見えません」

「……そうなのか? そういえば、王族の逸話の中に悪霊退治の話もあったな。箔付けの作り話だとばかり思っていたが、案外事実だったりするのかもしれないな」

「ありえそうです……」

 王族こわい。ともかくも、今更ながらモードウェンは納得する。キースが庭にいたのは、王族たるカイウスに憑くことが不可能だったからなのかもしれない。……それとも何か、他の理由があるのだろうか。

「ところで殿下、キース様はもちろん医者にかかられましたよね? 病気と診断なさったのは王宮の医者ですか?」

「いや、伯爵家の侍医が診たはずだ。彼は私にとっても大切な存在だから王族の侍医に診せようかと提案したのだが、断られた。だから覚えている。……まさか伯爵が意図的に隠したのか……? 彼はキースが毒で亡くなったことを知っていたのか……?」

 話が不穏になってきた。モードウェンはこくりと喉を鳴らした。

「確かめてみよう。そのあたりはまだ手つかずだ。なにかと忙しかったからな」

 確かに、モードウェンが関するところだけを見ても引っ越しだの作法の教育だのお茶会だのと色々あった。そのあたりを管理しつつ、カイウスは自分自身の執務など日常のこともあったはずで、さらには不在の国王の穴も埋めていたのだ。キースのことよりも彼の警告、自分や周りの人々の安全管理に気を払う必要もあっただろう。……それは忙しいはずだ。

 だが、その忙しさを悟らせずにカイウスは身軽に腰を上げた。上着を羽織り、モードウェンを促す。

「そうと決まれば、行くぞ」

「…………」

「行かなくてもいいが、解決が遅れると君の帰郷も遅れるぞ」

 それは困る。モードウェンは疲れた体に鞭を打って立ち上がった。

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