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 そんな訳でそれからとんとん拍子に話が進み、数日後、監督の話を丸ごと鵜呑みにした球団幹部は、彼とサクサク契約を交わした。ちなみに年俸は、彼が水魔人だった頃の最高額とほぼ同額だった。

 それから彼は一旦地元へ帰った。

 こんなときくらいリッチな気分を味わおうと、彼は18時03分東京発「寝台特急富士」のシングルデラックスを利用することにした。

 彼の乗った個室のテーブルには、浅草今半の牛肉弁当が置いてあった。そして彼は、黄昏時のビルの明かりを車窓に眺めながら、プシュッっと缶ビールのプルリングを…


 かつての「水魔人」、池乃下球場を本拠地とする球団と契約

 大雨男として一世を風靡した伝説の投手の復活だ!

 しかしドームで雨を降らせてどうするつもり?

 まさか地下ドームを水没させ、ノーゲームに持ち込む計画では?


 無責任な記事に球団幹部も苦笑した。まあ言わせておけば良い。

 とにかくこの魔球について、球団としては極秘事項とし鉄のカーテンが引かれた。そして彼自身は地元でじっくりと調整することとなった。

 なんたって魔球は甚平さんの大根畑で練習出来る♪


 翌年のキャンプでは彼はランニングや筋トレや、投内連係などのメニューが中心で、あとは甚平さんの大根畑へ直行した。ただし報道陣をシャットアウトするため、畑の周囲はブルーのシートで覆われた。

 甚平さんは「畑の日当たりがてげ悪くなるかいやめちくれ!」と、文句をたれていた。

 そしていよいよ球春。東京へ向かうという数日前、彼はこれまで世話になった人々にお礼の挨拶回りをした。

 ジムのインストラクター、バレーのコーチ、トランポリンの先生、長い坂道の上にあるホルモン焼き屋の親父、港の市場の親父、そしてとび職の親方。

 親方は嬉しそうで少し寂しそうな表情で一言、「もう一度地獄を見て来い」と、嬉しそうに彼を送り出した。


 そしていよいよ彼が旅立つ日。

 仕事を終えたニッカボッカ姿のとび職の仲間らに見送られ、彼はひとり、在来線寝台特急で東へ…

 ところで球団はオープン戦直前になって突然、池乃下球場の大規模な工事をやると言い出した。

 例の「地下ドームを水没させる」といういかれた新聞記事を真に受けた球団幹部の一部が大層心配し、「排水設備の大幅な強化を行う!(きりっ)」と言って、そういう工事が開始されたのである。

 だからオープン戦はすべて他の球場で行われた。即ち、その間彼の出番は無し。

 そしてシーズン開幕。

 かくして「魔球スパイク」はぶっつけ本番となってしまった。

つづく

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