27
それから改札を通ると、雲へ昇るような不思議な階段があり、それを登ると彼らはホームに出た。
そこからは青空と雲しか見えず、ホームは空中にあるようだった。
そしてしばらくすると、その一九六四年行き「特急オリンピア号」が見えてきた。
空中に線路があったのかどうか、彼には記憶がなかったが、説明のしようのない形の機関車に引かれ、列車は滑るように入線してきた。
引かれる客車は深緑色で黄色いラインが入っていたが、それ以外、彼には記憶がなかった。
客車の中に入るとマホガニーの壁とクリーム色の天井があり、家具のような座席は房咲水仙をあしらったうす紫色のシートだった。
そして窓からも青空と雲しか見えなかった。
しばらくして、他の魔人たちもちらほらと乗ってきた。
いずれも、王侯貴族とでも言うべき出で立ちで、それに比べるとみすぼらしい姿の彼らをその「貴族」たちはじろじろと見た。
電天様はそんなこと気にも止めず、木札に書いてある訳のわからない文字を見ながら、ひいふうみと数え、自分たちの席を見付けた。
「指定席じゃ。お前さんの席はここじゃ」
「すごく豪華ですね」
「この列車に乗れるのは、時を越える資格を持った者だけじゃ。魔人の中でも特権階級の連中じゃからな」
「だからみんなあんなに着飾っているのですね」
「そうじゃ」
「もうちょっとましな格好をしてくれば良かった。昨日から着たままの服だし」
「気にするな。関係ないわい」
「でも、時を超える資格って、どうしてそんなに厳しいのですか?」
「時を超える、とりわけ過去へ行く場合は、とても厳しい条件が課されるのじゃ。じゃが、詳しいことはさておいて、本当の理由はじゃな。奴らが既得権益を守ろうとしておるに過ぎん。過去へ行ける利権を独占しておるのじゃ」
「独占すると、どうなるのです?」
「未来の情報を過去へ持って行き、一儲けをたくらんでおるらしいのじゃ」
「そんなことを…」
「厳しい条件厳しい条件と言いながら、既得権益を持った連中が時を旅する者のルールを破りおる」
「時を旅する者のルール?」
「そうじゃ。じゃからこれだけは覚えておくが良い」
「はい」
「これからお前さんは過去の人物に合うことになるが、決してその人物に未来のことを喋ってはならん。そんなことをすると…」
突然、「ゴトン」と音がして、列車が走り出した。
同時に窓の外が星空になった。
「とにかく、その人に未来のことを喋るんじゃないぞ」
「わかりました」
それから彼らは眠くなり、そのまま眠ってしまった…
〈みなさまおはようございます。列車は現在、時刻表通り1965年付近を走行しています。もうしばらく致しますと、終点の1964年、東京オリンピックの年に到着いたします。どなた様もお忘れ物のないよう、お支度ください〉
列車の車内放送に、彼らは目覚めた。
そのとき彼は、物凄く長い時間眠っていたような感覚に襲われた。
それから少しして、列車は1964年の正月に到着した。
ホームに降りると、とても寒かった。
そして彼らはローカル線に乗り換え、同じく1964年の初夏に到着した。
そこはとても暑かった。
「さて、ここからは空間移動じゃ。わしの得意技じゃ。これからわしが言っておった、その人に逢える場所まで、お前さんを連れて行ってしんぜよう」
どろん!




