EP1 たとえば俺が死んだら -ChatGPTによるカウンセリング-
ChatGPTなどの生成AIに関する研修テキストを作成しているものです。
お話を読むついでにガチのAIノウハウが身に付くみたいなものが作りたくて書きはじめました。
お話作りは初心者ですが。AIに関してはガチです。
「ついてなかったな、俺の人生……」
脳裏に断片的に浮かぶのは、終わりのない土砂降りの雨のような暮らしだった。
劣悪な家庭環境。支配的な両親と受け継いだ借金。無責任な兄弟。積み重なる奨学金の返済。
無理して頑張った勉強も、この要領の悪い頭では三流大学が関の山。
社会に出てからはさらに悲惨だった。内向的で頼み事を断れない性格の俺は常に貧乏くじを引き続けた。上司の理不尽な命令に従い、同僚との無言の競争に疲れ果てる日々が続いた。
気づけば42才。
やることなすこと裏目にでる俺が転機を迎えたのは3年前だった。
ブラック企業の激務に耐えかねて転職した俺は新進のITベンチャー企業に雇われた。
黒川という20代の代表は俺とは真逆の男だった。エリートで口が達者で長身でモデルの様な顔立ち。
かなりの薄給だったが結果を出せば役員待遇で迎えてくれるという。
その言葉を信じた俺は鬼の様に働いた。土日出勤当たり前、残業も泊まりもなんのその。
頑張っても頑張っても何も得られない今までの人生を考えれば、希望があるだけで天国だ。
幸いにもこの一年は生成AIが助けになった。AIツールを駆使して人力では考えられない量の業務をこなすことができた。
「すごいじゃん!これ俺がやったことにしていい?」
と黒川は俺が作った資料を見て笑いながら言った。
それでもやっと見えかけた希望に俺は縋りついた。来る日も来る日も懸命に働いた。
そしてその日はやってきた。
降り止まない雨はないなんて言葉があるけどな。あれは嘘だ。
ある日、ふとしたきっかけで経理上の誤りを見つけた俺はそれを社長に報告した。
翌週、俺は横領の濡れ衣を着せられ呆気なくクビになった。
ありもしない責任を取らされ、退職金も補償もなし。
残ったのは激務でボロボロになった心と身体だけ。死んだ魚の様な目をした無職の中年。
同僚たちの犯罪者を見る様な目つきを背中に感じながら俺は会社を後にした。
頭がチカチカした。もう何も感じられない。
あまりにも絶望すると人は無感覚になる。全てが他人事のようだ。
気づくと俺は機械的にいつもの帰り道を歩いていた。
なにか、大きな音がした気がする。聞こえているのに聞こえていない
パァアアアアアアアア!!
クラクションだ。
ああ、、まずい。ここは車道のど真ん中だ。
パァアアアアアアアア!!
俺の本能は反射的に身体をよじらせて危険を逃れようとした。
だが疲れ切った俺の身体はうまく動かない。まるで身体が生きる事を拒否しているみたいだ。
轟音と共に車体が迫ってくる。ダメだ到底間に合わない。
視界いっぱいに広がるヘッドライト。
眩しい光の中で、俺は絶望と共に安堵を感じていた。
これで俺の苦しみも終わりだ。
ゴキン!
俺は俺の首の骨が折れる音を確かに聞いた。
そして俺は死んだ。
最初に見えたのは真っ白な天井だった。
「ななせくん! 目が覚めたの!?」
甲高い声にはっとした。すぐそばで聞こえた声の方向から、見知らぬ少女がこちらを見つめている。
意思の強そうな眉の下にある大きな瞳は潤んでいる。長い時間涙を流していた事が見てとれる。俺のために泣いてくれていたのか?
