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思わぬ再会



 今日はスザンヌとナディアの誘いに応じてバルテ伯爵家に訪問する日だ。バルテ伯爵家は初めての訪問であるし、ヴィクトリアはこの日を楽しみにしていた。

 バルテ伯爵家に到着すると、スザンヌとナディア、伯爵夫人とラウルが出迎えてくれた。


「ようこそお越しくださいました。ヴィクトリア様」

「ご丁寧にありがとうございます」


 伯爵夫人に礼をとり、ナディアとスザンヌに挨拶をする。ラウルに目線を向けると、彼は気まずそうに眉をしかめた。その顔が少しスザンヌと似ていて、彼らはやはり姉弟なのだなとヴィクトリアは思った。


「ラウル様、お久しぶりです。無事に帰還され、良かったですわ」

「……ベルトラン嬢。いつかはあなたに失礼な態度を取ったことを謝罪します」


 ラウルが神妙な顔で頭を下げた。精霊の加護を授かってから、こういうことが増えていた。

 これまで受けてきた根拠のない悪評に、自分が傷ついていなかったとは言えない。とはいえ、こうして改めて謝罪をされるのもまた、どこか心に負担がかかるものなのだとヴィクトリアは知った。


「あなたの謝罪を受け入れます。ラウル様」


 ヴィクトリアがそれだけ答える。沈痛な顔をした彼はまた小さく頭を下げた。


「さっ、今日は女性だけでヴィクトリアを囲むのよ。ラウル、あなたは部屋に戻りなさい」


 ラウルの隣に立っていたナディアがラウルに戻るように促し、彼は去っていく。そのままナディアに案内され、ヴィクトリアは庭に移動した。




 庭に出ると美しく整えられた庭園が広がり、庭園の中心にはガゼボがある。ナディアがガゼボでお茶をしましょう、と提案したので、スザンヌと伯爵夫人と共にガゼボのベンチに座った。

 ベンチからは見事な庭園が眺められる。夫人が庭園のこだわりについてヴィクトリアに説明してくれた。夫人はこれまでも夜会で何度か挨拶を交わしたことがある。スザンヌに似た顔立ちで、さっぱりした印象の女性だ。


「ヴィクトリア様。これまで息子と娘が失礼な態度をとっていたようですわね。申し訳ありませんでした。それでもこうして我が家にお越しくださって、本当に嬉しく思います」

「先ほどラウル様から謝罪をいただきました。確かにわたくしに好意的ではなかったですけれど、正直、お二人は陰口を言っていた訳でもなかったので、そこまで気分を害していたということもないのです」

「……そうなんですの?」


 会話を聞いていたスザンヌが意外そうにつぶやく。


「えぇ。あなたは真っすぐな方だわ。嘘の笑顔の裏で毒を吐く方たちよりもスザンヌ様のほうがずっと信用できるもの」


 彼女はヴィクトリアの言葉に心底驚いたように目を見開いた。そしてぱっとヴィクトリアから顔をそらし、黙り込んでしまった。


「ヴィクトリア様、そういえば先日、フロレスの石鹸を購入いたしました。薔薇の花びらが入っていて綺麗だし、香りも素晴らしいわ」

「まぁ、そうですか。有難うございます」


 夫人とにこやかにフロレスの話をしたあと、ナディアとも精霊や教会の話をした。そうしてしばらく三人で歓談している間、ずっとスザンヌは黙り込んだままだった。




 楽しい時間を過ごし、帰る時間になった。

 門まで移動したヴィクトリアは三人と別れの挨拶を交わした。


「また是非いらしてくださいね」

「えぇ、もちろんです。ありがとうございました」


 そして馬車に乗り込んだところで、スザンヌが何か言いたげな顔をしていたことに気付いたが、もう馬車の扉は閉められ馬が走り始めた。

 わざわざバルテ伯爵家に招待してくれたのだから、もしかするとヴィクトリアと話したいことがあったのかもしれない。彼女とは学園でも会えるだろうし、また話を聞いてみようと考えていたところで、アンバーが声を出した。


『ヴィクトリア。へん』

「え?」

『道、ちがうとこ走ってる』


 ヴィクトリアは馬車の窓から外を見る。確かにベルトラン侯爵家へ帰る道とは違うようだ。それに、なぜか同じようなところをぐるぐると回っている。


「道を間違えたのかしら……」

『御者はこわがってるみたい』

「怖がっているの?」


 どういうことだろう。御者に声をかけるべきか迷っていると、ついに馬車が止まった。馬車の扉が開かれ、外を見る。やはりそこは見慣れたベルトラン侯爵家ではなく、小さな屋敷のようだった。

 ヴィクトリアは扉を開けた御者に問いかけた。


「一体どういうこと? ここはどこ?」

「お許しください、お嬢様……」

「すぐベルトラン侯爵家へ戻ってちょうだい」


 御者の顔は青ざめ、ヴィクトリアの問いかけには答えない。外に出るべきではないと思い馬車の中にとどまっていると、屋敷から数人の人間が出てきた。

 ヴィクトリアはその人物を視認し、思わず凝視した。


「よく来てくれたわね、ヴィクトリア」


 そう言って微笑んだのは、どこか少し痩せたように見えるオーレリアだった。牢を出て公爵家に戻ったと聞いていた。なぜ公爵家から出ているのだろう。


「ずっとあなたに会いたかったの。それでここに招待したのよ」

「これでは招待とは言えませんわ」

「ふふ。でもこうでもしないと、あなたとはお話できないでしょう? 精霊術師様」


 首を横に傾け、ふわりと微笑む。彼女の後ろには身なりの良い数人の男が並んでいた。一体彼らは何者だろう。ヴィクトリアが彼らを見ていることに気付いたのか、オーレリアは「あぁ」と声を出す。


「この人たちもあなたに会いたがっていたの。大丈夫よ。この人たちがあなたを傷つけることは絶対にないわ」

「……」

「ずっと馬車にいるつもり? さぁ、おもてなしするわ。中に入って」


 元々、ヴィクトリアにはオーレリアと話したいという気持ちもあった。なぜヴィクトリアに悪意を持ったのかを知りたいとも思っていた。


 きっとヴィクトリアが侯爵家に帰らないことはすぐに発覚するだろう。バルテ伯爵家からベルトラン侯爵家の馬車でここまで来たのだから、待っていれば捜索の手はここにたどり着くはずだ。

 それに、いざとなればアンバーに頼んで移動すればいい。


 もうここに来てしまっているのだ。ヴィクトリアは覚悟を決め、馬車から降りた。




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