未来人の落とし物 その4
俺は冴島薫24歳、小説家志望の冴えない男、大学を卒業して一流企業に就職しようと思ったけどダメだった。どうにも俺は人付き合いと言うか会話をするのが苦手だ。面接で簡単に落とされた。仕方なく三流企業に就職するも長続きはしなかった。だから俺は人と出来るだけ関わらない仕事をしようと思った。それが小説、恋愛ものとかは無理だけど推理ものやSF,それにホラーもいけると思う。
そうは言ってもそんな簡単に小説書いて売れるわけがない。色々と賞に投稿したが尽く落選、当たり前のことかもしれないが甘い世界ではなかった。それでも俺は諦めてしまう程往生際の良い男ではない。俺は絶対諦めない!
諦めないのは良いが、それには先立つものが必要。
つまりお金がない。
働くしかない。
バイトを探すか……
でも……人とは極力関わりたくない!
我儘なのは分かっているけど、
ここ数年、人と関わるのを避けてきたせいでこじらせてしまったようだ。
どうしよう。
そして選んだのはビルの警備員。
これなら関わる人は限られるし、仕事のやり方を覚えればもう話す必要はない。
某製薬会社の警備員をやり始めたのだが、大したことはない、どうせ誰も来やしないのだから楽なもんだ。だ〜れもいない。普通の人なら怖がるところも俺からすれば人が一人もいない。なんて落ち着く空間だと安堵してしまう。
「見回り終わりっと、さ〜仕事をするか!」
警備員の仕事は1時間ごとの見回り、だけど1時間に一回?そんなに回る必要ないだろう。だから勝手に俺は2時間に一回に変えていた。管理表には適当に書いておけばいい。バレやしないさ。
それに俺には小説を書くと言う本業がある。
その時間を使って俺はコツコツと小説を書いていた。
そんなある日の事。
「あぁ!何だこれ?……ひどいな〜」
当直の連絡ノートに落書きが去れていた。
なんとなく開いた最後のページだからしばらく見られることはないだろうがバレたら叱られるぞ!
ま〜俺じゃないし、関係ないか、さ〜見回り行ってこよ〜
その時の俺はノートに書かれた内容を気にしなかった。
ある日、ふとノートの落書きを思い出しノートを裏からめくると前見た時より書き足されていた。そして俺は驚いた。
「おい!これって小説になってないか?」
そこに書かれていたのは、ただの落書きではなかった。拙い書き方ではあるがそこに物語があった。
その日から当直の日には必ずノートを確認するようになっていた。徐々に書き出される小説を読んで舞台はこの製薬会社と言うことが分かった。
物語はこうだ!
ある組織がこの製薬会社の薬品を入手するため、計画を立てるところから書かれていた。泥棒の一味はナイフや拳銃なとの武器の準備に始まり、このビルの見取図を入手する話まで書かれていた。
落書きで書いた小説にしては細かいな。
俺は次のページをめくった。
「とうとう盗みに来るのか!」
泥棒は3人、黒い服装でそれぞれ武器を持ってこの場所に突入する。しかもビルに入って目指すのはこの警備室、ま〜監視カメラのモニターはここにあるからまずはここを抑えて物を探したいのは当たり前か、それでここに侵入して……
さらにページをめくる。
警備室に入った泥棒達は警備員と鉢合わせになり警備員は脳天に一発の銃弾を受けて即死、その後薬を見つけた泥棒はそれを持って逃げて行った。
「なんか……何のひねりもないな。全然面白くないや!」
ポンッとノートをテーブルに置いた。
それからお茶を飲みながら小説を考える。
何故だろうか、今日は集中出来ない。
どうしても落ち着けなかった。
何かを見落としている。
そんな気がしてならなかった。
俺はもう一度ノートを手に取り小説を読み直す。
正直面白くない。淡々と報告書を読まされているような書き方、ただ一つ気になるのは落書きで書いたはずなのに妙に細かく書かれている。例えば時刻、そんな物なんとなく書いたのなら要らないし面倒だから書かない。
「あれ?これは今日の日付じゃないか」
偶然なのか?泥棒が計画している日は今日だった。これだと俺が今から殺されるみたいじゃないか!
一瞬ヒヤッとする。
でもそんなわけがない!
このノートに書かれた内容が今から起きる。チャンチャラおかしいね。そんなこと信じるヤツいるかよ!
俺は鼻で笑ってやった。
俺はノートをテーブルに捨てて見回りの準備をした。
……………▽
次の日、各局のテレビで流れたのは製薬会社の薬品の盗難事件だった。かなり危険な薬品であったこともあり、連日ニュースに流れた。
……
………
…………▽
そして俺はバイトをクビなった。
事件当日、警備員としての職務放棄。
あの日見回りに出た後、そのまま外に出て、その日は薬品会社に戻らなかった。
依頼主からは大目玉をくらい!クビになったが、死ぬよりずっとましだ!
バイトはクビになりまた探さないといけないけど、今は小説が書きたい気分だ!家に帰って執筆執筆!
その後、今回の話を上手いことまとめて投稿、プチヒットではあるけれど、小説家への第一歩を踏み出すことが出来た。