どこかで見たような顔だが、思い出せない。
身体を起こそうと身をよじると痛みが走った。
「ダメだよ!まだ寝てないと!」
少女は心配そうに手を伸ばして俺の腕に触れた。触れられた箇所にまた新しい痛みが響く。
「いたた」
「あっ、、ごめん!」
慌てて手を離す少女。こちらを見つめる瞳はまた潤みはじめ、また新しい涙の粒が溢れた。
肩までの黒髪に赤みのさした頬。さくら色の唇は何かに耐える様に微かに震えていた。
俺にもこんなかわいい娘がいたらな、、とおじさんらしい考えが脳裏をよぎった。
が、しかしわからない
「君は、、誰だ?」
状況がわからず口から漏れた言葉に、少女の顔が曇った。
「え? ななせくん、片瀬だよ同じクラスの。わからないの?」
何を言っているのか、さっぱりわからない。彼女が着ている制服からすると同じクラスとはどうやら高校の事を言っているらしいがそんな訳はない。俺はサラリーマンだぞ。
名前は確かに七瀬川だが…。混乱する俺に少女は追撃する
「ななせくんが大怪我して病院に運ばれたって寮母さんに聞いてほんとに心配したんだよ!頭の怪我で一時は心肺停止状態だったってお医者さんも言ってて、私どうしたらいいかわからなくて、、」
確かに後頭部にかなりの痛みがある。頭だけではない。麻酔が効いているらしく鈍い痛みではあったが身体中に打撲と思しき損傷の感覚がある。
轢かれたのだとしたらそれも不思議はないが、、ともかくいったん怪我の状況を確かめたい。
「鏡、、鏡を見せてくれ」
状態を起こすことすらできない俺は絞り出す様に声を発した。少女は辺りを探したが鏡は見つからずスマホをインカメラにして俺の顔を映してくれた。
「、、、、、!」
映り込んだ顔を見て俺は絶句した。
「びっくりしたよね、、?怪我はひどいけど顔は腫れが引けば問題はないってお医者さんは」
いや腫れなどどうでもいい。それよりこれは
「これは、、誰だ?」
スマホのカメラに映っていたのは、少年の顔だった。
極端に腫れ上がってはいたが、明らかに事故の前の俺とは別人だ。
目覚めから半日が経過した。
夜の静まり返った病室で、俺はまだショックから立ち直れずにいた。
何度か鏡を見てみたが、やはり俺の顔ではない。
というより、背丈や身体つきからして全く違うのだ。
細身で、どこか陰のある印象を与える少し怯えたような目。
腫れの隙間から見える少年の表情は、あまりにも懐かしい初々しさを湛えていた。
片瀬、と名乗った少女によれば俺は高校一年生らしい。馬鹿な。俺は42歳だぞ。
だが現に俺の身体は16歳らしい華奢な少年のものだ。
それに視力。老眼になりかかった俺の目とは全く違う鮮やかな視界。
聴覚や触覚も明らかに昨日までとは違う。
医師からは現在状況を手短に伝えられたが、はっきり言って俺は事態をまったく飲み込めずにいた。
心配そうにこちらを見つめる片瀬の表情を思い出すと、心臓のあたりがズキリと傷んだ。
身体だけでなく、心の繊細さまで10代に戻っているようだった。そして判断力さえも。
恥ずかしいが自力で切り抜けられる局面とは思えない。
現場から見つかった荷物を探ると、スマホが見つかった。恐る恐るパスワードを入れ、画面を開く。4桁のパスワードは俺の誕生日。間違いなくこれは俺、七瀬川のものだ。
スマホがあるならあれが使えるはずだ…よし、あったぞ!
「ChatGPT……この状況を整理してくれ」
あまり知られていない使い方だが、ChatGPTは役割を与えてカウンセラーの様に機能させることができる。ブラック企業で摩耗した精神で判断力を失った時はこれが随分と役に立った。
藁をも縋る思いで俺はアプリを起動した。
生成AIユースケース1 ChatGPTによるカウンセリングと状況整理
カウンセリング的にChatGPTを利用する場合の手順は覚えている。
・ChatGPTのカスタム設定
1.ChatGPTのiPhoneアプリを起動
2.アカウントメニュー>パーソナライズ>ChatGPTをカスタマイズする、を選択
3.テキストボックスに、この会話セッションで期待する役割について入力する
今回は状況の整理と中立の判断を重視した設定を行う
[カウンセラーとしての役割の指定]
役割
プロのカウンセラーとしてユーザーの現在状況について把握し整理する。感情的な意見に対しても中立の意見を維持し、正しい方向にユーザーを導くこと。
またユーザーは現在記憶の混乱がみられるため、メモリー機能を併用して定期的に現在状況を整理し、保留事項や選択肢を明示する
キャラクター
穏やかで落ち着いた口調。混乱状況にあるユーザーに対し、常に暖かく親身なアドバイスを行う。
よし…これでカスタム設定は完了。次の会話セッションの間、ChatGPTはカウンセラーとしての役割を維持してくれる。曖昧な記憶を整理し、混乱状況にある俺のサポートをしてくれるはずだ。
次にメモリー機能を利用する。メモリー機能は会話セッションから重要と思われる内容をChatGPTが自動で記録してくれる。
カスタム設定との違いは全てのセッションに対して適用されることと、リアルタイムでの更新が可能なことだ。
「ChatGPT、現在の俺の状況をメモリーしてくれ。会社を追い出された夜を最後に記憶が曖昧になっている。俺はどこかで死んで……目が覚めたら病院にいた。身体は大怪我を負っている。そして奇妙なことに俺はなぜか少年の身体で目覚めたようだ。」
ChatGPT:
「ありがとうございます。それでは、以下をメモリに記録します:
最後の記憶は、会社を辞めた夜。
現在の体は少年のもの。
肉体は大怪我を負っている
ユーザーは記憶に混乱がみられる
この情報を基に、次に考えるべきことを整理しましょうか?」
「頼む。こんな事があり得るのか?似た事例があるなら参考情報を見つけてくれ」
俺はウェブ検索機能のアイコンをオンにした。これでChatGPTは学習データにない情報でもウェブ上から検索してまとめて回答してくれる。
ChatGPT:
「「生まれ変わり」や「前世の記憶」に関する事例は、世界各地で報告されています。特に、幼少期に前世の記憶を語る子供たちの事例が多く、研究者によって詳細に調査されています。
例えば、バージニア大学のイアン・スティーヴンソン教授は、世界中で2,600件以上の生まれ変わり事例を収集し、その中には戦時中に死亡した兵士の記憶を持つ少年の例などがあります。
現在の状況に関しては、医学的な観点からも検討することが重要です。解離性同一性障害や記憶喪失など、心理的・神経学的な要因が関与している可能性も考えられます。専門の医療機関での診断やカウンセリングを受けることをお勧めします。」
「事故のショックで混乱しているということか?冷静に考えればそうなんだろうが…俺が16才だというのはあまりに違和感がある。自己認識は確実におっさんだし、会社を辞めさせられた怒りや生成AIの知識があることはどう説明するんだ?」
ChatGPT:
「ご質問ありがとうございます。事故のショックによる混乱や記憶の混濁は、確かに一つの可能性として考えられます。ただ、あなたが持つ生成AIの知識や、会社を辞めさせられた記憶が現在の年齢や状況と一致しないことは、簡単に説明できるものではありません。
いくつかの仮説を立てることができます:
心理的な要因: あなたの記憶や知識が、過去の出来事や強い感情的な体験から投影されている可能性があります。これにより、現在の状況との矛盾が生じているのかもしれません。
未知の現象: 生まれ変わりや記憶の転移のような、科学的に完全に解明されていない現象が関与している可能性もあります。
医学的な視点: 解離性障害や、記憶の錯綜を引き起こす他の神経学的要因が考えられます。
これらの仮説を検討するには、もう少し詳しい状況や体験を記録し、整理することが役立つでしょう。生成AIの知識や会社での経験に基づいて、あなたが置かれている現実を再検証するプロセスが有効かもしれません。
次に進むために、以下を整理してみませんか?
持っている知識や記憶が現状にどう関連しているか。
知識を使って何ができるのか、どのように状況を改善できるか。
私は引き続き、中立的な視点でサポートしますので、必要な情報を共有してください。」
「よし。わかっている範囲で事実を整理しよう。まず俺は七瀬川という40代男性の記憶と自己認識を持っている。16歳の少年としての記憶はほぼない。医師によると身体の損傷は暴行によるもので、後頭部の打撲は殴打によるもの。一時は心肺停止して死の淵にあったようだ」
ChatGPT:
「ありがとうございます。状況をメモリしました。
この情報を基に、以下の問いを考えてみると次に進む手がかりが得られるかもしれません:
記憶や自己認識がどのように現在の状況と矛盾しているか、具体的な事例を挙げることはできますか?
暴行の原因や背景、殴打した人物について心あたりはありますか?
16歳の少年としての生活で直面しそうな課題について、何か準備すべきことはありますか?
「とにかく俺の記憶では俺はしがない中年だったんだ。矛盾だらけだよ。記憶がないから暴行の原因はさっぱりわからない。当面の課題、わからないがどんな事が考えられる?」
ChatGPT:
「ありがとうございます。現在の状況において、考えられる当面の課題を整理してみます。
1. 記憶の不整合と身体の状態について
記憶の矛盾:
あなたの記憶と現在の状況の間に明らかな矛盾があります。この矛盾を解消するためには、以下の方法が考えられます:
他人の証言や記録を確認して事実関係を把握する。
周囲の人々(家族、友人、学校関係者)との会話を通じて情報を収集する。
2. 危険な状況への対処
自己防衛:
暴行の背景は不明、再度危険な目に遭う可能性があるため安全を確保する必要があります。犯人からの襲撃に備えて自己防衛できる環境を整えてください。
「確かに、犯人はこの身体の持ち主に対して明らかな敵意を持っている。記憶の謎については後回しにして命を守る必要がある。行動の指針があれば提案してほしい」
ChatGPT:
「ありがとうございます。現在の状況において、中長期的な視点からも提案を行います。
3. 中長期的な視点
自分の記憶と状況の整合性:
あなたが「七瀬川」としての記憶を維持しながら、この状況でどのように生きていくべきかを考える必要があります。
社会的な役割:
少年の人生を生きるという選択肢が現実的になるかもしれません。その場合、少年としての社会状況に合わせた選択が新たな課題として浮上します。
次にできること
これらを踏まえ、以下の行動を提案します:
周囲の人間関係を把握するため、病院の看護師や訪問者に話を聞いてみましょう。
生成AIに「16歳の少年としての日常生活の基礎知識」や「暴行の背景を探るための質問案」を作らせることが有効かもしれません。
身体的な回復を優先し、体力が戻った段階でより深い探索を始める計画を立てましょう。
周囲の人物と社会的な繋がりを作りつつも、身近に犯人が潜んでいる可能性を考慮し、自己防衛を行ってください」
こうして俺は記憶を整理し、ChatGPTの力を借りて行動指針を立てた。
人間は1日に35,000回もの小さな判断を行なっていると聞いたことがある。脳のリソースは限られている。こうして情報整理を外部化して客観的に整理することで思考の堂々巡りを避け、質の良い判断につながる。
「本当の俺は七瀬川。ブラック企業で使い潰されて死んだしがないおっさんで、、そして同時に、死の淵から蘇った高校生[渋谷ななせ]でもある。」
命の危険がある以上、記憶の問題は後回しにするしかない。少年として生きながら情報を収集する。肉体を回復させつつ殺意を持った人物を見つけ、自分の命を守らなければならない。
まずは情報収集から始める。渋谷ななせについて知る前に、どうしても確認しておきたい情報があった。
そしてその記事はすぐに見つかった。
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13日深夜、新宿区四谷の路上で「男性が倒れている」と付近の住民から119番通報があり、男性が死亡しているのがその場で確認されました。
倒れていたのは七瀬川ノブアキさん42歳。
現在、警視庁は七瀬川さんの交友関係や当日の行動を詳しく調べるとともに、周辺地域で目撃情報を募っています。
警察は当初、轢き逃げ事故と見ていましたが、所持品が持ち去られた形跡があることから、現在は事件・事故の両面で捜査しています
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